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原発の功罪(6)「呪縛」

山口県上関町の現実

2011年9月26日 10:55

 東京電力福島第一原子力発電所の事故にともない、原発推進という「国策」そのものが見直しを余儀なくされるなか、町民が選択したのはまたしても原発頼みの町づくりだった。

 25日に投・開票が行なわれた山口県上関町長選挙は、原発建設の推進を訴えた現職が3選を果たした。

 原発の建設計画が浮上して30年。賛成・反対で町を二分してきた同町にとって、9度目となった今回の町長選だが、長年の呪縛から逃れることはできなかったようだ。

現職圧勝
 当日有権者数3,206人。投票率87.55%。原発推進派の現職が1,868票、反対派から再挑戦の新人が905票。
 上関町長選挙の結果は、原発推進派の現職が投票数の6割以上を獲得する形の圧勝となった。
 前回並み(平成19年の町長選挙は現職1,999票、新人990票)の得票配分は、上関町民の多くが原発推進というこれまでの方針を変えなかったことを示している。
 
 HUNTERはこれまで、九電・玄海原発や川内原発に関する記事を通じて、電源3法交付金を中心とする原発マネーは、麻薬と同じだと報じてきた。
 いったん原発を受け入れ、巨額な交付金や電力会社からの税収による恩恵を受けてしまえば、原発を止めたくても止められないという状況に陥るばかりか、利権に群がる政治家や業者によって自治が蝕まれていくからだ。

 今回の町長選挙は、上関町にとって引き返す絶好の機会だったということになるが、すでに原発マネーが町民の思考を奪っているのかもしれない。

示されなかった新たなビジョ
 福島第一原発の事故後、原発をめぐる状況は大きく変わった。もはや「安全な原発」など存在しないことは明白で、原発に対し国民の厳しい視線が注がれる。

 原発の新増設はもちろん、再稼動さえ容易に許さぬという世論によって、上関町を取り巻く周辺事情も様変わり。同町の周辺を含め山口県内の多くの自治体の議会が、原発建設計画凍結や中止を求める決議を行なっている。
 
 福島第一原発の事故は、原発が与える影響が立地自治体だけに限定されるものではないことを証明しており、もはや上関原発は同町だけの問題ではなくなっているのだ。

 こうしたなか、上関町に求められていたのは原発への賛・否だけでなく、"原発抜きの町政ビジョン"が描けるかどうかだったはずだ。

 選挙戦を通じて、現職は原発抜きの町政について「検討会の設置」を提示したが、訴えの中心は「原発抜きの町運営は考えられない。国は30年の重みを考えろ」というもので、具体的なビジョンは示されていない。
 選挙を通じて、方針定まらぬ国に文句を言いたくなる気持ちは分からないではないが、話しかけるべき相手は町民だったはずだ。

 一方、原発反対派の新人は、自然エネルギーへの転換や原発抜きの安全な町づくりなどを訴えたが、残念ながら歯止めがかからない過疎化に対する有効な施策や、賛成派も納得する新たなビジョンを提示するには至らなかった。

埋まらぬ溝
 9度の戦いを終えてなお、賛成・反対に分かれた同町の溝は埋まりそうにない。国が上関原発計画について明確な判断を下すまで、対立は続くと見られる。

 仮に建設中止が決まっても、上関町が原発の呪縛から開放されるには、長い時間を要することが予想される。それが原発マネーの、怖さということだ。

 上関町での取材は続く。



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