福岡市(高島宗一郎市長)が市内東区の人工島(アイランドシティ)への移転を進める「こども病院」と「青果市場」。両事業で最も懸念されてきたのが「交通アクセス」の問題だったが、解決の切り札とされてきた「福岡都市高速」の延伸について改めて取材したところ、先行きの不透明さが浮き彫りとなった。
事業主体さえ決まっていないことに加え、高速道路建設を所管し事業の許可権限を有する国土交通省は「国が関与する段階になっていない」としており、いつ延伸が実現するのか分からない状況となっている。
さらに、同高速の老朽化を受けて実施される大規模補修に630億円の予算が必要となるため、200~300億円の事業費を見込む延伸計画にも影響を与えそうだ。
(写真は人工島全景。福岡市のホームページより)
延伸計画の重要性
人工島は市中心部から遠いうえ、鉄軌道も通っていない。通院が困難となることはもちろんだが、救急搬送時の時間的問題は深刻だ。特に低体重出生の場合、「30分が人生を決める」とまで言われることを考えれば、人工島にこども病院を移転させるということは、幼い命の軽視でしかない。
交通アクセスの悪さはこどもの命を預かる病院として致命傷のはずだが、吉田宏前市長が「交通アクセス整備のため都市高速を延伸する」と言い切っていたように、市がこの問題の解決の切り札としてきたのは、人工島の近くを走る都市高速を、こども病院建設予定地付近まで延伸するというプランだった(右参照。市ホームページより)。
一方、現在市内3か所に、西部(西区石丸)、東部(東区下原)、中央(博多区那珂)と分かれて設置されている「青果市場」も人工島への統合移転計画が進んでいる。
こちらも人工島が「遠い」という欠点をカバーするため、都市高速の延伸を前提に市場関係者の移転への同意を取り付けてきており、延伸実現が遠のけば市場関係者も黙っているわけにはいかなくなる。
こども病院は平成26年11月開院予定で、青果市場の開場予定は平成27年である。
これに対し、市が公表している都市高速延伸に向けてのスケジュールは次のようなものとなっている。
事業者も未定
現在、今年度末ごろまでに環境アセス結果および都市計画案の公告・縦覧手続きに入る段階になっており、一見すると順調のように思えるのだが、よく見るとスケジュールは平成25年度の「都市計画決定」までしか記されていない。
都市計画決定までには、いくつかの関門があり、すべて市の思惑通りに進むとは言い切れないが、それでも平成25年度の計画決定までたどり着いたとして、本当の問題はここから。
まず、そこまでに「事業者」を決めなければならないが、意外なことに現時点では延伸事業を福岡北九州高速道路公社が担うのか福岡市の単独事業で行なうのかさえ決まっていないのである。
事業者は、事業計画を策定し国土交通省に許可申請を行うことになるのだが、「有料道路」とするためには、延伸した路線が事業として成り立つかどうかの「試算」が必要。しかし、このために必要な交通量調査なども、いまだに手が付けられていない。
採算性に疑問
夏場は海の中道海浜公園や志賀島方面への車で渋滞する人工島付近だが、普段の通行量は決して多くはない。目立つのは人工島のコンテナターミナルを利用する大型トラックばかりだ。
土地が売れずに定期借地まで持ち出さなければならなくなった状況を考えると、人工島への交通量が飛躍的に伸びるとは思えず、200~300億円とされる建設費をかけても、採算が取れるだけの交通量を確保できる可能性は低い。
延伸計画に影を落とす材料はまだある。
福岡市は、平成24年度から630億円をかけ都市高速の大規模補修を実施することを発表している。同高速1号線は潮風による橋桁の腐食、市中心部と太宰府市を結ぶ2号線は交通量が多いためコンクリートの劣化が顕著になったためだという。
このため26年先に予定していた債務の返済期限を7年延長。通行料の無料化も同じく7年ずれ込むことになっている。この状態で200億から300億円にのぼるという人工島への延伸工事を行ったらどうなるか。
前述したように少ない交通量しか見込めない同島への高速道路延伸が都市高速全体の収支を悪化させることは必定であり、事業許可を得るにあたって最大のマイナス要因になることは否めない。赤字になると分かっている路線に、国が事業許可を与えるほど甘くはないのである。
必要な調査を基に試算を行った結果、「事業としては成り立たない」という結論が出れば、公社が延伸の事業者になることはない。この場合、市が単独事業として延伸を行うことになる。またしても市民が尻拭いするわけだ。
国交省―「国が関与する段階ではない」
肝心の国はどう見ているのか。国土交通省道路局高速道路課に取材したところ、担当する課長補佐は「話は聞いているのですが、国が関与する段階になっていません」とキッパリ。
こちらに気を使って丁寧に説明してくれたが、要するに今後福岡市が「試算」を行ない、事業者が事業計画を策定。これに基づき出された認可申請を受け取ってからが国交省の出番だという。現段階では、国が積極的に延伸計画に関与しているわけではないということだ。
前述したように有料道路として成り立たなければ、福岡北九州高速道路公社ではなく福岡市の単独事業となり、この場合は工事費全額を市民が負担することになる。
ただでさえ市民の批判が根強い人工島に、巨額な公費をかけてこども病院や青果市場を無理やり建設し、さらにその欠点を補うために公費投入を重ねるという構図である。
口が重くなった福岡市
福岡市のこども病院担当や青果市場担当は、都市高速延伸がいつ実現するかについては一切時期を明言しない。というより"できない"のである。
直接都市高速延伸を担当する道路下水道局や住宅都市局は、明快に「いつになるとは言えません」と話す。
首尾よく事業許可が出ても、そこから始まる建設工事自体に5年かかるか6年かかるか分からないというのが実際のところなのだともいう。
総合的に考えると、人工島への都市高速延伸には黄信号が点滅してしている状態なのだ。このままで、こどもの命を守れるとは思えない。
無能な市長が強いる市民負担
ところで、2階建てバスの導入や市役所の改装に、平気で億単位の税金を使う市長(高島宗一郎)だが、こどもの命や市民の台所の将来には無頓着なうえ、さらに市民に重い負担を強いるつもりらしい。
こども病院や青果市場の人工島移転が、赤字にあえぐ人工島事業を救済するため仕組まれたものだったことは明らかだ。すべてのツケが市民に回されるという事態なのだが、同事業に絡んでは、さらに巨額な税金投入が確実視されている。
次稿で、こども病院移転と同様の不透明な手法で進められている巨大公共工事について詳報する。