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税金使って建設業者を「ガード」

県が隠蔽図った内部文書入手

原発立地県・鹿児島の狂った県政(2)

2011年11月11日 08:30

業務支援依頼(一部) 鹿児島県が薩摩川内市で建設を進めている産業廃棄物の最終処分場をめぐって、県庁職員を大量に動員して住民を威圧してきた、いわば「県民弾圧」の証拠ともいえる文書の存在が明らかとなった。
 
 文書は、HUNTERが独自に入手したもので、鹿児島県側は10日の確認取材に対し、県の処分場事業担当部が作成したことを認めている。

 文書には、「施工業者が円滑に工事を実施できるよう、県職員等によるガードを行う」(原文ママ)と明記。住民から工事業者を守るという本末転倒の目的のために、鹿児島市内にある県庁各部局から薩摩川内市の工事現場まで、連日40人以上を動員することを企図した形となっている。

 住民を守るべき行政が、事業と関係のない部局の職員まで使って逆に住民を苦しめている証拠文書の存在に、批判の声が上がりそうだ。

 HUNTERは9月、鹿児島県に対し該当文書の存在について情報公開請求したが、県は開示決定までの期限を引き延ばした末に文書の存在についても回答を拒否し、事実関係の隠蔽を図っていた。

隠蔽文書の内容
業務支援依頼(全体) 問題の文書は、処理場の建設工事がはじまった今年9月、事業を所管する県環境林務部から県庁内の各部局に出された「産業廃棄物管理型処分場建設工事に係る業務支援の依頼について」と題するもの。(右の文書参照。赤いアンダーラインはHUNTER編集部)

 鹿児島県の各部局は、この依頼に基づき9月21日から10月5日過ぎまで連日40人から多い日で80人の職員を本庁内から動員、説明不足のまま工事を強行する県に抗議する地元住民に対し、威圧する行動を繰り返していた。
 県の出先である北薩地域振興局や産廃処分場の事業主体である鹿児島県環境整備公社の人数を加えると、最大時には百数十名の県職員らが住民と対峙していたという。

 依頼文には、動員の目的や業務内容、各部局ごとの動員数、動員される職員の名簿提出要領などが詳しく記されている。
 「依頼」の形式とはいうものの、各部に動員職員の名簿提出を義務付けており、事実上の業務命令に近い形だったと見られる。

 冒頭の「目的」には《薩摩川内市川永野地区を整備地とする産業廃棄物管理型処分場建設工事については、建設に反対する住民等が現地に集まり、施行区域への施行業者の進入を妨害している状況である。
 このようなことから、県が管理している同処分場用地を管理し、施工業者が円滑に工事を実施できるよう、県職員等によるガードを行う》(原文ママ)と明記してあり、県職員として守るべき対象が住民ではなく工事業者であることを証明したようなもの。

 gennpatu 443.jpg また、《建設に反対する住民等》、《施工業者の進入を妨害している》などと指摘された側の薩摩川内市の住民は、大半が50代から70代。しかも女性が半数以上を占めており、工事業者に危害を加えるなどといった、暴走の心配など皆無の人たちだった。
 県職員の動員は、数の力に頼った「住民排除」を目的としたものだったことになる。

 最大の問題は、住民を敵視したあげく「施工業者が円滑に工事を実施できるよう、県職員等によるガードを行なう」と記された箇所だ(冒頭の文書参照)。

 gennpatu 411.jpg迷惑施設である産廃処分場の建設に反対するのは、地元住民として当然の権利である。処分場建設にあたって、県側は十分な説明や必要と思われる調査を怠っており、地元住民らがさらなる説明を求めるにはそれなりの理由があったはず。にもかかわらず、年配の住民たちを数の力で威圧し工事を強行することは、権力を笠に着た暴力に他ならない。

 本来、住民の安全を守るべき立場の県が、住民を脅し苦しめていいはずがない。見方を変えれば、納税者を徴税権者である県が弾圧し、利権にありついた業者を税金を使ってガードするという、驚くべき事態でもある。
 どう見ても理不尽であり、伊藤県政の歪みを露呈させた形だ。

事務分掌を無視した動員
 県庁職員を大量動員し住民弾圧のサムネール画像同処分場用地は、県が地場大手ゼネコンの関連会社からリースと買収によって確保した土地で、たしかに県の"管理地"と言えるのだが、処理場の事業主体は県ではなく、県の外郭団体「財団法人 鹿児島県環境整備公社」となっている。
 公社の事業に県の本庁職員まで動員するということには無理があったらしく、依頼文では、苦肉の策として動員された職員の業務内容を「土地の管理業務」としている。

 一方で鹿児島県は、「鹿児島県部等設置条例」で部ごとの分掌を、「鹿児島県行政組織規則」では課ごとの分掌内容を詳しく定めている。

 しかし、動員が割り当てられた部局名を見ると、所管課の環境林務部のほか、総務部、県民交流部、企画部、保健福祉部、商工労働水産部、観光交流局、農林部、土木部など、ほとんどの部局から人員を送り出す形となっており、知事公室や出納局の職員まで駆り出されていた。
 明らかに事務分掌とは違う職員の使い方をしており、環境林務部が勝手に各部に依頼して動員をはかることは条例や規則に違反する可能性もある。

県側の詭弁-動員は「住民守るため」
 こうした点について県側の話を聞くため、10日、所管課の県環境林務部廃棄物・リサイクル課の参事に正式に取材を申し入れた。
 取材に応えた参事と記者のやり取りは、およそ次のようなものだった。

 記者:薩摩川内市の産廃処分場建設工事へ動員されているのは県庁の職員に間違いないか。
 参事:そうです。

 記者:動員をかけたのは何人か?
 参事:動員は、えー・・・。

 記者:動員の依頼文書はあるか?
 参事:開示請求への回答の中で答えるということで・・・。

 記者:何のための動員か?
 参事:(処理場の)土地は県が借りており、取得した土地もありまして、処分場整備が円滑に進むようにということと、住民の方々があれだけ来ておられまして、公道上で車の前に立ち塞がったり、車の下に足を入れられるなど混乱があり、不測の事態がおきないように職員が行ったということです。

 記者:住民の安全を守るためということか?
 参事:そういうことですね。

 記者:住民の安全を守るためで間違いないか?
 参事:混乱や不測の事態を防ぐためですが、とくに懸念しているのは向こうの方々(地元住民を指す)は車の下に足を入れられるので、けがをしたりする、そういったことを考慮して職員が行っている。

 記者:工事業者を守るためではないのか?
 参事:そういうことではない。私どもとしては処分場工事を円滑に進めるという立場にもあるし、住民の方というのは県民の方ということでもありますし、混乱が生じたり不測の事態を防ぐためにやっているということですね。

 記者:ところで、10月4日には100名以上の職員がいたようだが、本庁からは何人動員したのか?
 参事:本庁であったり、本庁ではないところからも(動員が)あるので、ちょっとこれは早急には答えられない。
        (この間省略)
 記者:本題に入る。読み上げるが、産業廃棄物管理型処分場建設工事に係る業務支援の依頼について、とする平成23年9月20日付け、環境林務部からの文書がある。目的には県が管理している同処分場用地を管理し、施工業者が円滑に工事を実施できるよう県職員等によるガードを行なう、とあるほか、本庁からの支援人員予定は1日当り40人として各部からの動員数がズラリと書かれている。この文書は一体何か?
 参事:ちょっと待って下さい。ちょっと待って下さいね。
 (この後の、文書の内容についてやり取りを省略)
 記者:だいぶさっきの参事の話と違うようだが?
 参事:動員の目的はさっき言ったようなことですから・・・。

 記者:いま読み上げた文書は、環境林務部が県庁内に配布したということで間違いないか?
 参事:ちょっと、そこは確認できていないので、分かりませんけどね。

 記者:それはおかしい。ほかの職員は、参事ともうひとりの担当職員しか話が分からないと断言している。あなたの知らないところで勝手にこのような文書が出されるのか?
 参事:なかみを見ないと分からない。その文書はどうされたのか?
記者:あなたに入手方法を答える必要はない。文書を確認して環境林務部が作成した文書であるか否か回答してもらいたい。

 このあと、問題の文書のコピーを参事側にFAXで送付したところ、言い訳や強弁はまだ続いたが、最終的に「環境林務部として出したもの」として同部が作成したものであることを渋々認めた。お粗末と言うしかない。

 当初、住民の安全を守るためと明言しながら、雲行きが怪しくなると地元住民の妨害行為を強調、動員依頼文書の存在を示したとたん、うろたえる始末。

 工事の進捗状況を考え、問題の文書の存在を隠そうとしたのは歴然としており、鹿児島県側の県民に対する背信行為は悪質だ。

伊藤鹿児島県政の歪み
 行政の不正と戦ってきた市民オンブズマン福岡の児嶋研二代表幹事は、これまでの経過と問題の依頼文について次のように話している。
 「九電の『やらせメール』で明らかとなったように、原発立地自治体については問題が多すぎる。自治体の役割は住民を守ること。鹿児島のケースはその自治体が本来の在り様とは逆の立場で住民を押さえ込んだ形。動員に関する文書を出し渋ることからして、意図的に役割を忘れているとしか思えない」。

 ちなみに、伊藤祐一郎鹿児島県知事の公式ホームページには、平成20年の知事選で掲げたマニフェストが紹介されている。
 そこに大きく記されているのは「『子どもからお年寄りまですべての県民にとって優しく温もりのある社会の構築』。・・・これが私の2期目の課題です」という知事の言葉だ。(下記参照)
伊藤 祐一郎 マニフェスト 伊藤知事は、この記述とは正反対の県政を行なっており、選挙のために平気で思ってもいないことを並べ立てただけらしい。
 
 この官僚出身の冷酷な知事には、子どもや孫たちのために豊かな自然を守ろうと、泣きながら県の職員に説明を求めるお年寄りたちの気持ちを汲み取ることなどできないだろう。

つづく



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