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汚染牛問題で問われる「責任の所在」

2011年7月26日 09:15

 放射性セシウムで汚染された牛肉が、沖縄を除くほとんどの都道府県で流通していた。内部被曝が懸念される深刻な事態だ。
 牛に与えられた「稲わら」が原因とされるが、政府の発表内容自体に信頼性がなくなっており、改めて原因究明が必要であることは言うまでもない。同時に、ハッキリとさせる必要があるのは「責任の所在」である。
 現時点でそこを明確にしておかなければ、必ず将来に禍根を残すことになる。

責任の所在
 放射性セシウムを含んだ稲わら原因説が事実だとしても、問題の稲わらは福島第一原発から相当な距離がある宮城県内のものとされ、国の放射性物質拡散に対する見通しの甘さは否定できない。
 もっとも静岡県の茶葉から基準値を超えた放射性物質が検出された時点で、こうした事態は十分に予想されたはずで、放射能汚染を過小評価し、対策を怠った政府の責任は重い。
 原発事業者である東京電力に賠償責任があることはもちろんだが、同社が現在の形態のまま存続できるかどうかはわからない。とすれば、どこに問題があって汚染牛を流通させることになったのか、この時点で明確にしておくべきだろう。
 被害が顕在化したあと、国が責任を認めず長年にわたって争われたケースは、枚挙に暇がないからだ。
 水俣病、スモン、エイズ、肝炎、イレッサなど多くのケースで国は責任を認めようとせず、被害者側に多大な犠牲を強いる「訴訟」に発展した。いずれも国の不作為で起きた悲劇でありながら、責任逃れに終始し、国家が被害者を苦しめたことは歴史が証明している。
 だからこそ、国の責任を明確にしておく必要がある。

農林水産省の責任
 汚染牛流通の拡大過程では、農林水産省が出した「屋内で保管された飼料を使う」とした牛の飼育管理についての通知が農家に浸透していなかったことが明らかとなっており、同省の対応のまずさは否定できない。
 モニタリングが十分ではない状態でありながら、食物を原因とする内部被曝についての予防措置が甘かったことは事実。酪農家を咎めることはたやすいが、それは的外れというもので、食の安全を守れていない所管省庁にこそ責任がある。

文部科学省の責任
 放射性物質の拡散予測を所管しているのは文部科学省である。しかし、百億円以上の税金を費やしてきた緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム「SPEEDI」は、宮城県や静岡県における放射性物質の拡散が予測できなかったわけで、ここでも役に立たなかったことになる。
 モニタリングの態勢が整わないなか、「緊急時」が続く現在も同システムの果すべき役割があるはずだ。しかし、今日までSPEEDIが福島第一原発の事故の影響から国民を守った事例は皆無である。
 このまま何の責任も取らずに済ますことは許されない。
 
経済産業省と内閣府の責任
 原発の安全性について責任を担う経済産業省原子力安全・保安院はなす術もなく、内閣府の原子力安全委員会に至っては存在感さえ示せていない状況だ。
 いずれも所管外のこととして高を括っているのだろうが、電力業界とともに原発の安全を叫んできたうえ、福島第一の事故で失態続きの両組織が負う責任は重い。
 汚染牛を生んだのは紛れもなく原発なのである。

「ただちに~ない」の責任
 政府は、またぞろ「ただちに影響が出ることはない」という安易な表現で批判かわしに躍起となっているが、何を根拠に断言しているのかわからない。「ただちに」とは「将来は分からないが」と同義であり、福島第一原発の事故発生以来、繰り返し使われてきた「ただちに」という言葉が、どれほど信用の置けないものだったかは国民の大半が知っている。
 にもかかわらず、またしても同じごまかしを行なっているのだ。こうなると、政府のやること、なすことのすべてがペテンに思えてくる。
 汚染牛による体内被曝が原因で、5年、10年先に影響が出た場合、誰が責任を取るのだろうか。将来的に身体に影響が出たとしても、その原因が汚染牛にあることを医学的に証明することは難しいとされる。関係省庁の責任を明確化したとしても、放射性物質による疾病については、因果関係を証明しない限り賠償を求めることもできない可能性が高い。
 数年先に影響が出てから、買った牛肉のレシートや焼肉店の領収書を求められても無理というもので、食物による体内被曝のやっかいさはそこに存在する。
 
 国の機関を束ねるトップは内閣総理大臣である。責任が首相にあることは間違いないが、いずれ宰相の座を降りる菅氏にどこまで責任意識があるのかあやしいところだ。「ただちに影響」はなかったから「あとは知らない」というのでは、あまりに無責任である。
 国として、汚染牛流通の徹底した原因究明を行い、将来の対策について国民に示すことが求められている。



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