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僭越ながら:論

新聞の矛盾

2011年9月20日 10:50

 自らが断罪した相手にモノを頼むことなど、一般的には恥ずかしくてできないことだが、大手メディアの世界ではこうした考え方が無視されるらしい。
 
 このところ、九州の原発をめぐる一連の新聞報道に強い違和感を覚えている。

福島第一原発事故がもたらした議論
 東京電力福島第一原子力発電所の事故によって、「日本の原発は安全」とする国や電力会社の主張が虚構にすぎないことが明らかとなった。
 「事故は起きない」という前提が崩れた以上、全国の原発で定期点検のため運転を休止していた原子炉について、再稼動の是非が問われることになったのは当然の成り行きだ。
 
 玄海原子力発電所さらに、住民避難の対象地が福島第一原発がある福島県大熊町や双葉町だけでなく周辺自治体にまで拡がったことや、数百キロ離れた地域で放射性物質の拡散が確認されるといった事態に、立地自治体だけに原発の是非についての判断を委ねるのはおかしいとの声があがる。
 
 言うまでもなく、原発立地自治体は電源3法交付金や電力会社からの税収や寄附などで潤ってきた。原発というリスクを背負った代償とはいえ、巨額な原発マネーがもたらした恩恵を享受してきたのは事実だ。
 しかし、原発事故による放射能被害は、立地自治体をはるかに超え、広範囲に及んでいる。被害だけを被る周辺の自治体や住民が、原発に対する発言権がないことに異論を唱えるのは当たり前のことだろう。
 
 原発立地自治体には、電源3法交付金や電力会社が支払う固定資産税などの代わりとなる財源は見当たらず、原発が止まったとたん極端な財源不足に陥り、たちまち運営が行き詰まることも予想される。
 現状を追認するしか道がない状況で、「原発反対」の声が上がるとは思えない。つまり、原発について冷静な判断を下す余裕などないのである。
 
 福島第一原発の事故後、原発をどうするかについて広範な議論が求められるようになったのは、こうした実情が報道されたからにほかならない。

第一の矛盾 
 こうした電源3法交付金を中心とするいわゆる「原発マネー」による地域懐柔策については、ほとんどのメディアがその実態を詳しく報じてきた。
 報じた以上、さらに踏み込んで立地自治体だけに原発の是非を判断させることの愚かしさを論じるべきだと思うが、そうした記事を読んだ記憶はない。
 せいぜい、福島県民の声か、原発反対を唱える有識者のコメントを掲載する程度で、論を起こそうという気概も感じられない。
 あとは"読者任せ"ということなのだろうが、新聞各紙がどちらを向いているのか、さっぱりわからない。
 原発マネーに依存し身動きが取れなくなった立地自治体の現状を報じた以上、それ以外の市町村の意見を重視すべきだと思うが、残念ながら再稼動や増設についてはいまだに立地地自体の首長のコメントを重要視しているのである。
 矛盾する報道姿勢に疑問を感じる。

第二の矛盾~玄海町長と佐賀県知事~
  玄海町役場じつは原発立地自治体が抱えるもうひとつの問題は、原発マネーに群がる政治家や企業の存在だ。
 大手メディアは、原発マネーに汚染された地方政治家の悪行の数々を競って報道してきた ―はずだったが、ここでもハッキリしない態度で読者に混乱を与えている。 

 九州電力が擁する玄海原子力発電所(佐賀県玄海町)と川内原子力発電所(鹿児島県薩摩川内市)をめぐっては、原発再稼動の判断を任された形の首長たちの様々な疑惑が暴かれてきた。

 佐賀県玄海町の岸本英雄町長は、実弟が社長を務める地場ゼネコン「岸本組」の株を使って多額の収入を得ていたが、岸本組に莫大な利益をもたらしてきたのは、交付金がらみの公共工事や九電がらみの仕事であったことがわかっている。
 
 玄海町発注公共工事の15%を岸本町長のファミリー企業である「岸本組」が受注していたほか、岸本町長が公約に掲げ、町のプロジェクト事業となっている「薬草園」建設工事でも岸本組が工事の大半を受注していた。
 
 HUNTERが報じてきた同町の実態については、新聞各紙もより詳細な記事を掲載してきたはずだ。
 報道されてきた厳しい記事の内容は、原発マネーで甘い汁を吸ってきた岸本町長には、原発再稼動について判断する資格がないことを指摘したに等しい。
 
 しかし、おかしなことに多くの新聞は、政府の原発再稼動への動きや原子力行政の見直しが顕在化するたびに、断罪したはずの岸本町長にコメントをもらいに行っているのである。
 原発がらみのカネの問題で首長としての資格が問われている人物に、原子力行政のあり方や原発再稼動に対する意見を聞き、記事にする必要があるのだろうか。

 佐賀県庁古川康佐賀県知事への対応も同様だ。
 古川知事に関しては、早い時期から九電との密接な関係が取り沙汰されてきた。
 同社役員らから献金を受けていたほか、知事がマニフェストに掲げていたがん治療施設(鳥栖市)に九電が39億7,000万円もの寄附を表明していたことなどが明るみに出ているが、何と言っても彼に向けられた最大の疑惑は九電「やらせメール」への関与の有無だ。

 古川知事自身が否定しているとはいえ、九電が設置した第3者委員会(委員長・郷原信郎弁護士)は、中間報告で知事が九電幹部らと会談した折の発言が「やらせ」の発端になった可能性が高いことを示唆しており、疑惑は晴れていない。
 九電幹部らとの会談が非公式で、県庁ではなく知事公舎でこっそり行なわれたという事実も重い。
 九電側が作成した会談メモについて、「真意が違う」などとして往生際の悪さが目立つ知事に対し、新聞各社は多数の記者を佐賀に入れて、古川知事周辺を洗ってきた。
 しかし、知事の原発擁護の姿勢を知りながら、ことあるごとにコメントを求めているのは玄海町長への対応と同じだ。
 新聞各社の報道姿勢は明らかに矛盾している。

新聞に求められるもの
 原発マネーで汚染された人間たちが原発の是非について判断することには、滑稽を通り越して犯罪的な臭いさえする。
 
 立地自治体の政治家たちの醜悪な姿を報じたはずの新聞が、原発再稼動の是非や原子力政策をめぐる動きについて、断罪した相手にコメントを求めるのは間違いではないのか。
 
 矛盾する報道姿勢が原子力政策の議論を迷走させることを、新聞各紙は認識すべきだと思うが・・・。
 



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