福岡市が先月16日に発表した人工島事業終了時の試算結果に、公表された160億円とされる赤字額のほかに421億円という数字があることが判明した。
HUNTERが福岡市への情報公開請求で入手した文書から分かったもので、試算は公表分を含めて16パターン。半数以上が赤字200億円を越える結果となっている。
土地売却が進まず先行き不透明な同事業をめぐって、市民負担が増大する可能性が高まるなか、都合のいい数字だけを公表した形の福岡市に批判の声が上がりそうだ。
試算は16パターン 最大赤字421億円
HUNTERが福岡市への情報公開請求で入手したのは試算結果を示す「アイランドシティ整備事業に係る収支見込み」。16枚・16パターンとなる試算ごとの収支見込額は次のとおりだ。
【黒字試算】
・ 1億円
【赤字試算】
・ 99億円
・139億円
・156億円
・160億円 → 公表額
・180億円
・195億円
・211億円
・215億円
・235億円
・249億円
・293億円
・283億円
・294億円
・312億円
・421億円 → 赤字額最大
試算は、分譲する土地の価格、定期借地の導入、起債償還などの与条件を変えて行われていた。
1億円の黒字とはじき出した試算は、みなとづくりエリアの赤字をゼロとし、まちづくりエリアでは1億円利益が出るとするもの。厳しい現状を考えると"ありえない"話となる。
残り15パターンの試算はすべて赤字になることを示すもので、与条件によって99億円から421億円まで大きく変動する。
市が公表した「160億円」は、赤字額が低い方の上から4番目の数字を拾ったもので、試算の大半は200億円台か300億円の赤字となる結果だった。
下の文書にあるように、最大の赤字額は421億円。試算結果である以上、可能性がないとは言い切れない。(赤いアンダーラインはHUNTER編集部)
市側も否定できない421億円の赤字
試算を行った市港湾局アイランドシティ経営計画部管理課に、なぜ160億円の試算結果だけを公表したのか聞いた。
市側の説明によると、今年2月14日に市財政局の「不動産価格評価委員会」が出した固定資産課税上の価格が1㎡あたり9万7,000円だったため、この金額を基に収支を計算したという。下がその試算結果である。(赤いアンダーラインはHUNTER編集部)
一方、赤字額が421億円に膨らんだ試算では、1㎡あたりの価格をみなとづくりエリアで8万円、まちづくりエリア内のセンター地区や産業用地を9万円に設定したほか、定期借地の導入や起債部分の条件などが違うとしている。
いずれにしろ、実際に421億円の赤字が出る可能性を示すもので、市側も「絶対にないとは言い切れない」としている。
赤字が421億円となった試算には、定期借地導入や起債の償還方法の違いなどの要素が入っていないが、それを理由に否定できる数字ではない。肝心なのは土地の価格がどこまで下がるか、なのだ。
様々な試算を行った結果、赤字額が200億円から300億円にのぼるとする結果ばかりだったことも、ことの重大性を物語っていると言えるだろう。
求められる試算結果すべての公表と説明
平成21年に市が策定した事業計画で公表されたのは125億円の黒字。しかし、人工島の土地売却が進まない上に、デフレ不況の長期化が事業収支の悪化に拍車をかける状態となったため、市が不動産市況の下落を考慮して分譲価格の見直しに合わせて試算を行ったとされる。
最終的な赤字転落を見越して、「160億円」とする赤字試算結果を出さざるを得なかったと見られるが、人工島事業への市民の不信を考えると試算結果のすべてを公表すべきであることは言うまでもない。
平成6年に始まった人工島事業は、約4,000億円をかけて博多湾を埋め立て、約400ヘクタールの土地を造成するというもの。土地を売って事業にかかった借金を返済する計画だったが、分譲予定の2割前後しか捌ききれておらず、たび重なる税金投入に頼るしかない状況が続いている。
先月、高島宗一郎福岡市長は、定期借地権制度の導入という安易な弥縫策を発表。人工島へ進出する事業者に対する立地交付金の上限を現行の3倍の30億円に増額するという餌まで付けたが、いまだに人工島進出に名乗りを上げる企業は現れていない。
賃貸借物件にしなければ埋まらない土地を、わざわざ買う物好きはいないと思われ、事業収支の試算に用いられた土地価格が想定以上に下がり続ける可能性は高い。
結果として見えているのは、税金を使った尻拭い。つまりは市民が事業失敗のツケを払うことになるのである。
公表された試算結果以外に、より大幅な赤字になる可能性を示す公文書が存在したことについて、市民オンブズマン福岡の児嶋研二代表幹事は次のように話している。
「市民から信頼を得るために必要なのが徹底した情報公開だ。都合のいい数字だけを選んで出すのは市民を騙すことに他ならない。
そもそも人工島事業を始めた当時、パンフレットでは『市民の負担にはなりません』と宣伝していたはず。
この時も都合のいい話をしていたわけで、その結果が今の惨状だ。騙しの政治はいい加減やめるべきだ」。