政権交代が実現するまで、民主党が声高に叫んでいたのは「政治主導」。国民の利益ではなく省益を優先し、税金の無駄遣いを続けてきたのは霞ヶ関で、この国を動かしているのが事実上「官僚」であるとの認識に立ったものだった。
有権者がそうした主張に共感し、官僚とつるんできた自民党に愛想を尽かして民主党に政権を委ねたのは事実だろう。が、総選挙が行なわれた平成21年夏から2年以上が過ぎ、同党の訴えはすっかり色褪せてしまった。
いまや永田町は霞ヶ関の下請機関と成り果てている。
霞ヶ関の振り付けで踊る野田政権
就任以来、野田佳彦首相は民主党を崩壊に導く数々の施策を全面に押し出している。
増税、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉への参加、社会保障費の負担増、年金需給年齢の引き上げ・・・。
どれも破たんしかかった国の仕組みをごまかすために推し進めているようなもので、国民生活を守るという視点は欠けている。
振り付師は、財務省の勝栄二郎次官と言われており、総理秘書官を含めた官邸人事も勝氏の思い通りに決められたとされる。
民主党のある国会議員は自嘲気味にこう話す。「政治経験の浅さを露呈した結果だ。衆院議員の半数近くが1年生議員で、政権運営の何たるかを知るベテランは旧自民党組ばかり。政権を取ったことで舞い上がり、はしゃいでいる間に霞ヶ関に党としての弱点や議員個々の資質や能力を見透かされてしまった。官僚頼みの体質に拍車がかかるばかりで、どうにもならない状況。政界再編を視野に入れて、政治への信頼を取り戻すしかない」。
「仕分け」も霞ヶ関主導
今月、西日本新聞は、内閣府行政刷新会議が11月下旬に実施した提言型政策仕分けにおいて、仕分け人が話す内容を誘導する「アンチョコ」といわれる文書を配布していたことをスクープした。アンチョコ案は財務省の主張を土台にしたもので、主導権を握っているのが同省であることを如実に示した形だ。
民主党政権で唯一評価を得ていた「事業仕分け」だが、じつはこちらも財務省のコントロール下で行なわれていたとの証言がある。
仕分け対象の事業は、民主党側が選んだのではなく、財務省が削りたいものばかりだったとされ、民主党議員や仕分け人が議論のテーブルに上げようとした事業はことごとく外されたという。
複数の国会議員や仕分け人経験者からは、早くからそうした不信の声が上がっていたのは事実だ
仕分け対象から外された犯罪行為
HUNTERが1年以上にわたって追跡取材している案件は、仕分けすべきものだったにもかかわらず、闇に葬られたいきさつがある。
もっとも、その事業の進め方自体、犯罪行為をともなうもので、ひとつが暴かれると同様の疑いが全省庁に波及する可能性が高い。
霞ヶ関全体の利益を考えて仕分け対象から外したと見る。
いずれにしろ、事業仕分けは、人気取りに最適と目論んだ民主党と財務省による大掛りな「やらせ」だったと言っても過言ではない。霞ヶ関による民主党支配は、とうに始まっていたのである。
「なめられた」民主党
政権交代にともない、自民党議員の秘書から民主党議員の事務所スタッフへと転身した永田町のベテランが、現在の実態を明かしてくれた。
「霞ヶ関の対応を見ていると、民主党自体がなめられているんだと思い知らされる。例えば、同じ政策課題について自民党の部会に役所が提供する書類と、民主党の部門会議で配られるものとでは、明らかに量も質も違う。民主党にはこの程度でいいということなんでしょう。
ただし、民主の部門会議には課長級以上を出席させるのに対し、自民党の部会にはそれ以下の役職の人間を出してくる。バランスをとっているつもりらしいが、肝心なのは内容の濃い議論ができるかどうかのはず。民主党議員の質が政権政党としてのレベルに追いつかない限り、政治主導の実現は困難だと思いますよ」。
霞ヶ関の対応の違いは別のところにも見られるそうで、自民党政権時代、役所に資料請求すると早い時には即日、遅くても翌日くらいに届けられた書類に、3日も4日もかけ、催促しなければ1週間以上放置するケースも。やっと届いた書類も不完全なものが多く、意図的に情報を隠していることがわかるという。
党務も官僚頼み
さらに別の民主党関係者からは、信じられない実態を聞いた。
「自民党の部会にあたるのが部門会議ですが、座長のなかには、官僚に『次、何やればいい?』と聞いて会議の進め方を相談する人もいるんです。政治主導なんて夢のまた夢」。
ちなみに、民主党の政策調査会は、前原誠司会長の下に会長代行の仙谷由人氏、そして内閣部門会議のほか、財務金融、総務、法務、外務、防衛、文部科学、厚生労働、農林水産、経済産業、国土交通、環境、決算・行政監視の各部門会議が設置されている。
自民党は政務調査会に「部会」が設けられており、内閣、国防、総務、法務、外交、財務金融、文部科学、厚生労働、農林、水産、国土交通、環境の各部会がある。
問題は、民主党の事務局に、かつての自民党のような官僚と同等の知識を持った専門職員が少ないことだという。
このため、民主党の国会議員が政策課題について勉強する場合、官僚に話を聞くしかない状況になっており、結果、政権運営や党務が霞ヶ関の誘導に従うという悪循環に陥ってしまったとされる。
やはり民主党政権下で「政治主導」を実現することは困難なようだ。消費税増税を主体とした社会保障と税の一体改革の裏には、財務省の野望しか見えてこない。