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葬祭場に市長の後援会事務所

不適切な設計入札

福岡県直方市 歪んだ市政

2012年4月19日 08:40

 gennpatu 114020075.jpg保存を願う市民らの声を無視し、明治期に造られた「JR旧直方駅舎」を"がれき"に変えた直方市。
 産炭地・筑豊において、交通の要衝として栄えた歴史と誇りを自ら捨て去る愚行だが、その政策決定過程を示す公文書がないうえ、経過説明も迷走するといったお粗末な事態となっている。
 市政トップである向野敏昭市長の姿勢に問題があることは言うまでもないが、改めて調べてみたところ、同市長の非常識な政治団体の運営実態と、直方市の公共事業で不適切な入札事務が続いている状況が浮かび上がった。

(写真は直方市役所)

「葬祭場」に後援会事務所 ― 公選法に抵触
 向野市長は現在71歳。県職員から助役として直方市に入った後、有吉威前市長が公共工事に絡む贈賄容疑で福岡県警に逮捕され辞職したことを受け、事実上の後継者として平成15年の市長選挙で初当選した。
 
 福岡県選挙管理委員会に提出された「政治団体設立届」および「異動届」によれば、この年、向野市長の資金管理団体「向野としあき後援会」(設立当初の事務所は同市頓野)が発足。平成18年9月に「こうの敏昭後援会」に名称変更し現在に至っている。
 同20年3月から22年12月までの間、後援会の主たる事務所の所在地は市内感田に在ったのだが、問題はその住所地にある施設だ。

 koono.jpg同所にある施設は「葬祭場」。つまり亡くなった市民の通夜や葬儀が執り行われる施設内に後援会の事務所を置いていたのである。市長の後援会は、葬祭場内の部屋で役員会などを行っていたことが分かっており、実質的な活動をともなうものだった。
 
 非常識との批判を浴びても仕方のない事実だが、法的にも問題がある。
 同後援会は平成20年、21年と「事務所費」を計上しておらず、葬祭場を経営する会社から"寄附"を受けていた形になっていた。この寄附は政治資金規正法が禁止する企業献金にあたり、葬祭場を会議に利用するなど実質的な活動があったことを考えると、明らかに同法違反だった疑いが濃い。
 
 政治資金規正法上、禁止された企業献金を行なった場合の公訴時効は3年。市長の後援会が平成22年12月の事務所移転まで、葬祭場を経営する会社から寄附を受けた形で事務所を使用していたとすれば、現時点でも罪に問われることになる。
 こうの敏昭後援会が県選管に提出した平成22年分の政治資金収支報告書では、市長の後援会が葬祭場運営会社に事務所費を支払ったという記載はない。
 
 ちなみに同後援会は、3期目の選挙が翌年に迫った平成22年12月に市内津田町に住所を移しており、昨年4月の市長選期間中は選挙事務所として使用されていた。選挙後の5月、同後援会は市内知古に事務所を移動させている。
(写真は平成22年12月まで向野市長の後援会事務所があった葬祭場)

不正の温床 ― 事業担当課が設計入札を実施
 いずれの自治体においても、行政トップの姿勢が役所全体に及ぼす影響は少なくない。葬祭場に後援会事務所を置いて平然としていた市長が、市民目線で市政運営を行うとは考えにくい。当然のごとく、市政に歪みが生じる。
 じつは、直方市の公共工事の進め方そのものに、大きな問題があった。

 直方市では現在、公共工事にともなう「設計業務」の委託を行なうにあたって、「入札」に関する事務を工事担当課が行っている。しかし、福岡県内にある28の「市」の中で、こうした"危ない"入札事務を許しているのは直方市だけなのである。

 他市では、入札係や契約係といった入札事務を所管する専門部署が、一定金額以上の設計契約における入札のすべてを担当している。工事と関係のない部署に入札事務を行わせることで不正を防止し、入札の透明性を高めるためだ。もちろん、大半の町村も同様のシステムを採用している。
 しかし直方市だけが、建設業者と直接接触する機会が多い事業の担当課に設計の入札を実施させているのである。確信犯的に不適切な入札事務を続けているとしか思えないのは、同市財政課の中に入札事務を担当する「契約係」が存在しており、工事の入札などはきちんと同係が行っているからだ。設計契約だけを例外的に扱う理由について再三尋ねてきたが、直方市側から納得できる説明は得られていない。不正の温床を放置しているようなものだ。

 旧直方駅舎解体の背景に、市長の傲慢な政治姿勢と不適切な行政運営があったことは確かだが、市民に与えている不利益はこれだけではない。




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