福岡市が市内東区の人工島(アイランドシティ)に建設を計画している「新体育館」をめぐって、候補地決定過程の不透明さが浮き彫りとなった。
HUNTERが福岡市への情報公開請求で入手した新体育館の候補地決定過程を示す文書のなかには、所管の市民局内で最終的に人工島への建設を決めたとする方針決定時の決済文書が存在しておらず、いつ、誰が最終判断したのか分からない状況。
はじめから「人工島」へ誘導したことは明らかで、こども病院の移転計画における手法が繰り返された形だ。
(写真は福岡市役所)
新体育館整備計画
福岡市は、現在使用されている市民体育館が建設から40年を越え老朽化したことに加え、九州電力から無償貸与されている九電記念体育館の借用期限が平成25年3月末で切れることなどを理由に、新たな拠点体育館の建設が必要と判断。平成22年から具体的な整備方針などを検討してきたとしている。
HUNTERが市に情報公開請求して入手した文書によれば、同年11月に民間の設計業者に「拠点体育館のあり方検討資料図作成業務」を委託し、1案から4案まである平面図と案ごとの概算事業費を報告書にまとめさせていた。
これに先立ち、同年7月から拠点体育館のあり方を検討する構成員4名からなるアドバイザー会議を設置。昨年12月までに計5回の会議を行なっている。
議事録もないアドバイザー会議 - 1回目で「新体育館」の結論
不可解なのは、平成22年7月28日に開かれたアドバイザー会議の第一回目で、「新たな体育館を整備する必要がある」と結論付けていることだ。(右の文書参照。以下、すべての文書の赤いアンダーラインはHUNTER)
この時を含めて計5回の会議の議事録は残されておらず、市側が「まとめ」として概要だけを作成しているだけなのだが、会議の初日でいきなり『新体育館』と決め付けたことには意図的なものを感じる。
アドバイザーの顔ぶれは、福岡大学名誉教授、九州産業大学教授、市体育協会専務理事、アビスパ福岡専務の4人で、建築の専門家は九産大教授の1人だけ。福大の名誉教授はスポーツの専門家、残る二人の出身母体は市体育協会とアビスパであり、福岡市が出資する団体である。
会議の議事録がないため、どのような議論が行われたのか定かではないが、このメンバーなら、初めから新体育館を建設することしか念頭になかったと見る方が自然だ。
アドバイザー会議は平成22年末までに3回、昨年11月と12月にそれぞれ1回が開かれているが、この中では新体育館の建設予定地についての議論は行われていないという。
経過から見て、同会議が「新体育館」を整備するという結論を導くためのアリバイの役割を果した可能性が高い。
財政事情無視
市として新体育館建設の方針を決めたのは、高島市長に3人の副市長、総務、財務、市民各局の幹部などが出席した昨年9月7日の「市政運営会議」だが、市ホームページ上に残るこの時の記録を見ると、九電記念体育館の借用期間延長を軸に事業費を抑える形を模索した形跡が皆無だったことが分かる。(右の文書参照)
《九電との土地借用協議については、新たな拠点体育館を整備する方向で検討を進めるとの決定をもって、本年度末までに、一定の整備方針をもって借用期限(H23.3.31)後の利用について協議を行う》。
市幹部の共通認識はあくまでも「新体育館」の建設であり、積極的に九電記念体育館の借用期間延長を図って公費支出を抑えるような他の方法を求めた節は見当たらない。
アドバイザー会議の経過、市政運営会議の結果、いずれも多額な事業費捻出について何の懸念も示されておらず、厳しい財政事情への配慮はまったくなされていない。
なぜこうした安易な政策決定過程がまかり通るのか?答えは新体育館建設の目的が、人工島の土地を埋めるためだったからに他ならない。
不透明な候補地選定過程―決済文書は不存在
福岡市は、さまざまな候補地の中から人工島市5工区、九大箱崎キャンパス跡地、青果市場跡地、西部市場跡地の4箇所に絞って検討したとしているが、なぜこの4箇所になったかは判然としない。
市側の説明では、求められる新体育館の機能を満たすために、3万㎡以上の面積が必要だったというが、ほかの候補地についての詳細な説明文書はなく、いきなり4か所が登場した形になっている。
さらに疑問なのは、4か所に絞ってから人工島を建設予定地として決定するまで、わずかな期間しかなかったにもかかわらず、今年1月27日の「市政運営会議」では、市民局が提示した「新たな拠点体育館の整備基本方針(案)」をあっさり承認。同案の中における建設予定地は「アイランドシティ」(人工島)になっていたのである。(右の文書参照)
それでは、整備方針案を作成した市民局は、いつ「人工島」を建設予定地に決定したのか?
じつは、体育館整備計画に関する一連の公文書の中には、方針決済を示すものは一枚もなく、いつ新体育館建設候補地を決定したのか皆目分からないのである。
変わる候補地決定過程についての説明
事業を担当する市民局スポーツ部スポーツ振興課に確認したところ、方針決定にあたっての決済文書は存在せず、市議会への説明資料として作成した「第一委員会報告資料」6ページに記された《拠点体育館を整備する場所として必要な条件(敷地面積、着工可能時期、交通利便性、周辺環境)を総合的に勘案すると、アイランドシティ市5工区を整備候補地とすることが適当と考えられる》との記述がそれに該当するのだという。(下の文書参照)
しかし、これでは辻褄が合わない。前述したとおり、今年1月27日の「市政運営会議」には市民局が作成した「新たな拠点体育館の整備基本方針(案)」が提示されており、その中には、他の3箇所への言及は一切なく、いきなり「アイランドシティの市5工区地区を整備候補地とする」と明記していたのである。(下の文書参照)
「第一委員会報告資料」は、今年2月に入って開催された市議会第一委員会での説明資料であり、どう考えても「新たな拠点体育館の整備基本方針(案)」の方が先に作成されていたはずなのだ。
13日、改めてこの点を担当課に確認したところ、あっさり「新たな拠点体育館の整備基本方針(案)」の方が先に作成されたものだと認めてしまった。それまでの説明が虚偽だったということになる。
候補地決定過程の説明がつかない状況は、この計画の杜撰さと、結論ありきでやみくもに突っ走った結果である。つまりは初めから「人工島」を目指していたため、積み上げた議論の記録を残せず、追及されて困惑しているという事態なのだ。
さらなる証左
「人工島ありき」だった証左は、前述した今年1月27日の「市政運営会議」の記録にも残されていた。この会議で出された意見の中に、次のよう発言がある。
「港湾局はアイランドシティへの立地を希望するからには、拠点体育館を核とした関連産業・施設の集積を目指すことを打ち出すべきではないか」。
この後、港湾局側が人工島への立地を強く希望し、早急に計画を進めるよう発言しているが、文脈から推測すれば、この日の「市政運営会議」以前に港湾局側から体育館の立地を人工島にするよう働きかけがあったことが分かる。市内部では「人工島」しか見ていなかったということだ。
無理がある人工島選定の根拠
人工島が新体育館建設地として最適と判断された理由は何だったのか。残された文書や市側の説明によれば、
1、4~5万㎡の土地が確保できる
2、市の保有地であり平成27年度には着工が可能
3、人が集まるための交通利便性が優れている
4、中央公園やグリーンベルト(今後形成予定)といった周辺環境の良さ
の4点を挙げているが、はっきり言って、どれも人工島に体育館を建設するための根拠とするには無理がある。
まず、あきれてしまうのは三つ目の理由に挙げられた「交通利便性」である。市内の中心部から離れた場所でありながら、この島には鉄道が通っておらず、公共交通機関といえばバスだけなのだ。一体どこから交通利便性が良いなどという考え方が生まれてくるのだろう。
周辺環境にしても、近くにはコンテナターミナルがあり、行き交うのは大型トラックばかり。さらに、着工可能時期については、何が何でも平成27年度でなければならないという根拠さえ示されていない。
500台分の駐車場?
最大の問題は、「4~5万㎡の土地が確保できる」という1番目の理由だ。当初計画で3万㎡だった土地面積が、いつのまにか4~5万㎡になっているのは何故だろう。
市側に土地面積の広さにこだわる理由を尋ねたところ、「駐車場の確保」が必要であり、「500台分は必要」との答えが返ってきた。だから人工島しかないと言うのであるが、これは本末転倒の話でしかない。
鉄道の駅がない人工島だからこそ、余計に駐車場が必要になるだけで、交通の便が良い場所なら、500台分もの駐車場など必要ない。
こうした無理な"こじつけ"は、役所の専売特許ではあるが、笑って済まされる問題ではない。
ところで、不透明な候補地選定過程、無理な理由付け・・・。どこかで聞いた話である。
符合する「こども病院」の過程
吉田宏前市長時代、こども病院の人工島移転を決めたのは「アイランドシティ整備事業及び市立病院統合移転事業検証・検討」の結果だった。
この作業が進められた過程で、市側が人工島を最適とした理由に挙げたのは、中央公園がそばにあるという環境面の優越性と「駐車場用地が確保できる」という点だったが、こうした方向に向けるため、当初3万㎡とされた敷地面積を無理やり拡げ、最終的に3万5,000㎡にまで引き上げている。
この「検証・検討」をめぐっては、こども病院の現地建替え費用を1.5倍に水増しするなど強引な手法が問題となり、2期目を目指した吉田前市長が落選する要因となったことは記憶に新しい。
新体育館整備計画においても、同様の過程をたどっており、用いられた理屈もほぼ同じ。とても偶然とは思えない。
なぜか?
疑問を解く鍵は「検証・検討」、新体育館整備、それぞれの事務作業を担当した市側の幹部職員にあった。
「検証・検討」は、当時の市総務企画局職員を中心としたチームによって作業が進められたが、チームリーダーだった副市長の下で実務を取り仕切ったのは同局の理事だった阿部亨氏。現在の市民局長その人なのだ。
手続きを省いた強引な手法、すぐぼろが出る杜撰な公文書管理・・・。どれも阿部氏につきまとう独特の行政運営手法ではあるが、その阿部氏が今度は市民局長として「新体育館」を人工島に建設する事業の責任者になっているのである。
事業費200億円?
人工島の土地取得費は約40億円とされるが、設計業者が作成した前出・「拠点体育館のあり方検討資料図作成業務」の報告書には事業費の概算が算出されており、それによると最高で約160億円の工事費がかかるとされる。(下の文書参照)
総額200億円前後の事業費を見込んでいることになるが、すべて市民の税金が投入されることを意味している。
公費支出に無頓着な高島宗一郎市長だが、この人の任期中にどれほどの税金が食い潰されるのだろう・・・。