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岩本農水副大臣に「虚偽報告」の疑い

領収書小分けし資金提供先隠し

2012年3月30日 10:00

 農林水産副大臣を務める民主党の岩本司参議院議員(福岡選挙区。当選2回)が、自身の資金管理団体の政治資金収支報告書に、政治資金パーティーの収入内容を偽って記載していた可能性が高くなった。

 収支報告書への記載が義務付けられた20万円を越えるパーティー券収入を、領収書を複数に分けて発行するという手口で隠していたという。
 パーティー券購入先を表に出さないようにするためだったとされ、この方針を徹底するため開催した政治資金パーティーに同党所属の国会議員を招かなかったばかりか、自分の秘書さえ会場に入れていなかった。

 収支報告書に記載された政治資金パーティーの実態が違っていた場合、政治資金規正法に違反する「虚偽報告」だったことになる。


g7001009.jpg 昨年には政治資金でキャバクラ通いが発覚
 岩本司副大臣は福岡県出身の47歳。日本大学生産工学部を卒業後、民間企業勤務や日本新党職員を経て平成7年に東京都渋谷区の区会議員に当選。同12年の総選挙で国政に転じ、衆院福岡2区から立候補し落選したが、翌年の第19回参議院議員通常選挙に福岡選挙区から立候補し初当選していた。平成19年の参院選で再選を果し現在2期目。昨年9月の野田内閣発足に伴い農林水産副大臣の要職に就いている。
 就任直後には、自身の資金管理団体「岩本つかさ後援会」からキャバクラやクラブでの飲食代を政治活動費として支出していたことが発覚し、会見で釈明する事態となっていた。(写真が岩本副大臣。参議院のホームページより)


収入の大半は「政治資金パーティー」
 岩本副大臣の資金管理団体「岩本つかさ後援会」が総務省に提出した政治資金収支報告書を確認したところ、収入のほとんどが政治資金パーティーにおけるパーティー券販売によるものとなっている。
 平成20年から22年にかけてのパーティー開催状況は次の通りだ。(注:開催日、パーティーの名称、収入金額、開催地・ホテルの順)

【平成20年】計2回 収入合計1,346万円
 5月26日「参議院議員岩本つかさ薫風の夕べ2008」1,000万円 東京・ホテルオークラ 
12月26日「岩本つかさ忘年会2008」346万円 東京・帝国ホテル

【平成21年】計4回 収入合計1,761万円
 4月20日「桜花の集い」495万円 北九州市・ステーションホテル小倉
 7月21日「白南風の集い」586万円 東京・ホテルオークラ
12月19日「岩本つかさを囲む会・忘年会2009」286万円 福岡市・西鉄グランドホテル
12月25日「岩本つかさを囲む会・忘年会2009」394万円 東京・帝国ホテル

【平成22年】計5回 収入合計3,076万8,080円
 5月24日「暖春の集い」684万9,580円 北九州市・ステーションホテル小倉
 8月30日「南風月の集い」892万円 東京・ホテルオークラ
10月29日「秋麗の集い」460万円 大阪・帝国ホテル
12月 1日「暮来月の集い」962万円 東京・帝国ホテル
12月22日「岩本つかさ忘年会2010」77万8,500円 飯塚市・のがみプレジデントホテル

パーティー券購入先を隠蔽 
 gennpatu 114020010.jpgこのうち、とくに問題が指摘されているのは、東京、大阪で開催された政治資金パーティーだ。
 後援会関係者などの話によれば、岩本副大臣側が受け取った金額が収支報告書への報告義務がある20万円を超えた場合、パーティー券の購入先を隠すことを画策。相手先の了承を取った上で、領収書だけを企業なら関連会社に、労組なら傘下の組合組織に小分けしていたとされる。

 この話を裏付けるように、平成20年から22年までの3年間に開かれた同後援会の政治資金パーティーは11回、収入約6,200万円にも上るが、収支報告書上パーティー券購入者が分かる記載は1件もない。すべてが20万円未満のパーティー券購入だったことになっているのだ。
 パーティー券は1枚20,000円で、一度の収入額が20万円を超えるケースが少なくなかったとされ、最大で100万円分程度を購入した相手もあったという。

 複数の関係者に取材したところ、岩本副大臣はパーティー券収入の実態を隠すことに固執しており、購入者を隠すため、パーティー会場に国会議員などを招待することさえ拒んだうえ、自身の秘書さえ寄せ付けなかったという。

 九州から選出されている複数の民主党議員の話も、こうした証言を裏付けている。「福岡県内開催分以外で、岩本さんから政治資金パーティーの案内を受けた覚えはない。東京で政治資金パーティーを開催していたことさえ知らなかった」(衆院議員)。「東京で政治資金パーティーを開いていたのなら、案内を寄こすのが普通。なぜこそこそやっていたのだろう」(参院議員)。

 「岩本つかさ後援会」が総務省に提出した政治資金収支報告書の内容は、虚偽だった疑いが濃い。

さらなる疑惑
 「虚偽報告」についての疑惑は、他にもある。
 岩本副大臣側のパーティー券の捌き方は、副大臣自身が販売先を選定し、秘書が郵送で送るというもの。しかし、支持基盤が弱いため郵送できたとしても毎回400枚程度がやっとだったという。
 
 そのうち実際に購入してもらえるパーティー券は150枚か、よくて300枚ほどだったとされ、複数の関係者は「実際にパーティー券が収支報告書の数字のように売れたとは思えない」と証言している。
 ここで、特定の相手から大きな金額を受け取り、パーティー券収入に紛れ込ませていたのではないかという疑惑が浮上する。事実上の『寄附』を、隠したということだ。
 事実ならこれも重大な政治資金規正法違反である。

取材拒否
 一連の疑惑について、岩本副大臣の事務所に取材したが、「岩本つかさ後援会」の会計責任者を務める秘書は、当初「何でも聞いてくださって結構です」と言っておきながら、取材目的が政治資金パーティーの開催実態であることを告げたとたん「私には分かりません。前任の秘書がすべてやっていましたが、既に退職しています」。実務のすべてを担当したとされる前任者の名前を尋ねると「もう辞めていますから、お教えすることはできません」。
 誰に聞けば分かるのかと追及したところ、「岩本本人しか分からないでしょうね」と匙を投げてしまった。
 
 この後、約1か月間。何度も岩本副大臣に取材を申し入れたが、なしのつぶて。今月22日に参議院議員会館の岩本副大臣の事務所を訪ねたが、同会館の受付の段階で入館自体を断わるという始末だ。完全な取材拒否である。
 
「カネ集め」に執着
 岩本副大臣が政治資金パーティーの実態を隠した背景には、「カネ」に執着する副大臣自身の姿勢があり、政治資金パーティーの開催実態を見てもその意図は明らかだ。
 
 前掲のパーティー開催状況のうち、東京、大阪分だけを抜き出し、会場の定員を調べて見ると次のようになる。(パーティーの名称、収入額、パー券購入者数、会場定員

【平成20年】
 5月26日「参議院議員岩本つかさ薫風の夕べ2008」1,000万円(500人)→立食定員200人 
12月15日「岩本つかさ忘年会2008」346万円(173人)→立食定員120人

【平成21年】
 7月21日「白南風の集い」586万円(293人)→立食定員200人
12月25日「岩本つかさを囲む会・忘年会2009」394万円(197人)→立食定員200人

【平成22年】
 8月30日「南風月の集い」892万円(446人)→立食定員200人
10月29日「秋麗の集い」460万円(230人)→立食定員120人
12月 1日「暮来月の集い」962万円(481人)→立食定員120人

 パーティー会場の定員は、実際のパー券販売枚数を下回るケースがほとんどなのだ。

食事はいつも100人分程度 
 前出の関係者によれば、もともとパーティーの食事自体、100人程度の用意しかされておらず、それ以上の参加者など見込んでいなかったのだという。
 HUNTERが総務省への情報公開請求で入手したホテル側の領収書にも、その証拠が残されていた。
 下は、平成20年12月15日に開催された「暮来月の集い」にかかるホテル側の領収書だが、「忘新年会プラン」として1人あたり「9,000円」の単価で数量が『80』となっている。
 つまり80人分の料理しか準備していなかったということ。この時のパーティ券販売枚数は173枚で、半数以上の人を、はじめから切り捨てていたことになる。 

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 東京、大阪で開催された政治資金パーティーの会場費を見ても、その傾向が続いていたことが分かる。(パーティーの名称、収入額、パー券購入者数、会場費の順)

【平成20年】
 5月26日「参議院議員岩本つかさ薫風の夕べ2008」1,000万円(500人)→116万7,652円 
12月15日「岩本つかさ忘年会2008」346万円(173人)→96万8,875円 

【平成21年】
 7月21日「白南風の集い」586万円(293人)→104万5,747円 
12月25日「岩本つかさを囲む会・忘年会2009」394万円(197人)→118万2,777円

【平成22年】
 8月30日「南風月の集い」892万円(446人)→111万1,267円 
10月29日「秋麗の集い」460万円(230人)→90万5,813円 
12月 1日「暮来月の集い」962万円(481人)→100万5,275円 

 食費も含めた会場費は、毎回ほぼ100万円程度で推移しているが、パーティー券の販売収入だけが増え続けているのが分かる。岩本氏の「カネ集め」の手法が、年々荒っぽいものに変わっている証左と言えよう。

 じつは、岩本副大臣の政治資金処理をめぐって浮上しているのは「虚偽報告」の疑惑だけではない。彼の使った政治資金の詳細を調べると、カネに執着する醜い政治家の姿が浮き彫りとなる。

                                              

つづく

 



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