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玄海町 交際費で古川佐賀県知事と九電側に贈答品

疑惑の町長交際費 「3.11」以後に集中

露骨な再稼動への布石

2012年3月21日 05:25

 九州電力玄海原子力発電所の立地自治体である佐賀県玄海町(岸本英雄町長)が、昨年の4月以降、町長交際費を使って立て続けに古川康佐賀県知事と九州電力側への贈答品を購入したり、経済産業省などへの接待攻勢をかけていたことが分かった。

 町長交際費の支出状況からは、「3.11」以後、表向き慎重な態度を示しながら、じつは原発再稼動を志向する岸本町長の動きが浮き彫りになった形だ。

 また、過去には同町の議長交際費から古川知事への贈答品が『お礼』として購入されており、なんらかの依頼にともなう見返りなら賄賂性が問われかねない支出だったことも判明した。
 
 知事への贈答品はいずれも高額で、公務員同士の儀礼としては明らかに過大。さらに、地方自治法は地方公共団体が行う寄付について、"公益上必要であること"を求めており、一連の交際費による寄付行為は同法の趣旨に背く可能性が高い。

町長交際費の支出状況が示すもの 
 HUNTERが入手した玄海町の町長交際費の「支出票」等の文書から、古川知事関連の支出についてまとめた。

【知事絡みの町長交際費支出】(注:日付、件名、贈答品の内容または支出目的、金額、支出先の順)

・平成23年4月20日「佐賀県知事訪問の折、土産代として」→ 苺6パック=4,725円 →農協へ
・平成23年5月9日 「古川知事を囲む会出席の折、会費として」→ 会費=3,000円→自民党関連団体へ
・平成23年5月26日「佐賀県知事への土産代として」→ 佐賀牛ロース・本生ハンバーグ=10,950円(送料950円込み)→農事組合法人へ

 岸本英雄町長の交際費支出の日付を見ると、そのすべてが昨年の3月11日以降であることが分かる。つまり東日本大震災が引き起こした福島第一原発の事故の後だ。
 
 gennpatu 633.jpg玄海原発2号機・3号機は、昨年1月から順次定期検査のため営業運転を止めており、2号機が3月下旬、3号機が4月上旬に再稼動する予定だった。
 しかし、福島第一原発の事故発生にともない、九電が3月24日に予定延期を発表していた。その後の再稼動をめぐる動きは周知の通りで、原発説明番組における九電「やらせメール」が発覚するなど、混乱を極めている。(写真は玄海1号機と3号機)

 平成18年に岸本町長が初当選してからの4年間、交際費から知事への贈答品代が支出されたことはなく、同交際費における古川知事がらみの支出はすべて"原発再稼動"に関連したものと見られる。
 
 同原発再稼動については、昨年7月4日、岸本町長が九電に対し異例の早さで同意することを伝えていた(その数日後、国のストレステスト実施方針を受け撤回)。
 原発に頼る同町と岸本町長としては、早期に営業運転を再開させる必要があったはずで、古川知事への贈り物には、そうした岸本町長の強い意志が表れている。

九電側にも佐賀牛の贈り物 
 その表れは同時期の別の支出でも明らかだ。5月26日に「佐賀県知事への土産」として佐賀牛を贈った4日後の30日、岸本町長は九州電力訪問にともない、同じく佐賀牛の詰め合わせ25,600円分を購入していたのである。(下の左側が知事への土産に関する支出票、右が九電への土産代の支出票。(以下、関連文書にある黒塗りは玄海町、赤と青のマークはHUNTER編集部)

gennpatu 11392.jpg  gennpatu 11393.jpg

 支出表では知事や九電と記された部分が黒塗りされているのだが、歳出の「執行状況調書」にはそれぞれの支出目的が明記してある(下の文書)。

gennpatu 玄海.jpg

 岸本町長が佐賀牛を届けた九電側の人間が誰なのかは確認できていないが、購入された商品の内容が「1P」(1パック)となっていることから、特定の相手を対象とした贈り物だったと推測される。
 
 岸本町長と佐賀牛をもらった九電側の人間との間でどのような話が交わされたのか知る由もないが、同町長は、九電側の"誰か"に贈り物を届けた3日後、定期点検で停止中の2号機・3号機について「国から2回『支障がない』との判断を頂いた。6月中にも再開を了承したい」と表明している。
 
 再稼動を急ぐ岸本町長の姿が浮き彫りとなった形だが、実弟が社長を務めるファミリー企業「岸本組」が原発マネーを独占する構図と無縁であるとは思えない。利権を守るため、なりふり構わず動いたということだ。

同時期、国へも接待攻勢
 岸本町長の原発再稼動にかける意気込みは、国への接待攻勢を見ても明らかだ。
 「3・11」以後、原発の所管官庁である経済産業省やその天下り団体に対し、それまで以上に接待が急増したことが認められる。(以下、すべて平成23年の支出。)

・4月12日 「経済産業省資源エネルギー庁との打ち合わせの折、食事代」 37,730円(於:玄海町)
・5月17日 「資源エネルギー庁との意見交換の折、懇親会費として」 90,000円(後日6,730円返金)(於:東京都)
・5月21日 「経済産業省資源エネルギー庁との打ち合わせの折、食事代」 16,910円(於:玄海町)
・6月20日 「町長上京の折、土産として(電源地域振興センター他)」 32,564円
・6月20日 「電源地域振興センター訪問の折、懇親会費として」 32,330円(於:東京都)
・7月16日 「原子力行政打合せの折、懇談会費として」 40,634円(於:唐津市)
・9月30日 「資源エネルギー庁との意見交換の折、食事代として」 39,282円(於:唐津市)
・10月13日 「(財)電力中央研究所○○○○来町の折、接遇代」 5,940円(於:玄海町)
・10月14日 「(財)電力中央研究所○○○○来町の折、土産として」 16,370円

賄賂性問われる議長交際費の支出
 一方、岩下孝嗣町議会議長の交際費支出では、3・11以後の目立った動きはないものの、違法性を問われかねない性格を帯びたものがある。

【知事絡みの議長交際費支出】(注:日付、件名、贈答品の内容または支出目的、金額、支出先の順)
・平成19年12月14日「古川康知事との懇談会の折、会費として」→ 会費=10,000円→支出先不明
・平成20年2月18日「行政懇談の折、古川康知事へのお礼として」→ 佐賀牛ロースしゃぶしゃぶ用・佐賀牛焼たたき・本生ハンバーグ=15,000円→農事組合法人
・平成23年1月27日「古川知事との懇談会の折、会費として」→ 会費=議員8名分 24,000円→支出先不明
 
 平成20年2月18日に議長交際費から支出された知事への贈答品は『お礼』とされ、なんらかの依頼に知事が応えたことへの見返りならば、賄賂性が問われることは言うまでもない。
 
 この日は、玄海町役場内において「第68回佐賀県原子力環境安全連絡協議会」が開かれており、「支出票」に記された『行政懇談』とはこの会議そのものか前後の会議を示すものと見られる。
 同協議会は、県や原発周辺地域の自治体、国や九電などが出席するもので、会長である知事への「お礼」など必要ないはずだ。

地方自治法上の問題点
 玄海町における一連の交際費支出には、地方自治法上の問題が生じる。
 
 同法232条の2には、地方自治体が行う「寄附又は補助」について《普通地方公共団体は、その公益上必要がある場合においては、寄附又は補助をすることができる》と規定しているが、古川知事や九電側への贈り物、すなわち『寄附』が公益上必要な支出とは考えられないからだ。
 
 同町に交際費支出についての詳しい規定がないため、岸本町長や岩下議長の恣意的な交際費使用を招いたものだが、法的な公費支出の根拠に乏しい知事や九電側への贈り物は、違法な支出と見なすべきだろう。

 玄海町の交際費支出については他にも問題があり、次稿で詳述する。 



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