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原子力規制庁を「環境省」に任せられない理由

欠ける情報公開への意識

2012年5月 1日 10:50

 原発再稼働を急ぐ野田政権だが、肝心の「原子力規制庁」は発足どころか同庁を設置するための関連法案の審議さえ進んでいない。
 
 政府案は、原子力安全・保安院と内閣府の原子力安全委員会を一体化させ、新たに環境省の外局として「原子力規制庁」を創設するというもの。
 これに対し、4月20日に自民、公明両党が国会に提出した案では、独立性が高い「原子力規制委員会」を設置するとしており、規制庁をその委員会の事務局と位置付けている。

 原発推進の立場にある経済産業省から規制官庁を切り離すという点では同じだが、新組織の位置付けについての考え方はまったく違っている。環境省の外局か、独立した組織か。
 結論から言って「環境省」に原発を任せるのは間違いだ。この省には、もっとも必要な「積極的な情報公開」に対する意識が欠けているからである。

環境省の隠蔽体質
 東京電力福島第一原子力発電所の事故以来、国や電力会社による隠蔽や嘘が、次々と暴かれてきた。とくに情報隠しが常態化していたことに対する国民の不信は深刻で、新たな組織を作ったとしても同じことが繰り返されれば事態は何も変わらない。求められるのは積極的な情報公開だが、「環境省」にはその意思がない。

 環境省のホームページには、情報公開制度について、次のように記されている。
《情報公開制度は「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」に基づき、行政機関の保有する情報の一層の公開を図り、国民に対する政府の諸活動を説明する責任(アカウンタビリティ)を果たし、公正で民主的な行政の推進を目指すものです。環境省においても、法律の趣旨を踏まえ、情報公開を積極的に進めています》。
 
 まず、この「環境省においても、法律の趣旨を踏まえ、情報公開を積極的に進めています」という記述自体、同省にとってはただの"建て前"でしかない。

 これまでHUNTERは、国や地方自治体の天下り法人への「業務委託」に関する問題点を報じてきた。文部科学省が行っていた緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム・SPEEDIやモニタリングロボット開発などが代表するように、役に立たなかった業務委託の例は枚挙に暇がない。膨大な件数にのぼる役所の業務委託が、税金の無駄遣いに直結しているのは言うまでもない。

 政府が新たな原子力規制組織を置こうとしている「環境省」はどうか。確認のため今年3月、平成21年度から23年度までの3年間分の業務委託(天下り法人に対するもので500万円以上に限定)に関する文書について同省に情報公開請求した。
 これに対し環境省は、文書の特定を行なうのに1か月かけたうえ、請求文書を減らすことを要求してきた。下がそのFAXの記述だが、請求内容に該当する契約を抽出したとして契約一覧表まで添付しておきながら、「文書の特定が困難」なのだという。
 日本語が分かっていないのか、他の省庁では考えられない職務怠慢かのどちらかということになる。

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 3年間で266件の業務委託契約は、他の省庁に比べけっして多いとはいえない。しかも、請求しているのは契約書の一部と仕様書などに限られており、1件あたり10枚程度にしかならない。
 同省の業務委託の概要をつかむためにはすべて必要であることを伝えたところ、次に送られてきたFAXで、法外な手数料の追加納付を求めてきた。

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 1契約あたり300円、総額79,500円を納付しなければ閲覧にも応じないということだ。明らかに情報を出したくない場合の役所の対応であり、隠蔽体質を示す顕著な例でもある。
 ちなみに、情報公開条例を定めているほとんどの地方自治体が手数料を取っておらず、コピー代などの実費だけを請求するのが普通。国だけが1件300円の手数料を課しているのだが、官庁によって対応は大きく異なる。

 国は、「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」で、《開示請求をする者又は行政文書の開示を受ける者は、政令で定めるところにより、それぞれ、実費の範囲内において政令で定める額の開示請求に係る手数料又は開示の実施に係る手数料を納めなければならない》と規定。さらに同法施行令で、開示請求手数料を1件につき300円と定めているのだが、同法では《前項の手数料の額を定めるに当たっては、できる限り利用しやすい額とするよう配慮しなければならない》として、役所側に一定の配慮を求めている。
 「1件300円」を乱用されると、開示請求の内容次第ではとんでもない金額になってしまうからだ。これでは国民の知る権利に応えることはできない。

 同様の情報公開請求に対して、総務省などは手数料について《前項の手数料の額を定めるに当たっては、できる限り利用しやすい額とするよう配慮しなければならない》という同法の規定を重視し、手数料を低く抑える配慮を見せた。しかし環境省は、頑として高額な手数料納付を譲ろうとしない。

 こんな役所に「原発」の情報を握らせたらどうなるか。原発関連の資料は膨大な量であり、それぞれ1件とカウントされれば開示手数料もケタ外れになってしまうことが予想される。
 カネがなければ知りたい情報が得られないということであり、原発についての検証に支障を来たすことにもつながりかねない。

 環境省の隠蔽姿勢は、すでに原発についての情報を握る資格がないことを証明しているのである。
 国が情報公開についての認識や法律を改めない限り、原発再稼働など許されるはずがない。



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