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福岡こども病院PFI入札に「疑惑」

詐欺まがい業務の企業が参入

入札選考委員には伝えず

2011年11月 2日 09:30

 福岡市政に混乱を招いてきた市立こども病院の人工島移転事業をめぐって、極めて不適切な事実が明らかとなった。

 今年8月に実施された入札で同事業のPFI事業者(8社で構成)となったグループの中に、福岡市の公共施設で指定管理者を任されながら、所定の業務を行なわなかったことが市の監査で発覚し厳しい改善指示を受けていた企業が2社も含まれていたほか、入札審査にあたった有識者委員会にこの事実が伝わっていなかったというもの。

 改善指示を受けたPFI事業者の代表企業は、公金詐欺まがいの杜撰な業務を行ない、一部の指定管理料を市に返納するなどしたグループの一員だった。

 市やこども病院を運営する「地方独立行政法人福岡市市立病院機構」は、監査結果と改善指示の事実を有識者委員会に伝えておらず、入札審査の過程では2社の適格性が議論されることはなかった。

 入札に応募したのは不祥事を起こした2社を含む1グループだけだったが、複数応募だった場合、審査結果に重大な影響を及ぼした可能性もある。(写真は、福岡市役所)

 "1者応札"で事業者決定
 今年8月、市内東区の人工島(アイランドシティ)に建設が予定される「福岡市立こども病院」のPFI事業者が決定した。
 
 事業者選定にあたっては、応札価格だけでなく提案内容や各企業の能力などを総合的に評価する"総合評価一般競争入札"が採用されたが、応札したのは事前予想通り、「九電工」を含む企業グループのみ。いわゆる1者応札だった。

 落札したPFI事業者の構成企業は次の8社である。
代表企業:日本管財株式会社(本社・兵庫県西宮市。施設管理)
構成員  :戸田建設株式会社九州支店(支店・福岡市。建設業務)
       株式会社九電工(本社・福岡市。建設業務)
協力企業:株式会社山下設計(本社・東京都中央区。設計・工事管理業務)
       株式会社松本組(本社・福岡市。建設業務)
       株式会社設備保守センター(本社・福岡市。施設管理業務。)
       株式会社麻生(本店・福岡県飯塚市。医療アドバイザー業務)
       株式会社光洋(本社・神奈川県横浜市。利便施設運営業務)

 よほどの問題がない限り、応札した事業者が自動的に落札する形だが、じつは上記の事業者グループの中には、明らかに不適格と見られる企業が2社も含まれていた。

指定管理業務で不祥事発覚
 gennpatu 597.jpg昨年行なわれた市の定期監査で、市の公共施設における指定管理者となっていた九電工と日本管財が、不適切な業務を行なっていたことが発覚した。(参照資料の赤いアンダーラインはHUNTER編集部)

 今年2月に市が公表した監査結果によれば、市営築港駐車場の指定管理者だった九電工は、事業報告書に記載すべき管理に係る経費等の収支状況報告をまったく行なっていなかったほか、市に納める収納金を自社の売り上げと混同したため、収納金と市への払い込み金額が一致せず、市側の受け取り金額に不足が生じたとされる。指摘を受けた九電工は収納金の不足分を市に払い込んでいる。

 一方、市立博多体育館、同南体育館、同博多市民プールおよび同南市民プールの指定管理者として、スポーツ関連企業「ミズノ」とグループを構成していた「日本管財」側はさらに悪質だった。

 ミズノグループは、管理業務を行なっていたすべての施設で、指定管理者への応募時に提出した自社の社員3~4人を要所に配置するとした計画を無視して各施設の受付業務を別会社に丸投げ。さらに他の業務でも不履行が目立ったあったほか、実施していない清掃業務を「終えた」と日誌に記入するなど、デタラメな業務を繰り返していた。

 極めつけは南、博多の両市民プールにおける信じられない業務実態で、国が示した衛生基準である毎月1回の水質検査を実施せず、平成21年4月から7月までの4ヶ月間、何も行なわずに放置していたという。公金詐欺と言っても過言ではない仕事ぶりだ。

 九電工と、日本管財を含むミズノグループの双方に、市から厳しい改善指示が出されたことは言うまでもないが、こども病院のPFI事業者グループの中には、こうした不良業者が参加していたことになる。
 悪質だった日本管財が代表企業だったことにも驚きを禁じえない。

知らされなかった監査結果
 問題はこの監査結果が、PFI事業者の提案内容を審査し落札者を決める「福岡市新病院整備事業有識者委員会」(以下、有識者委員会)に知らされていなかったことだ。
 
 HUNTERが「地方独立行政法人福岡市市立病院機構」(以下、「病院機構」)に情報公開請求して入手した有識者委員会の9回に及ぶ会議の議事録のうち、監査結果が市公報で公表された今年2月以降の4回分(第6回~第9回)を確認したところ、九電工と日本管財の不祥事についての議論は一切行なわれていない
 
 つまり委員たちは、市の指定管理者となっていた両社が改善指示を受けたことを知らなかったか、あるいは知っていて黙認したのかのどちらか、ということになる。

 ただし、7名からなる有識者委員会は、委員長の一橋大学大学院教授をはじめ大半が大学の教授をもって構成されており、例外は福重淳一郎こども病院院長だけ。 福岡市民でも見る機会がない「福岡市公報」を、委員たちが読んでいた可能性はゼロに近い。
 市や病院機構側が事実関係を知らせなかったため、審査の過程で監査結果が問題視されなかったものと見られる。

 この点について病院機構の職員に確認したところ、市から出向している職員は監査結果を知っていたが、委員会には報告していなかったという。
 明らかな「不作為」であり、業者選定を滞りなく終わらせようという不純な思惑が働いたととられてもおかしくない話だ。

悪質な隠蔽?
 gennpatu 595.jpgこの問題を軽く考えることができないのは、PFI事業者の入札に複数の応募があっていた場合、審査に大きな影響を与え、日本管財グループが事業者選定から外された可能性があるからだ。

 前述したように、事業者選定の審査は、応札金額だけでなく参加企業の能力なども対象としており、事実、審査に先立つ【基礎審査における詳細確認項目】の中には、各業務共通で『過去5年間における同種業務の履行実績』という項目が存在する。(右の資料参照。赤いアンダーラインはHUNTER編集部)

 福岡市の指定管理者でありながら、監査で詐欺的業務の実態を指摘された「日本管財」が代表を務めるグループが、正当な評価を得られるはずがない。

 病院機構や福岡市が、監査結果について委員会に報告しなかったのは、不作為というより悪質な隠蔽と言った方が妥当かもしれない。

 詐欺まがいの業務を行なっていた問題企業に、こども病院の管理を任せるなど誰が考えても不適切だ。ましてや「有識者委員会」というからには、たとえ1者しか応札していない状況でも、不適切企業を排除するという正常な判断が可能だったはず。

 市側がそうした事態を回避するため、都合の悪い事実を隠した可能性は否定できない。

背景
 当初、こども病院建設をめぐっては、同病院の現地建て替え工事費の水増しに大手ゼネコンが関与したことや不況の影響もあって、大手ゼネコン自体がPFI 事業者に手を挙げることは難しいとされていた。
 
 こうした状況を憂慮した市側は、建設企業側に配慮し、PFI事業者が受け持つ事業内容を大幅に縮小した実施方針を策定していた。吉田宏前市長時代の話である。

 不可解な事業推進はさらに続く。
 もともとの「福岡市新病院整備等事業入札説明書」によれば、《本事業の応募者に第3応募者の参加資格要件に掲げる参加資格要件があることを確認するため、市は、以下のとおり参加資格確認申請書類及び資格審査に必要な書類の提出を求める。なお、応募者がいないとき又は応募者が一人であるときは、入札手続きを中断するものとする》と規定。
 このため昨年3月の「参加資格確認申請書」の受け付けには1事業者しか応募せず、規定により入札が中断される。

 この事態を受けた病院機構は、設計、建設、監理のそれぞれの業務を担当する企業について、『一般病床300 床以上の病院及び免震構造の建物(病院建物に限らない)の業務を主契約者として受注した実績を有すること』と限定していた規定を大幅に変更。基準病床数を『200床』にした上、1者応札でも可とする内容に変更してしまっていた。

 市関係者からも「九電工への便宜供与」といった声が上がるほど、福岡市は暴走を続けてきたのである。

 市の監査で発覚した日本管財と九電工の不祥事の内容を見れば、どう考えても子どもの命を守る病院の管理者としては不適格だ。
 あえてその事実を隠したのは、形を変えた「便宜供与」ではなかったのか。そうなると、こども病院人工島移転に新たな「疑惑」が加わることになる。

 こども病院は、多くの市民の反対をよそに人工島への移転が決まった。高島宗一郎市長のもと、あたかも公開の場で結論を得たかのような状況が作り出されたが、移転をめぐる動きにはいまだに暗い影がつきまとっているのである。

 

 



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