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原発再稼動への疑問

積み残された安全対策

2011年9月 8日 09:50

 将来的な「脱原発」を明言しながら、原発再稼動に積極的な野田新政権だが、原子力災害時の安全対策については、問題が山積したままになっていることがわかってきた。
 万が一、原発事故が起きた場合、福島第一原発の事故と同様、住民批判などで必要な情報を得られず、混乱を招く可能性が高い。
 安全対策の強化を積み残したまま、原発再稼動や原発そのものの是非を論議するのは間違いではないだろうか。




 
「SPEEDI」改善進まず
 決済・供覧 原発事故が発生した場合の迅速な住民避難に資することを目的に整備された緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム「SPEEDI」だが、福島第一原発の事故に当たっては、何の役にも立たず、多くの批判を浴びてきた。
 しかし、同システムを所管する文部科学省は、例年通り同省の天下り法人「原子力安全技術センター」との間で約8億円のSPEEDI運用に関する業務委託契約を締結していた(詳細)。
 業務内容の変更もないまま、福島第一原発の状況が悪化する一方だった3月14日に契約締結を起案、4月1日に契約を交わしていたもので、政府の原子力災害への甘い姿勢を露呈した形だ。

 SPEEDIが機能しなかった理由として、地震発生と同時に放出源情報を得るための排気塔モニターが壊れたことが挙げられているが、排気塔モニターの整備は経済産業省の所管になるという。
 経産省側に改善状況を確認したところ、「(改善のための)予算はつけております」。つまり、全国の原発において、問題点の改善は終わっていないということになる。なんとも悠長な話だ。


期待できない「オフサイトセンター」
 全国の原発には、事故に対応するための緊急事態応急対策拠点施設が設けられており、これを「オフサイトセンター」と呼んでいる。
 全国20箇所のオフサイトセンターは、原子力災害時、国や地方自治体などの関係者が参集し、緊急時の情報を共有しながら住民避難などへの適切な対応を導くための施設だ。
 gennpatu 008.jpgのサムネール画像平成12年だから17年度までの6年間で約387億円が投入された事業だが、福島第一原発の事故では地震発生と同時に電源を喪失。役に立たぬまま県庁に機能を移していた。
 SPEEDI同様、長年投入された税金はまったくのムダだったことになる。

 九州電力が事業者となっている玄海原発(佐賀県玄海町)には「佐賀県オフサイトセンター」(唐津市)、川内原発(鹿児島県薩摩川内市)には「鹿児島県原子力防災センター」(薩摩川内市)がそれぞれの対応施設として存在するが、取材した時点ではいくつかの大きな問題点が明らかになっている。
 
 オフサイトセンターは、原子力災害対策特別措置法によって設置が義務付けられた施設なのだが、同法ではセンター設置の地理的条件として《当該原子力事業所(注:原発のこと)との距離が、20キロメートル未満》としている。
 放射能災害にあたって、原発から20キロメートル以内の距離にある施設が十分機能するかどうかは疑問だ。
 さらに、「佐賀県オフサイトセンター」や「鹿児島県原子力防災センター」への直接取材では、両施設ともに放射性物質の侵入を防ぐ高性能フィルターなどの防護措置が施されていないことがわかっている。
 地理的条件や防護対策に関しては、いまだに議論の段階で、実際には何も改善されていないのが現状なのだ。

「再稼動」議論の前にやるべきこと
 「日本の原発では重大事故は起こらない」としてきた原子力行政の甘さと言えばそれまでだが、福島第一原発の事故を経た今、原子力防災対策が改善されないままで原発再稼動の議論だけを先行させるのは間違いだ。
 
 SPEEDIやオフサイトセンターの法的根拠となっているのは、平成11年、茨城県東海村でJCO(株式会社ジェー・シー・オー)が起こした臨界事故を受け制定された「原子力災害対策特別措置法」(原災法・平成11年12月制定、12年6月施行)だが、同法の規定に誤りや甘さがあったことは否定できない。
 
 野田新政権には、原災法の見直しを含め、安全対策の強化を先行するよう強く望みたい。
 「再稼動」についての議論は、安全対策が終わってからのことだ。



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