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ケヤキ・庭石事件と高島市政

2012年5月16日 10:13

福岡市役所 平成14年、福岡市議会で市の第3セクター「博多港開発」が、ケヤキ600本と庭石10,000トンを9億円以上で購入していたことが表面化。市政を揺るがす「ケヤキ・庭石事件」が幕を開けた。
 関連企業を使って博多港開発の取引に介在し、5億円近い転売益を得ていた元市議のほか、博多港開発元社長、同元常務が特別背任の疑いで起訴され、全員の有罪判決が確定している。

 ところで、福岡市はこの事件から何を学んだのだろうか。人工島(市内東区)事業において、市による高額な樹木の購入を含む植栽工事が続いている状況や、タレント市長のパフォーマンスで次から次に無駄な公費投入が続く現実を見ていると、変わらないどころか悪くなる一方ではないかと思わざるを得ない。

続く高額な樹木の購入
 HUNTERが福岡市に情報公開請求して入手したのは、人工島事業における樹木購入の実績を示す文書である。このうち、平成19年に福岡市が発注した「アイランドシティ中央公園整備(その27)工事」の工事設計書によると次のような樹木購入の記録が残っている。

・ヤマモモ  522,643円× 2本=1,045,286円
・タブノキ  442,243円× 4本=1,768,972円
・クスノキ  402,043円× 3本=1,206,129円

 人工島事業では、何もない土地に新たな街や公園を造るため、土地造成工事のほかに"植栽"が不可欠となる。前述の工事は総額約930万円程度だが、この他に4,000万円、2,900万円といった植栽工事の記録が数多く残されている。本数こそ少ないものの、高額な樹木の購入が続いているのは事実だ。こうまでして人工の島を造る必要があるとは思えないが、埋立地に新たに街をつくるためには景観作りのために様々な資材や樹木が必要となるため、巨額な事業費が必要となるのは必然なのだ。

 ケヤキ・庭石事件で問題視された1本100万円と言われたケヤキの価格だが、じつは当時の実勢価格としては飛び抜けて高いというわけではない。下は、博多港開発が事件発生当時に参考にしていた建設物価本を抜粋したものだが、問題となったケヤキの大きさからすると、1本145万円という価格だったことが分かる。

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裁判の争点とお粗末だった市側の対応
 意外かもしれないが、ケヤキ・庭石裁判の争点は、ケヤキや庭石の単価が高いか安いかにあったわけではない。購入されたケヤキや庭石が必要だったか否かが争われたのである。判決は、「必要のないものを買って会社に損害を与えた」と断じたのだが、展開次第ではそうならなかった可能性が高い。
 事件が表面化せず、博多港開発が購入したケヤキを庭石を使ってまちづくりを行っていたとしたら、その時点で「必要だった」ことを証明することになり、有罪判決を導くことはできなかったからである。開発事業者が購入したケヤキや庭石をまちづくりに活用していれば、元社長らの罪は問えなかっただろう。

 そのため市側は、購入されたケヤキや庭石をさも不必要であったかのように扱った。庭石を人工島の護岸に使ったりケヤキを寄付したりと、ことさらまちづくりから遠ざけたのである。購入した以上、有効利用すれば済む話なのだが、そうしなかったことで、実損が拡大している。
 さらに、元社長らに対する損害賠償をめぐる民事裁判では、1億円を超える金額で和解を図ろうとした博多港開発の判断に市の顧問弁護士がストップをかけ、みすみす8,000万円近くのカネを捨てている。市側は、刑事裁判の行方にばかり神経をとがらせ、損失を減らす努力を怠っていたのである。もっとも損をしたのは納税者なのだが、一連の事実を知る市民は少ない。
 じつは、ケヤキ・庭石事件の検証が不十分だったため、その後の市政運営に教訓として生かされることはなかった。結果が現在の福岡市に顕在化している野放図な公費支出だ。

無駄な公費投入どこまで?
 公金投入の目的が、市民にとって必要なものかどうか、そういった観点から眺めると、最近の市役所の無駄遣いには目を覆いたくなるようなものが多い。 
 度々報じてきた市役所1階ロビー改装と西側広場整備工事への事業費3億3,000万円、多くの市民が西鉄が購入したものとばかり思っている2階建てバスの購入費に約1億5,000万円。これらの公費支出は、市長の公約にあったわけではなく、もちろん市政の喫緊の課題でもなかった。
 先週のこと、市内に住む50代の主婦から次のような質問を受けた。「用事があって久しぶりに市役所に行きました。1階のロビーが賑やかになっていたけど、中央公園側の壁一面に大きな画面がはめ込まれていました。あれは必要なものなんですか?」。
 指摘された"大きな画面"とは、売り物の大型電子看板(大型デジタルサイネージ)のことらしいが、これだけで数千万円かかっていることを説明すると、憮然とした面持ちで「冗談じゃない」と声を荒げた。当然の反応だろう。

 必要ではないものを買った場合、「背任」と見なされるのであれば、高島市長の無駄遣いもこれにあたるのではないか。
 福岡市は、ケヤキ・庭石事件から何を学んだのだろう・・・。



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