増税国会の論戦が始まった。野田首相は、国会議員定数の削減や公務員給与の引き下げを断行するから増税を認めろと言うが、果たしてそれが国民の痛みに見合う「身を切る努力」なのだろうか。
結論から言ってこの程度のことは当たり前、増税の前に是正すべき課題は山ほどあり、野田政権と霞ヶ関の言い分をスンナリと受け入れるわけにはいかない。
政治や行政の世界には、あまり世間に知られていない非常識な慣習が多い。順次報じていくが、まずは公務員の旅費についてである。
旅費「投げ渡し」
右の旅行命令書は福岡市の高島宗一郎市長が、昨年12月26日に大阪出張した時のものである。(赤いアンダーラインと矢印はHUNTER編集部)
用務は「ソーシャルビジネス調査」と記されているが、市長に同行した福岡市総務企画局の職員に確認したところ、大阪でソーシャルビジネスに取り組んでいるNPO法人に話を聞きに行ったのだという。
市長に支払われた出張旅費は63,172円であるが、この命令書からいくつかの問題が見えてくる。
まず、出張にかかった新幹線代を示す「鉄道賃又は船賃」や「宿泊料」の欄に何も記載されていないことだ。
市側の説明によれば、「63,172円」という金額が内規で定めた範囲内(63,172円が満額)であり、交通費や宿泊費について記載しなくてもいいのだという。「投げ渡し」の金ということだ。
さらに、この大阪出張に関し情報公開制度にもとづき開示されたのはこの旅行命令書1枚。新幹線代と宿泊費の"領収書"はないのである。つまり、大阪出張の事実を公的な文書によって"証明"することができないということになる。
「投げ渡し」の大きな弊害であり、こうした甘い制度が不正の温床になる可能性は否定できない。
厚遇される公務員の出張旅費
次に問題となるのは、旅費の総額についてである。
「福岡-大阪」間往復の新幹線代と宿泊費等で「63,172円」という内規で定められた金額は妥当なのだろうか。
「福岡市職員等旅費支給条例」によれば、市長に関しては、旅費のうち日当が3,300円、1夜の宿泊費が16,500円、一夜の食卓料3,300円をぞれぞれ支給すると定めている。これだけで23,100円になる計算だ。
旅費は、市長、副市長、市議会議員、教育長などを指す「特等級」とされるものから「3等級」までの4段階でその定額を決めているが、一番下の「3等級」でも日当2,200円、宿泊費10,900円、食卓料2,200円が支給される。
民間企業の出張ではあり得ない厚遇である。
さて、残り40,072円が新幹線代などの交通費ということになるが、「福岡-大阪」間の往復料金は、現在のところ指定席で27,900円、グリーン車利用だと39,480円となる。
市長がグリーン車を使ったのか通常の指定席だったのかは分からないが、公費支出を少しでも削減しようという意識の持ち主なら、選択肢はひとつしかない。
ただ、国保料の引き上げをめぐる市長の言動(公約違反を指摘され、年間391円の値上げについて『月30円は値上げと言えば値上げ』などと軽率発言)から推察するに、率先して旅費を浮かそうとしているとは思えないが・・・。
ちなみに市条例には次のような規定がある。
《旅費は、最も経済的な通常の経路及び方法により旅行した場合の旅費により計算する》。
宿泊費領収書、国も添付義務定めず
そもそも民間では、出張を証明する領収書などの提出が免除されることなどまずあり得ない。
市は、出張先によって航空券代などの領収書を添付させているが、「宿泊料」に関する領収書の添付義務は規定していない。
じつは、公務員の出張に関して、宿泊費の領収書提出を義務付けている自治体は少ない。
これは国家公務員の出張旅費に関する「国家公務員等の旅費に関する法律」をはじめとする法令などに、宿泊費にかかる領収書の添付を義務付けていないことが大きな要因となっている。
実際、領収書の不存在についてその理由を尋ねると、大半の自治体が、「国の方針に準じてやっている」と回答している。
極端な話かもしれないが、出張先の親戚や友人の家に泊めてもらった場合、宿泊費が全額公務員の懐に入っても分からない仕組みなのだ。まさに"役人天国"である。
公務員の出張が、税金を使っての業務として妥当かどうか、誰の目にも明らかだろう。
残念ながら、「税金の無駄をなくす」と言っていた民主党政権が、こうした実態にメスを入れたという話は聞いたことがない。
増税の前にやるべきことはまだまだある。