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九電が福岡県へ社員派遣

国へも3名出向

問われる暴走企業と官のあり方

2011年10月14日 10:55

 九州電力が、福岡県庁や中央省庁に食い込む実態が明らかになった。

 原発再稼動をめぐって電力会社と行政機関の関係に厳しい視線が注がれるなか、九電は今年4月から福岡県に社員1名を初めて派遣。電力会社を所管する経済産業省にも平成22年から出向の形で社員を送り込んでいた。
 九電はこのほか、総務省や内閣官房にも社員を出向させている。

 行政と電力会社の蜜月ぶりを示す事例ではあるが、暴走する九電に国の中枢や県の情報を得る資格があるのか疑問だ。

出向、派遣は5名
 九電が社員を送りこんでいる行政機関と配属部署は次のとおりだ。

・福岡県 企画・地域振興部 情報政策課(派遣)・・・今年4月から
・総務省 情報通信国際戦略局 国際経済課(出向)・・・平成19年度から現在で3人目
・経済産業省 商務情報政策局 情報政策課(出向)・・・平成22年度から
・内閣官房 内閣官房セキュリティセンター(出向)・・・平成19年度から
・佐賀県玄海町 財政企画課(派遣)・・・今年2月から
 
 九電広報の説明によれば、赴任した先の業務を行なう場合を「出向」、同社の業務を主として行なうケースを「派遣」として区別しているという。
 
 13日、玄海原子力発電所がある佐賀県玄海町に九電が社員を派遣し、役場内のデスクで仕事を行なっているという癒着の実態を報じたが、このケースは異例。
 立地自治他である玄海町へのサービスと、最終的には原発啓発を目的とするもので、福岡県や国の機関に社員を送り込んでいる理由は別のものであると見られる。

福岡県知事と九電
 九電と福岡県の関係は、今年になってより密接にものになっている。
 
 4月の県知事選挙で初当選し、麻生渡前知事の後継として新しく県庁トップに就任したのは小川洋知事。その小川知事誕生の立役者となったのは、ほかならぬ九電の松尾新吾会長である。
 
 後継知事選出をめぐって当初優位に立っていたのは、自民党の元県議会議長だったが、小川氏を推す麻生前知事や麻生太郎元首相の意を受けた松尾氏は、連合福岡と創価学会とのパイプを活かし、自民、公明に加え民主も交えた相乗り体制を構築。小川氏への一本化に成功する。20110411_h01-01s.jpg

 その後、小川知事の支援組織「福岡県の未来をつくる会」と「小川洋後援会」の代表にも就任。
 知事選では後援会長と選対本部長を兼任し、出陣式で「(候補者を)物心両面にわたって支援することが我々の務め」と声を張り上げたあげく、投開票日にはバンザイまで行なっている。

 いずれも福島第一原発の事故後のことで、事態を省みぬ電力トップの姿勢に多くの批判が出たことは言うまでもないが、意に介さぬ松尾会長は、現在も小川知事の後援会長を続けている(14日、「福岡県の未来をつくる会」と「小川洋後援会」の代表者が松尾新吾氏であることを県選管で確認)。

 小川知事が、世話になった松尾氏はじめ九電経営陣を窮地に追い込むような厳しい対応をするとは思えず、玄海原発の再稼動問題でも腰の引けた姿勢が目立っていた。

 こうしたなか、4月から九電社員の県への派遣が実現したことになるが、県が同社の社員を受入れるのは初めてとされ、知事本人と九電の関係なくしてはあり得なかった人事と言えそうだ。

 ある県議会関係者は「そんな話(九電から県への社員派遣)は聞いていなかった。麻生さん(前知事)の置き土産か、小川知事が就任前に約束したものか・・・。九電は県の情報をもらえて結構なことだろうが、隣県に玄海原発があり、再稼動問題で揺れている状況下では問題なしとは言えない」と語っている。

経済産業省への出向に疑問
gennpatu 470.jpg 一方、九電による中央官庁への社員出向にも問題が指摘される。
 とくに電力会社を所管する経済産業省が九電社員を受け入れることは、現実を無視した不適切な採用としか言いようがない。
九電社員の出向先は、同省商務情報政策局 情報政策課で、所掌事務は、
・情報処理の促進に関する事務の総括。
・地域における情報処理の促進。
・情報通信の高度化に関する事務のうち情報処理に係るものに関すること。
・情報通信機器に関する総合的な政策の企画及び立案並びに推進。
・情報処理振興事業協会の組織及び運営
となっている。

 原発とは直接的な関係がない部署とされるが、原発に関して、同省と電力会社が一体となって「国策」を進めてきた結果が福島第一の事故であったことは明白で、いかなる部署といえども、同省内に電力会社の社員を置くことには疑問が生じる。

 とくに、「やらせメール」や「仕込み質問」で世論を誘導し、原子力行政の信頼性を著しく毀損した九電については、監督官庁として厳しく対処すべきだろう。

 それができないのであれば、「経済産業省と電力会社は一体」とする見方は、やはり正しいということになる。

問われる民間企業と官のあり方
 総務省や内閣官房にまで九電の社員が出向していたことには、「驚いた。内閣官房にまで入っているのか?」(民主党議員)といった声が少なくない。

 平成12年から実施されてきた官民人事交流だが、福島第一原発の事故後の経過を考えれば、役所側が受け入れてよい企業と、拒むべき企業の選別が必要であることは言うまでもない。

 自民・民主の政治家に話を聞いたが、一様に、特定企業それも大企業だけが人事交流というシステムを利用し、国の情報を独占することに批判の声を上げている。

 ちなみに、総務省と内閣官房への九電社員出向は、前述の官民人事交流の枠による採用ではないとされ、なぜそこまでして電力会社の社員を受け入れなければならないのか疑問だ。

 とくに総務省の採用は問題で、九電が「やらせメール」などで国民の厳しい批判にさらされているにもかかわらず、10月から非常勤職員として九電社員を受け入れたという。
 霞ヶ関の方針と国民感情とは、よほど乖離しているとしか言いようがない。

 九電社員の出向先は、いずれも原発との関わりが少ない情報関連の部署と見られるが、国や県の情報をリアルタイムで享受することに変わりはない。
 
 果たして、九電にその資格があるのだろうか?

暴走する九電
 九電の反社会的体質は、ここにきて顕著に示されている。
 
 同社は、これだけ世間を騒がせ原子力行政への信頼を失墜させておきながら、会長・社長の辞任を否定したばかりか、自らが設置した「第3者委員会」の報告を無視し、都合のいい社内調査の結論を経済産業省に提出する見通しだ。

 「やらせメール」の原因となった社内メモを作った幹部社員や、証拠隠滅を図った原子力担当幹部への処分も、行なうとしてきた方針を一変させたとされる。

 世論を無視した暴走であり、地域独占を許された公益企業の資格をかなぐり捨てた形だが、同社が松尾新吾会長や眞鍋利應社長ら権力亡者の巣窟状態になっているのは疑いようのない状況だ。
 
 こうした企業に、県や国に社員を送り込み、情報を得る資格があるとは思えないが・・・。




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