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原発立地自治体と記者クラブ 「蜜月」の証明

薩摩川内市長が交際費で記者に記念品

鹿児島県は地元メディアの株保有

2012年3月 6日 06:30

 九州電力川内原子力発電所の立地自治体である鹿児島県薩摩川内市(岩切秀雄市長)で、転勤する記者クラブ所属の記者に対して、長年にわたり市長交際費から記念品が贈られていたことが明らかになった。

 福島第一原発の事故によって、原発立地自治体の動きが注目されるなか、チェック機能を期待されるメディア側と自治体との蜜月ぶりを示すひとつの事例と言える。

 記念品贈呈は記者の送別会にともなうものだったが、市長交際費の決済文書などによれば、福島第一原発の事故後も市側と記者クラブ所属記者との飲食が続いていたことになる。

異動時に「記念品」贈呈
 HUNTERが入手したのは、平成21年4月から今年1月までの薩摩川内市の市長交際費に関する決済文書と領収書。
 それによると、同市記者クラブ所属の記者が異動するたび、市長交際費で『徳利』を購入、記念品として贈っていた。確認できた記念品購入は4件、7人分だ。
 徳利の価格は4,500円と一定になっていたが、決済文書にある「送別会」の席上で渡していたものと見られる。

 残された文書で確認できた交際費支出の日付と、対象となったメディアは次のとおりだ。

平成22年3月23日 社名記載なし 2名分
平成23年3月29日 南日本新聞社薩摩川内総局記者
平成23年4月25日 毎日新聞記者、朝日新聞記者
平成23年8月26日 読売新聞記者、NHK記者

(下の3枚は決済文書。赤いアンダーラインはHUNTER編集部。クリックすると拡大)

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 市長交際費を所管する薩摩川内市総務部の秘書室長に話を聞いたところ、「おそらく記者クラブができてからずっと続いていることだと思います」と言う。
 断られたことはないのか、と確認したが、キッパリと「ありません」と回答。まるで、「何が悪いんだ」と言わんばかりである。

 大半の自治体では、「記者懇談会」などと称して、首長と記者クラブ記者が飲食しながら意見交換を行なうのが通例となっている。しかし、費用は"割り勘"が大原則であり、一方だけが支払うということはない。それが、報道する側と取材対象との間の最低限のルールなのである。 しかし、薩摩川内市と記者クラブの間では、酒の席での記念品贈呈が慣例化していたということになる。

明らかに不適切
 それぞれに言い分があるのだろうが、結論から言って明らかに不適切。"記者としての矜持が問われる事態"と言っても過言ではない。理由は三つ。

 第一に、記者クラブは市役所内に部屋をあてがわれ優先的に情報をもらうなど、あらゆる面で優遇されている。それが容認されているのは、"権力の監視"という重要な使命を負っているからこそ。当然、両者の間には一定の緊張関係が必要なはずだが、対峙する相手から物を貰う行為は、それが異動に伴う記念品といえども気が緩んでいることの証左でしかないからだ。

 次に、「転勤するから薩摩川内市とか関係がなくなる」という言い訳が通用しないことが挙げられる。記者は、異動にともない後任に引継ぎを行なうほか、薩摩川内で大きな事案が発生した場合には、前任者として再度現地に入る可能性が高い。"なあなあ"の関係を引きずったまま、厳しい批判記事が書けるとは思えない。

 3番目の理由は、購入原資が「市長交際費」であることを承知した上で、記者たちが記念品を受け取っていることである。
 薩摩川内市は、市長交際費の執行状況を市のホームページ上で紹介しており、そこには日付と「川内記者クラブ記者の異動に伴う記念品(徳利) 4,500円」などと明記してある。
 これはこれで公費支出への意識の低さが問われる問題なのだが、当然、記者たちはホームページの記載を見ていたはずで、記者クラブ側が市長交際費で記念品を買っていることを知らなかったという言い訳も通用しない。
 公費支出のあり方をただす側の記者たちが、市長交際費で購入された記念品を受け取ることはどう考えても不適切だろう。

「フクシマ」以後も送別会と記念品
 最大の問題は、昨年3月11日の東日本大震災発生以降も、記念品贈呈が続いていることである。

 前掲のとおり、平成23年における記念品購入の日付は、いずれも福島第一原発事故の後のものだ。言うまでもなく、薩摩川内市は九州電力川内原子力発電所を抱える「原発立地自治体」である。
 
 震災が引き起こした福島第一原発の事故によって、川内3号機増設や定期点検後の再稼動をめぐって岩切市長の動向に注目が集まっていたことは、記者クラブの記者たちが一番わかっていたこと。記者と市長の関係には、それまで以上の緊張感がなければいけなかったはずだ。
 にもかかわらず、送別会や記念品贈呈を止めなかったことは、"癒着"と言われてもおかしくない。
 注目の薩摩川内市だからこそ、「フクシマ」以降のこうした行為には慎重を期すべきであり、そうした意味においては、まさに報道に携わる者の矜持が問われる話なのだ。
 
 「転勤する記者への記念品ぐらい目くじら立てなくてもいい」と言う記者がいるなら、その者は報道に携わる資格はない。

鹿児島県庁「青潮会」
 残念ながら、九電の原発がある佐賀県や鹿児島県といった立地自治体の記者クラブには、それぞれの自治体の首長に対する厳しい姿勢が感じられない。
 
 鹿児島県庁の記者クラブは地方自治体には珍しく「青潮会」と名前まで付けられており、県庁職員も記者クラブとは言わず「青潮会」と呼ぶ。
 まるで中央省庁の記者クラブ(外務省の「霞クラブ」などが知られる)のようだが、このクラブに所属する記者が発信した記事で、伊藤祐一郎知事の心胆を寒からしめるようなものにお目にかかったことはない。

 やる気がないのか、意図的なのか分からないが、県政の課題について深く切りこんだ報道は皆無。知事がらみの厳しい内容の報道は、大半が他県から出向いた遊軍の記者によるものばかりなのである。温暖の地においては、感性が鈍るということなのだろうか・・・。

 ちなみに、鹿児島県内のメディアのうち、次の5社の株主は鹿児島県である。社名と県の持ち株比率を記しておきたい(数字は昨年のもの)。

・南日本放送・・・7.5%
・鹿児島テレビ放送・・・3%
・鹿児島放送・・・3%
・エフエム鹿児島・・・2%
・鹿児島讀賣テレビ・・・3%

 もちろん、この中に「青潮会」へ記者を送り込んでいる局があることは言うまでもない。

 薩摩川内市川永野の産廃処分場、鹿児島市松陽台の県営住宅、そして川内原発の3号機増設。いずれも伊藤祐一郎知事と利権集団の仕組んだ唾棄すべき事業なのだが、県庁や薩摩川内市の記者クラブ所属記者が、隠された真実を追求した形跡は見られない。県民に知らせるべきは何か。彼らは真剣に考えるべきである。

 ところで、問題の薩摩川内市の市長交際費に関しては、記者への記念品のほかにもいくつかの問題点が浮上している。
 これもまた、記者クラブが見逃してきたひとつの事例ではあるが・・・。

 



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