東日本大震災にともなって発生した"がれき"の処理をめぐって、全国の自治体で受け入れを表明する動きが加速している。国は"がれき"を復興の妨げと断言し、大手メディアは「がれき処理」を受け入れない地域を冷たい視線で報じているが、あえてこの状況には異を唱えておきたい。筆者には、必ずしもこの流れが正しいとは思えないからだ。
「がれき」は復興の妨げか?
国が全国の自治体にがれき処理を要請する根拠となっているのは、「大量の"がれき"が復興を阻んでいる」という前提があるからだ。大手メディアの論調も同じ。しかし、これは本当なのだろうか。
震災で発生した"がれき"は、大半が被災地の沿岸部や郊外に集められている。復興を震災前と同じ場所で進めるのであれば、たしかに"がれき"が妨げになるのだが、そうではあるまい。
大津波が「想定外」ではなくなった現在、高台でのまちづくりを基本原則とすべきで、昨年の3月11日以前とまったく同じ地域での復興は自殺行為に等しい。ならば、今ある"がれき" が復興を阻む最大の要因とは言い切れないのではないか。"がれき"の処分と復興は、同時進行が可能なはずだ。
「"がれき"が復興を阻んでいる」という主張は、復興の遅れを批判される国が、問題をすり替えるための方便であり、これに乗っかった大手メディアの報道姿勢は、いつもの「右向け右」が繰り返されているだけのことだろう。
その証拠に、放射性物質を含んだ"がれき"とそうではない"がれき"がひとくくりで報じられており、問題点の整理さえなされていない。
一例を挙げる。26日、福岡市議会では共産党を除く5会派が、福岡市長に対し"がれき処理"の受け入れを検討するよう要望書を提出した。だが、個別に話を聞くとかなり事情が違う。
申し入れに参加したある会派の議員は「当然ですが、"放射性物質が含まれていないがれき"は受け入れるべきという主張です。新聞にはそう書いてないんでしょうか?」。別の会派の議員は「"福島県以外のがれき"という意味ですよ。他にもきちんと条件をつけています」。
しかし、同日の地元紙夕刊の記事には、単に"がれき処理"の受け入れを要望したことしか書かれていない。これでは"放射性物質を含んだがれき"も含めた受け入れ要望としか思えない。
意図的なのか、申し入れを受けた福岡市長が《『閉鎖性の高い博多湾に放射性物質が流れ込む可能性がある』と、あらためて受け入れに難色を示した》と続けている。記事の流れからすると議論の対象は"放射性物質を含んだがれき"にしかならない。
福岡市側の説明では、市の処理施設では放射性物質を除去することができず、"放射性物質を含んだがれき"の受け入れによって博多湾を汚染する可能性が生じるとしており、これが事実なら市長の方針は正しいということになる。
議会側の出した要望書には「全国の自治体が連携・協力して災害廃棄物を処理しなければ、被災地の復旧・復興はあり得ない」とあるが、記事ではこの文言を市長見解の後に続けているため、あたかも市が復興に寄与していないかのような印象を与えている。
ことほどさように前提条件の整理さえされないまま、「がれきを受け入れるか否か」だけがニュースになっているのである。こんなものが正しい報道であるはずがない。
根拠なき放射性廃棄物の安全基準
昨年来、「絆」や「がんばろう」と言う言葉がこの国に氾濫している。確かに、何らかの形で復興の手助けをし、被災住民らに手を差し伸べることは同じ国で生きる者として当然のことだ。しかし、"放射性物質を含んだがれき"の受け入れを拒むことがこれに反するというのは間違いだ。以下、その理由を述べる。
まず、放射性物質を含んだがれき処理にあたっての安全性が担保されていないことが挙げられる。
じつは、放射性廃棄物について、国が定めた基準には法的根拠が存在しない。がれき処理にあたって国が示した放射性物質の基準は、がれきの焼却灰やコンクリートくずなどの不燃物について、放射性セシウム濃度が1キログラム当たり8,000ベクレル以下なら最終処分場に埋め立てを可とするもの。しかし、これは当面の基準を国が勝手に示しただけで、何かの法律に明確に規定したわけではないのである。
一方、国は平成17年に「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(原子炉等規制法)の改正(改悪だろうが)を行ない、「クリアランス制度」を整備している。
この制度について、経済産業省原子力・安全保安院のホームページには次のように紹介されている。
《放射性物質の放射能濃度が極めて低く人の健康への影響が無視できることから、放射性物質として扱わないことを「クリアランス」といい、その基準を「クリアランスレベル」といいます。「クリアランス制度」とは、原子力発電所の解体などで発生する資材等のうち、放射能濃度が極めて低いものは、法定された国の 認可・確認を経て、普通の産業廃棄物として再利用、または処分することができるようにするための制度です》。
つまり、国の確認を受けた原発から出る放射性廃棄物は、原子炉等規制法の規制から解放され、通常の産業廃棄物又は有価物として処分することが可能となっているのだ。
クリアランスレベルは、年間線量を10マイクロシーベルトまでとしており、"がれき処理" の1キログラム当たり8,000ベクレルとはまったく違う。
また、全国の原子力発電所から出た低レベル放射性廃棄物については、厳しく規制しており、発生した低レベルの放射性廃棄物は「ドラム缶」に入れて管理したうえ、青森県六ヶ所村に搬出することになっている。
IAEAの基準は100ベクレル―日本ではその80倍
日本では、放射性廃棄物を『焼却』するということを想定しておらず、原発から出る核のごみ以外での処分方法について法的整備がなされていなかったである。1キログラム当たり8,000ベクレルというのは、付け焼刃の数値であり、安全を保証できるものではないのだ。
唯一、IAEA(国際原子力機関)が定めた放射性廃棄物の『焼却』に関する基準は1キログラム当たり100ベクレル。日本の基準はその80倍となっている。
これでも安全と言えるのか?そもそも低レベル放射性物質が人体に及ぼす影響について、科学的に証明することができるデータや実験結果など存在しておらず、原子力ムラの御用学者が「大丈夫」と連呼してきたに過ぎない。
なぜ震災がれきだけは別の基準で処理が可能なのか。そのことに対する国の説明がないまま、がれき処理の受け入れが進まないことが復興を遅らせているという作為的な大義名分がまかり通っている。いい加減、国と大手メディアの情報操作に気付くべきだ。
どんな理由があるにせよ、放射性物質を全国にばら撒くことが許されるとは思えない。復興支援の遅れをがれきの受け入れを拒む自治体のせいにする流れは、国の無為無策を証明しているだけのことなのだ。