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原子力ムラに挑んだ35年

老ジャーナリスト執念の一冊

恩田勝亘氏『福島原発・現場監督の遺言』

2012年3月 5日 07:35

 東京電力福島第一原子力発電所の事故発生後、こうした事態をを予告していたとして内外メディアから一躍注目を集めた本があった。5年ほど前に出版されていた『東京電力・帝国の暗黒』である。

 筆者は、かつて「週刊現代」の記者として数々のスクープを連発したフリージャーナリストだった。恩田勝亘、68歳。原発と向き合って35年、記者人生の大半を原子力ムラの実相を報じることに捧げてきたと言っても過言ではない。

 HUNTERにも何度かコメントを寄せてくれた同氏が、執念で書き上げた新刊書が再び注目を集めている。『福島原発・現場監督の遺言』(講談社)の発刊を機に、恩田氏の思いを聞いた。

立ち位置
 一貫して原発を批判してき恩田氏が、新たに『福島原発・現場監督の遺言』(講談社)を上梓した。原発というモンスターを育て、飼い慣らすことができると信じた原発マフィアたちの愚かしさとともに、原発推進の過程で、人間が、日本人がいかに壊れていくのかを描いた渾身の書だ。

HUNTER:恩田さんは5年前、中越沖地震による東京電力柏崎刈羽原発の惨状を『東京電力・帝国の暗黒』(七つ森書館)で赤裸々に描きましたよね。その内容がフクシマ事故で再現されたことによって注目され、取材する立場から内外メディアに取材される立場になりました。そのことを恩田さん自身はどう捉えていますか?

恩田:何を今さら、というのが本音です。君たちはいままで何をやってきたんだと逆に問いたいですね。原発の背景や、本当の恐ろしさについて、新聞やテレビは報じてきたのでしょうか。フクシマ以後も、当初は原発立地自治体の首長の動向ばかり追いかけていましたよね。それでは肝心のことが読者や視聴者に伝わらない。問題が起きた時だけワーッと騒ぐのがこの国のメディアの特徴ですが、いまだに同じことをやっている。
 
 立ち位置が定まらないままだから、何を言いたいのかわからない。脱原発なのか、電力供給の方が大事なのか、さっぱりわからない。『あとは読者の判断』というのは、ジャーナリストのやることではないですね。
 
 私自身、週刊誌というメディアのなかで仕事をしながら、ジャーナリズムとは何か、いつも自問自答していました。行き着いたのが、"自分がやりたいのは真実をありのまま伝えることだ"という結論でした。
 まず無私になること。そこで取り組んでいく意味があると思ったのがエネルギーと宗教。一見何の脈絡もありませんが、私のなかではきちんと消化されていたのです。
 
HUNTER:どういうことですか。
恩田:人間の在り方や生きるとは何かを突き詰めて考えていけば、目の前の食糧を含むエネルギー、それと次元は違うかもしれないが宗教に行き着きます。もちろん、伝える側がそれを消化していないと言葉が空疎になります。だから、いろいろなテーマを扱う週刊誌記者をやりながら、常に人間を、日本を、世界を頭に入れながら目の前のテーマに真剣に向き合ってきました。人の何倍も勉強したという自負はもっています。
 原子力ムラの連中とやり合うには、彼らを論破できるだけの材料と知識が必要です。しかし、今騒いでいる記者たちにはそうした背景が見えてこない。しっかりしろと言いたいですね。
 
 そう話す恩田氏が最初に実名で書いた本は『仏教の格言』。本人は「30歳そこそこの小僧が無謀に挑戦した未熟な本」と言うが、じつは宗教の深さを実感させる一冊である。恩田氏が次に取材対象にしたのが"原発"だったのだという。

原子力ムラへの憤りが原点 
恩田:週刊現代の記者として最初は事件、次いで政界の闘争が取材対象となりました。しかし、第一次オイルショックで国際政治に目覚めたことが、原発と向き合うきっかけになりました。
 国内だけに目を奪われていると何も見えないんだということを思い知らされましたが、原子力ムラに挑んだ原点は単純です。
 
 強い立場にいる人間が、それを自覚しながら弱い立場の人間をいじめ、足蹴にして平然としている日本人の風上に置けない連中への憤りです。
 
 『福島原発・現場監督の遺言』を読んでもらえばわかりますが、原発の末端で放射能の犠牲になった人、その家族がどんな思いをしているかを知れば、本当に胸が痛みなす。それが自分のところへ降りかかってくるという事態になれば、『原発と原爆は同じ』だということがわかるはずです。しかし、原子力ムラの連中はそんなことにはお構いなしで原発を賛美してきました。
 末端の悲劇を黙殺する人間たちに、国の根幹となるエネルギーの問題を委ねていいはずがない。だから戦おうと決めたんです。
 
 一流のジャーナリストとして40年。世の中の表も裏も含めて、あらゆる世界を取材してきた恩田氏が、広い視点から「フクシマ事故」を解説したのが新著『福島原発・現場監督の遺言』である。  
 「昔なら東大卒、今は松下政経塾卒。彼らからすれば『ゴミ』のような貧乏ジャーナリスト」と自嘲する恩田氏だが、反骨の老ジャーナリストが上梓した同書は、脱原発への執念が感じられる一冊となっている。

【恩田勝亘:プロフィール】
昭和18年生まれ。『週刊現代』記者を経て平成19年からフリー。政治・経済から社会問題まで幅広い分野で活躍する一方、脱原発の立場からチェルノブイリ原子力発電所現地特派員レポートなど原発にからむ数多くの問題点を報じてきた。

著書に『東京電力・帝国の暗黒』(七つ森書館)、『原発に子孫の命は売れない―舛倉隆と棚塩原発反対同盟23年の闘い』(七つ森書館)、『仏教の格言』(KKベストセラーズ)、『日本に君臨するもの』(主婦の友社―共著)など。

新刊『福島原発・現場監督の遺言』(講談社)は、全国の書店で販売中。



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