原発は「国策」として進められ、政・官・業・学による原子力ムラが構成された。その中心に位置してきたのは、紛れもなく東京電力である。
福島第一原発の事故にともない、「日本の原発は安全」との虚構は崩れ去り、財界に君臨してきた東電の歴史も事実上幕を閉じた。1兆円もの資本注入を原子力損害賠償支援機構に要請したことは国民総てに助けを請うたに等しいが、一方で17%もの電気料金値上げを主張する。同社は本当に変わったのだろうか。
東京都内にある、とあるビルの会員制倶楽部の実態を見ると、改めて我が世の春を謳歌してきた同社の姿が透けて見える。
会員制倶楽部
東京都西新橋の一角に、そのビルはあった。一見するとオフィスビルにしか見えないが、5階から8階までが「倶楽部エル」となっている。看板には5階が個室、6階がラウンジ、7階がサロン、8階が和食と記されている。
一般人がふらりと入ろうという気には到底なりそうにもない造作なのだが、入りたくても入れないシステム、つまり会員制なのである。
同ビルに入居する「倶楽部エル」や地下の飲食店を経営しているのは「株式会社無洲」。ビルの土地、建物自体は、同社の関連会社の所有だ。じつはこの「無洲」、東京電力と深い関係があることが分かっている。
東京リビングサービスとの関係
東電は、福島第一原発の事故にともなう巨額な賠償に対応するため、資産売却やコスト削減を進めているが、売却対象となったものの中に東電の福利厚生を目的とする100%子会社「東京リビングサービス」という会社が存在する(今年7月に株式売却を予定)。
同社は、都内渋谷区で「渋谷東友クラブ」という東電社員専用の高級レストランの運営を任されていたが、実際の業務を前出の「無洲」に委託していたとされる。
現在、「渋谷東友クラブ」はなくなっているが、ほぼ同じ地域に、同じ会員制という形態の高級レストランが「無洲」によってオープンしており、「渋谷東友クラブ」を引き継いだかのような形だ。
東電御用達
「倶楽部エル」に話を戻すが、じつはここも東京電力関係者などの福利厚生を目的とした施設として知られており、東電の関係者は、通常の飲食店よりリーズナブルな値段で飲食などを楽しむことが可能だという。
無洲側に聞いたところ、会員制であることは認めたが「東電は会員ではない」としている。しかし、「倶楽部エル」を利用する客の多くが、「東電関係者の福利厚生目的の店」と認識しているのは事実だ。
ある経済人は、あっさり「あぁ、あれね。東電関係者御用達の店ね。以前は厳しくチェックされ、一般人が入れないようにしてたけど、今はどうなのかな?やっぱり電力関係者が一緒でなければ店には入れてもらえないんじゃないの」。
「東電ムラ」
無洲と東電の接点は、別の形でも確認できる。あまり知られた存在とは言えないが、東京都内に「電気倶楽部」という一般社団法人がある。
電気倶楽部は、大正11年(1922年)に設立されており、ホームページには《電気関係事業に関する事業を行うことで、電気に関する知識の普及等を図り、同事業の進歩、発展に寄与することを目的としております》と記されているが、ハッキリ言って内情はよく分からない。
唯一人の常勤役員は、東電関連企業「テプスター」の代表だったが、同社は昨年7月に「東電リース」に吸収合併されていた。
同法人の役員には東電OBがズラリと並んでおり、会員には電力各社、大手ゼネコン、電力関連企業などの役員が名を連ねる(参照→)。入会金
入会するには法人で入会金12万円、年会費18万円、個人会員なら4万円の入会金と6万円の年会費が必要とされる。
この電気倶楽部の会員の中に、東電の主な関連企業とともに「無洲」の役員3名の名前を確認することができるのである。もちろん「東京リビングサービス」の役員も含まれている。
前出の経済人は「電気倶楽部は原子力ムラとは少し違うね。『東電ムラ』とでも言うのかな」と話しており、無洲の東電との関係を示すひとつの証左であろう。
誤解のないように述べておきたいが、「無洲」を批判しているわけではない。あくまでも東京電力という会社の裾野の広さに驚いたという話である。