のだ よしひこ、かの みちひこ、まえはら せいじ、かいえだ ばんり、まぶち すみお、おざわ さきひと、たるとこ しんじ。
この方々の氏名を漢字に直せと言われて、すんなり書ける人はよほどの永田町通かもしれない。
正解は、野田佳彦、鹿野道彦、前原誠司、海江田万里、馬渕澄夫、小沢鋭仁、樽床伸二となるが、ひょっとしたら、全員の漢字表記にふり仮名をつける段階で首をかしげる人も少なくないだろう(もちろん、ご本人の選挙区を除いてだろうが)。
列挙したのは、菅首相の退陣が現実味を帯び始めると同時に、民主党代表選挙に名乗りを上げるか、あるいは推されている政治家たちの顔ぶれなのだが、失礼ながらどう見ても軽量級である。知名度にしても五十歩百歩。この人を総理にしてみたいという思いを抱かせるには、どなたも政治家としての魅力に欠けるようだ。
正直、興味もなかった民主党代表選だが、一国の宰相を選ぶことになる以上、今後の動きを見定めねばならない。ここで注目すべき人物は、言うまでもなく小沢一郎氏である。
締め付け図る小沢氏の真意
100人を超えると言われる小沢グループだが、ここ数日、意中の候補者を擁立しようと動き出したグループ内の議員を抑えることに躍起となっている。
複数の民主党議員は、ある候補者陣営の集まりに顔を出そうとして、小沢氏周辺から待ったをかけられた。「とにかく待て」と説得されているが、小沢氏が誰を押すのかは分からないという。
動き出した議員たちに不信や不満がつのるのは当然で、直接小沢氏の話を聞き、意見をぶつける場を作るため、1年生議員の集まりである「北辰会」の次回定例会を通常の木曜日ではなく水曜日に前倒しすることになったとされる。火曜日には小沢グループの中核部隊「一新会」の会合が予定されており、このあたりで小沢氏の腹のうちが見えてきそうだ。
当の小沢氏は、次の代表について「経験と知識があり、命懸けでやれる人」と語っているが、冒頭に挙げた候補者たちに、該当する人物などいない。
小沢氏が次の代表に推すのは誰だろう。
ちいちいぱっぱ
かつての自民党は、大蔵(現・財務)、外務などの主要閣僚に加え、党幹事長などの要職を歴任することが総裁就任への要件と言われたものだが、民主党内で同じような経歴を有するのは野田氏と前原氏だけだ。
野田氏と前原氏は、ともに松下政経塾の出身ということで接点も多いが、大きなトラウマを抱えていることでも共通している。
平成18年、「偽メール事件」で民主党が窮地に立ち、党代表だった前原氏が辞任に追い込まれたのだが、この時の幹事長が野田氏。
ライブドアの元社長・堀江貴文受刑者が、当時の自民党・武部勤幹事長側に3,000万円を振り込む指示を行なっていたとして自民党を追求したのは故・永田寿康元衆院議員だったが、証拠とされた「メール」が偽造されたものであることが発覚。永田氏は議員辞職の末、平成21年に自殺している。
民主党内では、メールの真偽も確認せずに質問を許したあげく、全ての責任を永田氏に押し付けた形の野田氏や前原氏に対して、いまだに批判的な空気が残っていると言われる。
ご両人とも、政治家としては幼稚だったということだ。
幼稚と言えば、永田町で幅を利かす松下政経塾出身の政治家たちを見ていると、どうしても「ちいちいぱっぱ」という『雀の学校』の歌詞を思い出してしまう。
口だけは達者だが、政治的には幼いとしか言いようのない彼らが、群れる小雀を連想させるからだ。
菅首相への不信任案提出騒ぎの折、前日まで小沢グループの議員たち一人一人の手を握り共闘を誓っておきながら、直前になって同案否決への流れを作る側に回った原口一博氏も政経塾出身。ブレた代償は大きかったらしく、今回の代表選では蚊帳の外状態だ。
ちなみに、代表選への出馬が予定される樽床氏も政経塾出身の経歴を有する。
彼らに共通するのは、「身を捨てて」国政にあたるという覚悟が見えないことで、勇ましい割には、安定感や信頼感に欠ける。つまりは「口舌の徒」が多いということである。
希代の経営者・松下幸之助氏の泉下での嘆きが聞こえてきそうだ。
大連立、増税は愚策
野田氏については、提唱している「大連立」「増税」が児戯に等しいものであることを指摘しておきたい。
野田氏が言うように、連立を組まなければ物事が決まらないというのなら、国会の存在価値はない。与野党の健全な議論を通じて法案を通していくのが議会制民主主義の根本であり、震災復興のために「大連立」というのでは、国家総動員体制下の大政翼賛会と同じになってしまう。
安易に「連立」を口にするのは、政策や国会運営への自身のなさ、言い換えれば信念を持たない政治家であることを公言しているに等しい。
さらに、デフレに「増税」では、益々経済が悪化することは自明の理。財務官僚に取り込まれたか、経済政策に疎いか、いずれにしろセンスのなさにはあきれるばかりだ。
財源が不足するから国民からカネを取り上げるという発想は、もはや政策とは言えない。税金のムダを省くという公約も守らぬまま、安易な手法に走るというなら、解散して信を問うべきだろう。
野田氏が総理に就任したら、菅政権以上に国に混乱を招来するであろうことを断言しておきたい。
それでは誰を?
小沢氏周辺では一時、野田氏を次期代表に見立てたこともあったとされるが、岡田幹事長をはじめ現内閣の閣僚らにも推される野田氏に、小沢氏が乗ることはないと見られる。
事実、小沢氏に近い議員たちの間では、「野田は絶対に容認できない」とする声が強い。
小沢氏の戦略は、年内に予定される自身の「陸山会事件」公判で無罪を勝ち取り、次の代表選で勝負をかけるというものだろう。そのためにはグループの結束で次期代表を決め、力を見せ付ける必要がある。もちろん次の代表選挙で交替するためには、「御輿は軽いほうがいい」(かつて小沢氏が自民党幹事長時代に、海部総理について語ったとされる言葉)ということになるのだが・・・。
海江田氏は小沢氏とも鳩山前代表とも近い存在だが、自民党議員の追及を受けた国会審議の場で号泣。期待感もしぼんでしまった。この程度の政治家が、国難を切り抜けられるはずがない。
馬渕、小沢、樽床の3氏については、政治経験の浅さからくる不安定感がつきまとう。
こうして見てくると、野田、前原、海江田、馬渕、小沢、樽床の各氏は、どう考えても小沢氏の言う「経験と知識があり、命懸けでやれる人」には当てはまらない。
唯一、鹿野氏の政治経歴や口の重さが際立っているが、同氏はかつての「清和会」、つまり旧福田派のプリンスと呼ばれた政治家だ。
旧田中派のプリンスだった小沢氏には、釈然としない思いがあるはずで、新進党時代に、ともに代表選を戦ったことも小沢氏と鹿野氏の間に溝を残している。
乱戦となりそうな代表選だが、小沢氏が言う「経験と知識があり、命懸けでやれる人」など民主党には見当たらない。
「経験と知識があり、命懸けでやれる人」が、党代表ではなく、総理大臣としての要件を指したものなら、与党内ということで幅を持たせ、国民新党の亀井静香氏を総理にし、民主党の代表には国民受けのいい人間を充てるという見立ても可能だ。
一方で、ある民主党議員の秘書は次のように語る。「民主党のなかで『経験と知識があり、命懸けでやれる人』とは、小沢さん以外にはいない。党員資格停止の状態では代表選に出ることはできないが、可能なら小沢さんに国の舵取りをやってもらいたい」。
ウルトラCがあるとすれば、亀井首相か小沢氏自身の出馬ということになるが・・・。