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新潟県、「米粉」めぐって詐欺まがい事業

製粉特許、すでに消滅・失効

2011年12月26日 09:20

 米の消費拡大に寄与することが期待される「米粉」をめぐって、新潟県が詐欺まがいともいえる事業展開を行なっていたことが明らかになった。
 
 同県は、すでに消滅、失効した米粉製造に関するふたつの特許を、現在でも保有しているかのように印刷物やホームページで広く紹介、製粉業界などに売り込みをかけていた。県が出資する「新潟製粉」をはじめ農林水産省までが、ないはずの特許を米粉事業の軸に据えていた。一連の行為は、特許法に抵触する可能性さえある。

 今月21日のHUNTERの取材に対し、新潟県側も事実関係を認め、今後の対応を検討するとしている。

「二段階製粉」と「酵素利用製粉」
 新潟県は、米を加工して小麦粉に匹敵する微細な米粉を製造する技術を開発。平成2年頃から合計7件にのぼる特許を出願、取得していた。新潟県に情報公開請求して入手した「特許証」から確認した特許番号と特許取得年、発明の名称は次のとおりだ。
【特許第1866267号】平成6年「米粉の製造方法及びその利用食品」
【特許第2077863号】平成8年「微細粒米粉並びにその製造方法並びに当該微細粒米粉を使用した加工食品」
【特許第3061561号】平成12年「米粉及び米摩砕乳液の製造方法」
【特許第3076552号】平成12年「小麦粉の代替品となる米粉の製造方法及び当該米粉を使用した加工食品」
【特許第3295654号】平成14年「粳米加工製品の製造方法、餅状形成整形体の製造方法及びα粉の製造方法」
【特許第4451167号】平成22年「パン製造用の米粉及び米粉を用いたパンの製造方法」
【特許第4528994号】平成22年「米麺及びその製造方法」

新潟県の微細製粉技術の紹介 新潟県は、このうち平成6年に取得した「米粉の製造方法及びその利用食品」(特許第1866267号)を『二段階製粉』、平成8年に取得した「微細粒米粉並びにその製造方法並びに当該微細粒米粉を使用した加工食品」(特許第2077863号)を『酵素利用製粉』と命名し、「県保有特許」として幅広く広報を展開、米粉消費の拡大を図るための事業を推進してきた。

 21日現在、同県のホームページ上でも「新潟県の微細製粉技術の紹介」としてふたつの特許を紹介しているほか、新潟の食を戦略的にプロデュースする「うまさぎっしり新潟『食のプロデュース会議』」の資料にも県保有特許の紹介ページがある。

消滅・失効していた「二段階製粉」と「酵素利用製粉」
 ところが、『二段階製粉』と称する「米粉の製造方法及びその利用食品」(特許第1866267号)は、特許法の規定で平成2年の出願から20年が経過した昨年6月の時点で「消滅」。
 さらに、平成8年取得の『酵素利用製粉』すなわち「微細粒米粉並びにその製造方法並びに当該微細粒米粉を使用した加工食品」(特許第2077863号)も、平成14年に特許の更新料支払いを打ち切ったため「失効」していた。
 
 『2段階製粉』と『酵素利用製粉』については、HUNTERが新潟県に直接取材した今月21日まで、県や同県が米粉市場開拓のため設立した第3セクター「新潟製粉株式会社」の印刷物やホームページ上で、新潟県の米粉製造にかかる「県保有特許」として、図解や文章による広報を続けていた。
 これまで、「県保有特許」として大半の米粉広報に登場したのが下の図解だ。
米粉のできるまで
 「二段階製粉」は昨年6月に特許の有効期限が消滅しており、これに替わり「二段階」と表示することのできる特許は存在しない。
 また、「酵素利用製粉」については、平成12年に県が取得した「小麦粉の代替品となる米粉の製造方法及び当該米粉を使用した加工食品」(特許第3076552号)がこれに替わるものとしているが、この米粉製造方法は《クエン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等の有機酸水溶液から単独若しくは二種類以上選択して組み合わせることで処理溶液を作成し》、この処理溶液に玄米、精白米などの米を浸漬した後、脱水し製粉乾燥させるというもので、図解に示された平成8年取得の「酵素利用製粉」製造特許とは明らかに違うものである。

意図的使用の可能性
 問題となった米粉の特許を所管する新潟県農林水産部農業総務課政策室は21日、多用されている図解にある「二段階製粉」と「酵素利用製粉」が、それぞれすでに消滅、失効しているものであることを認め、ホームページ上からの削除を含め、今後の対応を検討すると明言した。

aff_1102.jpg また、「2段階製粉」については昨年6月に消滅していることに気付かなかったとしているが、失効した「酵素利用製粉」にあたる図解を使用していたことに関しては「説明資料として使いやすかった」と話しており、現状で保有する特許と図解が、違う内容であることを認識していたことになる。

 新潟県の泉田裕彦知事は、今年5月27日に自身のメールマガジン「たがいに・にいがた 第245号」で《新潟県は米の作付面積、収穫量、農業生産額とも全国第一です。米粉製粉技術の開発にも早くから取り組み、「二段階製粉」、「酵素処理製粉」という米粉製粉技術で県は特許を取得しています》と明記していた(リンク)。
 知事に対して、宣伝しているふたつの特許がすでに消滅していることを報告してなかったと見られる。
 
 また、米の消費拡大を図る農林水産省も、小麦に替わる製品として米粉の普及・宣伝を続けてきており、度々新潟県の『二段階製粉』と『酵素利用製粉』を紹介。同省発行の雑誌「aff(あふ)」平成23年2月号にも掲載していた(同省「aff」ホームページ)。

 すでに消滅・失効して特許権を主張することができなくなっているにもかかわらず、新潟県をはじめ関係機関は、米粉に関して実態とは違う表示を繰り返していたことになる。

問われる違法性
 特許法は、特許に絡んで「虚偽表示の禁止」を定めており、新潟県が消滅・失効した特許を保有しているとして様々な媒体に公表してきたことは、この規定に抵触する可能性がある。

米粉に関する県有特許技術の県外企業への許諾について 問題は、虚偽表示だけにとどまらない。
 新潟県は、県内で米粉を製造したり米粉を使ってパンや麺などを作る企業に、「県有特許権等実施許諾申請」を行なわせ、特許料を払わせているうえ、平成20年9月からはそれまで認めていなかった県外企業にも許諾するようになっていた。
 
 これまで延べてきたように、「二段階製粉」は昨年6月、「酵素処理製粉」に至っては平成14年にそれぞれ消滅もしくは失効している。しかし、県はこの事実を公表せず、県有特許として広報を続けてきており、業者はもとより消費者まで騙した形だ。
 関係者から「詐欺まがい」(米粉製造業者の話)との厳しい批判が出るのは当然のことだろう。

「詐欺まがい」失効特許に使用料
 「県有特許権等実施許諾申請」を提出し、米粉を製造している企業の中には、失効した特許である「微細粒米粉並びにその製造方法並びに当該微細粒米粉を使用した加工食品」(特許第2077863号)の製造方法を利用しているところがあるのだが、申請書には県側からの説明や指示によって平成12年に県が取得した「小麦粉の代替品となる米粉の製造方法及び当該米粉を使用した加工食品」(特許第3076552号)を使用する旨を記入、特許使用料を払い続けているという。

 県が図解に示し広報している「酵素処理製粉」は、すでに特許としては失効しており、同製法を使用する業者が特許料を支払う義務はなくなっている。

 製粉業者に対し、県がどこまで真相を語るか、注目していきたい。



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