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国会議員の権威

2011年10月12日 10:00

 取材で国会周辺や霞ヶ関を訪れる度に感じるのは、異常と思えるほどの厳重な警備体制である。
 
 ここ数年、東京だけでなく、九州地方整備局など国の出先機関の入り口にも出入管理のための大掛かりな機械が設置されており、ムダな公金支出にしか見えない現状にウンザリしていたが、納税者を一段低く見る姿勢には、いい加減腹が立ってきた。
 
 低下する一方の国会議員や官僚の質に反比例して、警備だけが年々厳しくなっている現実は滑稽でしかないが・・・。

(写真は衆議院第二議員会館から見た参議院議員会館。下では旧館解体跡に巨大駐車場建設が進む)

議員会館、車乗り入れは国会議員だけ
 永田町には、国会議事堂と道を挟んで、国会議員722名の職務に資する目的で3棟の「議員会館」が存在する。

 総理官邸側から、衆議院第一議員会館、同第二議員会館、参議院会館と並ぶが、平成19年から建て替えが行なわれ、昨年から新しい会館が使用されている。
 
 各議員の部屋は旧議員会館の2.5倍、コンビニやレストラン、会議室、スポーツ施設から保育所まで備えた豪華施設となっている。
 
 3棟合わせた建設費は約1,700億円。現職議員の間からも、「どうしてここまで立派な議員会館が必要だったのか疑問」といった声が上がるほどだ。
 
 さて、この新議員会館、議事堂側の玄関前に「車寄せ」があるのだが、共用開始以来、衆議院の2棟だけが国会議員同乗車両以外の進入を拒否している。
 
 例えば、タクシーは乗り入れ禁止だが、国会議員が乗っていればOK。一般国民は歩道の手前で降りるしかない。税金で建てられた議員会館に、納税者が進入を拒否されるという、不愉快極まりない対応である。
 ちなみに、旧議員会館では、こうした愚行は行なわれていなかった。
 
 この国の政治は、一体誰のために在るのだろうか・・・。

「写真撮るな」の滑稽さ
 滑稽なのはここからだ。念のため、議員会館の玄関の写真を残そうとカメラを構えていると、警備の人間が撮影はダメだと言い出した。
 
 会館内の撮影禁止は昔から知っていたが、敷地内すべてに適用されるとは意外。第一、道路からの撮影は許すが、一歩でも敷地内に入ればダメだというのはおかしい。会館の玄関は、敷地外からも十分撮影ができるからだ。
 

画像1 画像2
  
 
 警備員に撮影禁止の根拠を問いただしたところ、「そこに書いてある」と言うが、敷地の入り口付近には敷地内での撮影を禁止する看板も張り紙もない。どこにあるのかと、さらに尋ねるが、一向に要領を得ない。
 警備員自身が、撮影禁止の根拠や掲示場所を理解していないのだ。gennpatu 487.jpg

 結局、「撮影禁止」の掲示があったのは、訪問者用通路を作るための工事用の仕切りの裏側。つまり、歩行者からは見えないところに掲示されていたのである(写真参照)。
 
 警備員は、「見えるところに掲示していなかったことは、いけないですが」と言いながら、謝ろうともしない。
 撮影禁止の根拠は最後まで説明できなかった。

衆議院営繕課の話
 国会議員の特別扱いや、敷地内の写真撮影について、所管する衆議院の営繕課に話を聞いた。

 記者:国会議員が同乗する車以外を締め出している理由は?
 職員:狭いという理由からです。

 記者:参議院議員会館はどの車も入れるが?
 職員:参議院議員会館は衆議院議員会館より広いからです。あと1年は、現状の体制でご迷惑をかけると思いますが、その後は一般車両も入れるようにします。

 記者:会館の敷地内では撮影禁止となっているが、その理由は?
 職員:会館内はプライバシー保護のために以前から撮影禁止になっていますが、許可を取れば撮影を許すこともあります。

 記者:見えないところに撮影禁止の掲示を行なっても意味がないではないか?
 職員:ご指摘はごもっともで、現場に指示をしておきたいと思います。

 じつは、参議院会館の玄関周辺と衆議院会館のそれとは、たいして広さは変わらない。せいぜい車2~3台分ほどの違いでしかないのだが、平然と広さの違いを理由にあげる衆院側の対応にはあきれるばかりだ。

 あるベテラン秘書は次のように話す。「衆議院は権威主義なんですよ。事あるごとにこっち(衆議院)は参議院とは違うと強調したがる。国会議員が乗った車しか入れないというのは、衆議院としての判断。参議院議員会館と衆議院議員会館の広さなんてたいして変わらないじゃないですか。衆議院は特別だという意識が強すぎるだけですよ。写真撮影の件について言えば、敷地内すべてで撮影が禁止されていることなど、知りませんでしたがねぇ」。

 国家議員の権威を重んじるばかりに、過剰な対応を続けているということのようだが・・・。

下がる一方の政治レベル
 gennpatu 477.jpg写真撮影といえば、議員会館どころか院内(国会議事堂の中)でグラビア撮影を行ないひんしゅくを買った議員がいた。
 その程度の政治家が、いまだに大臣をやっているということが、この国の政治レベルを示している。

 それにしても、この国の国会議員はこれほど厳重に守られなければならないほどの存在なのだろうか。

 3月11日の東日本大震災発生以来、700を超える数の国会議員がやってきたことを述べろと言われても、正直、答えが出てこない。
 
 強いて述べれば、民主党政権になって3人目の総理大臣が誕生したことと、被災地の復興がなかなか進まないこと、野田政権になって根拠が示されない増税やTPPに前のめりになっていることくらいだろうか。

 児戯に等しい民主党の政権運営からは、同党議員が狙われるほどの理由が見つからず、厳重な警備ばかりが際立つというのが現状だ。

 民主党本部が入居するビルの屋上に掲げられた「民主党」の看板を、かなり離れた場所から撮影していると、警備の警察官から「何を撮っているのか」と聞かれる始末。撮影目的まで尋ねられ、驚いてしまった。

 かつて永田町で働いたことのある身としては、窮屈この上ない事態であるうえ、この一角だけが民意からどんどん遠のいているように思えてならない。

 かつて、三・角・大・福・中といった政治家たちが競い合っていたころは、現在(いま)よりよほどましな世の中だったような気がする。 「先生」と呼ぶにふさわしい、重厚さを漂わせる政治家が居たことは確かである。
 
 テレビ出演して、はしゃぎ回るのが選挙運動だと思い込んでいる議員が増えだしてから、政治のレベルは急降下した。
 
 舌は回るが、実行力に乏しい政治家たちが招いた現実が、いまの日本なのである。
選んだ有権者も悪いという声が聞こえてきそうだが、それはお門違いというものだ。騙した方が悪いに決まっている。
 
 形ばかりの権威をひけらかし、ムダな公費支出を繰り返す国の姿勢は、歪んだ国の実態を如実に表しているのではないか。

 過剰な警備に、湯水のようにカネをつぎ込むほど、財政が豊かとは思えないが・・・。

 
 
 



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