政治・行政の調査報道サイト|HUNTER(ハンター)

政治行政社会論運営団体
社会

原発の功罪(2)「原発と商工会」

~山口県上関町の現実~

2011年9月 6日 11:00

 原発立地自治体を取材するたび、原発建設の推進役として登場するのは各地の商工会である。
 鹿児島県薩摩川内市の九州電力川内原子力発電所3号機増設問題で、同市や鹿児島県議会に対する「賛成陳情」の中心となったのは薩摩川内市の商工会だった。
 建設、観光をはじめ様々な業界を取りまとめる立場の商工会が、地場経済の発展を電源3法交付金や電力会社の仕事に頼ってきたのは事実である。
 とりわけ交付金頼みの地域作りは、国への依存度を強め、地方自治の力を削いでいくことにつながる。そのことを如実に示しているのが山口県上関町である。
 既に原発マネーが浸透した山口県の取材を通して、原発の功罪を追う。
 
商工会への原発マネー
 上関町では中国電力による原発建設計画が進められてきたが、毎年、県内各地や上関町の商工会には電源3法交付金が支給されていた。「国策」を推進するための、民間側協力者への懐柔策のひとつと見られる。
 平成17年度から21年度までの「電源立地地域対策交付金」のうち、山口県内の商工会などへの交付金支給実績をまとめた。

【平成17年度】gennpatu 247.jpg
山口県観光連盟 4,000万円
上関商工会   2,000万円
【平成18年度】
 下関商工会議所・宇部商工会議所・下松商工会議所・岩国商工会議所・小野田商工会議所・柳井商工会議所・山口県商工会連合会に計1億9,600万円
 山口県観光連盟 3,500万円
 上関商工会   2,000万円  
【平成19年度】
下関商工会議所・宇部商工会議所・下松商工会議所・岩国商工会議所・小野田商工会議所・柳井商工会議所・山口県商工会連合会に計1億3,300万円
 美祢市商工会 203万3,000円
 上関商工会  2,000万円
【平成20年度】
 下関商工会議所・宇部商工会議所・下松商工会議所・岩国商工会議所・小野田商工会議所・柳井商工会議所・山口県商工会連合会に計2億76万795円
 山口県観光連盟 1,470万円
 上関商工会   2,000万円
【平成21年度】
 下関商工会議所・宇部商工会議所・山口商工会議所・萩商工会議所・徳山商工会議所・防府商工会議所・下松商工会議所・岩国商工会議所・小野田商工会議所・光商工会議所・長門商工会議所・柳井商工会議所・山陽商工会議所・山口県商工会連合会に計5億1,159万1,312円
 上関商工会   1,745万5,000円
 山口県観光連盟 953万円
 
 gennpatu 240.jpg県内商工会への交付金は経営改善事業などに利用され、観光協会は「おいでませ山口へ」キャンペーンに充当、上関商工会への毎年の2,000万円(平成21年度だけは約1,700万円)の交付金は、同町の夏の恒例行事となっている「水軍まつり」の原資となっている。
 
 もちろん、上記の交付金は全体のうちの一部であり、これらのほかにも、学校建設をはじめ数多くの公共工事やイベントに交付金が充てられてきたことは言うまでもない。
 
 原発建設に自治体が同意したとたん、原発マネーはじわじわと浸透し、原発建設に協力的な組織、団体に恩恵をもたらすと同時に自治の活力を奪っていく。

国策の行方
 公共工事や商工会へ流れこんだ原発マネーは、一部の企業や人間のふところを潤すが、あくまでも一時的なものである。
 交付金に頼るということは、国に依存するということにほかならず、地方分権の流れとは明らかに逆行する。それでも日本各地の商工会は、原発推進に力を尽くしてきた。
 つまりは手っ取り早く「儲かればいい」との発想としか思えないが、背後には各地の経済団体を束ねてきた電力各社の影がちらつく。
 
 山口県内のある企業経営者は次のように話す。「原発建設や交付金で経済が活性化するのは事実だろう。(記者が)指摘するように『麻薬』かもしれないが、それでも山口県の公共事業が増えれば県民の暮らしが良くなる部分は否定できないだろう。商工会と中国電力さんは切っても切れない間柄だろう。国が国策だ、安全だと言ってきたのを信じたまでで、何も悪いことをしてきたわけではない。責められるべきは国だ。ただ、原発建設が中止になれば交付金はどうなるのだろう。来年から(交付金が)ストップすれば、影響は大きいが・・・」。
 
 上関原発建設計画は、福島第一原発の事故によって頓挫する可能性が高くなっているが、原発を推進してきた商工会関係者は、原発マネーが地方の力を奪い、結果的に活力を失っていくことに気づいていたのだろうか。

 交付金が止まったらどうなるか。上関町は、今まさにその現実に直面している。
 原発を地域発展の原動力にするしかなかった過疎地の苦難は、むしろこれから始まると言えるのかもしれない。
 

つづく

                                                



【関連記事】
ワンショット
 永田町にある議員会館の地下売店には、歴代首相の似顔絵が入...
過去のワンショットはこちら▼
調査報道サイト ハンター
ページの一番上に戻る▲