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直方市 歪んだ市政(1)

旧駅舎解体が示す市長の傲慢

2011年10月21日 10:00

 少数意見を軽んじる政治や行政の下では、健全な民主主義は育たない。それだけではなく、一部の権力者だけが潤い、市民が不利益を被る事態を招くことさえある。
 
 こうした実情や背景をつまびらかにすることこそ、報道に与えられた使命のはずだ。
 
 HUNTERは、一貫してその立場から歪んだ自治体についての報道を続けているが、トップの間違った判断、唯我独尊の姿勢に出会う機会は一向に減らない。

 一番分かりやすい例が、県民の意見より企業利益を優先する佐賀・鹿児島の原発立地自治体の知事や市長・町長たちだが、看過できない傲慢な行政運営を行なっている自治体が福岡県内にも存在する。

 かつて産炭地の中心として栄えた福岡県直方(のおがた)市である。

旧「直方駅」、解体を強行
 gennpatu 507.jpg直方市は現在、旧JR直方駅の解体工事を進めている。新駅舎の開業にともなうものだというが、旧直方駅は明治43年に建てられた歴史ある建物で、保存を願う市民の声は少なくない。
 
 旧駅舎は明治中期に建築された初代の博多駅が移築されたものとの指摘もあり、文化財的な意味や旧産炭地を見つめ続けた産業遺産としても貴重と言える。

 ところが旧駅舎をめぐっては、解体を急ぐ市側と、保存を願う市民との意見調整がつかず、市民側が解体差し止めを求める仮処分申請を福岡地裁に提出。却下されたが、福岡高裁に即時抗告している。

 また、今月18日には福岡地裁で市民側が解体費の支出差し止めを求めた訴訟の第1回口頭弁論が開かれたが、市側は徹底して争う構えだ。
 
 直方市が旧駅舎の保存を拒む理由は、"駅舎保存に多額の費用がかかる"というものだが、これは市政トップの無能さを宣伝しているに過ぎない。
 
 駅舎保存のための方策を模索するでもなく、「カネがないからできない」では余りに知恵がなさ過ぎる。さらに言うなら「無責任」ということだ。

 そもそも直方市に財政悪化を招いたのは、旧駅舎解体を強行する現市長・向野敏昭その人だからだ。自分の責任は棚に上げて、市民の声は圧殺するというのでは筋が通らない。

象徴欠く「直方レトロ」
 同市は江戸時代、長崎街道が走る城下町(現在の市中心部)であり、明治から大正期にかけては石炭や鉄道交通の中心として栄えた歴史を持つ。

 gennpatu 518.jpg市内には歴史を感じさせる建物が数多く残されており、それらを新たなまちづくりに活かそうとする動きが活発になっていた。キーワードは「レトロ」であり、来月にはまちをパビリオンに見立てた「直方博」(直方商工会議所主催)も開催される予定だ。

 言うまでもなく、100年以上の歴史を刻んできた直方駅の旧駅舎は「レトロ」の象徴的な建造物だったはず。文化財的な意味も大きいが、観光資源としての価値も高いと考えられる。旧駅舎保存を願う市民の声には、いくつもの根拠が存在するのだ。

 だが、旧駅舎解体に関する市の姿勢は頑なだ。今年春に3選を果たした向野敏昭市長が、保存を願う市民と正面から向き合って話し合った形跡もない。
 
 つまり少数意見は無視。「裁判でも何でもやってみろ」ということだ。

不透明な方針決定過程 
 旧駅舎解体を担当する直方市の担当課に話を聞いたが、結論から言って解体の方針を決めた過程は不透明と言うほかない。

 記者 : 解体差し止めを求める仮処分申請の高裁決定を待たずに、解体工事を急ぐ理由は何か?
 職員 : 駅前広場の整備を急いでいる。

 記者 : 理由になっていない。解体を決めた経緯を示す公文書は残っているか?
 職員 : 駅周辺の整備は、都市計画で定めたもので・・・。

 記者 : 都市計画に旧駅舎を解体すると明記してあるのか?そんなはずはない。
 職員 : たしかに都市計画には書いていないが、水路改修、自由通路の確保、病院建設の障害になるので解体せざるを得ない。

 記者 : だから、解体を決めたのはどの時点で、どのような理由によるものかを示す文書があるのかどうかを聞いている。
 職員 : 探してみる。

 記者 : 解体に反対する市民の意見は何時頃から市に届いていたのか。
 職員 : 平成18年くらいから、建物を残してもらいたいという意見があった。

 記者 : 市長はきちんと向き合ってきたのか。
 職員 : 1回だけ(解体に反対する市民らと)会ったと聞いている。

 記者 : それだけか?
 職員 : ・・・・・。

 gennpatu 509.jpg説明責任を果たせない行政機関には、どこかに欠陥があるもので、直方市の場合も例外ではない。

 直方市は、今年市制80周年を迎えるとのことで、市役所の玄関には「祝 直方市制80周年」の横断幕が掲げられている。
 
 だが、同市の市政は明らかに歪んでおり、そのツケ回しが既に市民に及んでいるのが実情だ。
 
 冒頭、傲慢な行政運営は市民に不利益をもたらすと述べたが、直方市の旧駅舎解体の強硬姿勢は、その表れでもある。

 HUNTERは、1年以上をかけて直方市のある事業を追い続けてきた。見えてきたのは、市政を歪めた張本人が歴代の市長であるという事実である。

 来月から、直方市政の実態を報じる記事の中で、そのことを証明する。

 



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