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玄海町 原発交付金で欧州旅行
 九電社員の同行明らかに

2011年7月21日 09:00

 原発マネーにからんだ玄海町と九電の癒着体質がまたひとつ明らかとなった。

 九州電力玄海原子力発電所の立地自治体である佐賀県玄海町(岸本英雄町長)が、電源立地地域対策交付金を使った町内有力者らの「欧州派遣研修」旅行の公式報告書などから、観光目的の日程を省いていたことが判明。さらに同研修旅行に、原発事業者である九州電力の社員数名が同行し、玄海町の一行と行動をともにしていたことも分かった。
 20日、HUNTERの取材に応えた玄海町の担当課は、こうした一連の事実を認めている。

派遣メンバーは町有力団体から
 玄海町では、玄海原発3号機のプルサーマル発電の開始を機に、平成20年度からエネルギーについての理解を深める目的で「エネルギー学習会」を立ち上げ、年間10回程度の勉強会などを開いてきた。
 学習会のメンバーは、玄海町側が区長会、漁協、婦人会、消防団、農業委員、商工会といった町内有力団体から選んでいる。
 問題の「欧州派遣研修」は、同町エネルギー学習会の一環として企画されたもので、フランスの原発やMOX燃料加工工場、スイスの中間貯蔵施設などで視察・研修を行うという7泊8日(平成20年度は6泊7日)の行程だ。研修旅行への参加者は毎年10名となっている。 
 
 事業開始初年度の欧州派遣研修に参加したのは、区長会会長、同副会長2名、仮屋漁業協同組合組合長、玄海町地域婦人会会長、消防団副分団長、農業委員会職務代理者、同委員、商工会副会長、同監事の10人で、町内の有力者を通じて、原発やプルサーマルについての「安全神話」を広めようとする思惑が透けて見える。
 2年目からは有力団体以外からも学習会のメンバーを公募しており、平成21年度が2人、22年度に3人の公募メンバーが欧州派遣研修に加わっていた。
 公募メンバーはどのように選んだのか聞いてみたが、年度ごとにそれぞれ2枠、3枠の空きがあり、公募に応じたのがたまたま2人と3人で、抽選などは行なわなかったという。偶然にしては出来すぎた話だ。
 
 欧州派遣研修の旅行費用は、そのほとんどが電源立地地域対策交付金によってまかなわれており、玄海町が経済産業省資源エネルギー庁に提出した交付金事業ごとの「評価報告書」などによると、年度ごとの総事業費と交付金充当額は次のとおりだ。
平成20年度 総事業費917万7,300円のうち交付金充当額が900万円
平成21年度 総事業費844万5,858円のうち交付金充当額が750万円
平成22年度 総事業費936万3,890円のうち交付金充当額は800万円
参加者には、旅費とは別に支度金や日当まで支給されていた。

平成20年度平成21年度

観光日程は非公表
 gennpatu 62841.jpg町が作成した年度ごとの「欧州派遣研修 報告書」には旅行スケジュールが記されているが、原発関連施設の視察のほかは移動や親善目的の記述ばかりで、観光に関するものはない。
 担当課である玄海町財政企画課に詳細なスケジュール表の閲覧と事実確認を求めたところ、たしかに「ルーブル美術館」訪問など観光目的の日程があったことを認めた。
 しかし、参加者に配布されたはずの正規の日程表は見せようとせず、旅行業者が入札時に提出した日程の「案」しか閲覧させなかった。
 このため詳細な旅行内容は不明だが、公表された日程から見て、移動日などの空いた時間は観光もしくは自由時間だった可能性が高い。観光目的などを意図的に省いた形だ。

隠された九電社員の同行
 gennpatu 62824.jpg最大の問題は、九電社員の同行である。
 研修旅行は玄海3号機のプルサーマル発電の開始に合わせて実施された事業であると見られ、玄海町の担当者もそのことを認めている。
 目的を《町民の原子力発電施設等に対する知識の向上と理解促進》(国への「評価報告書」より)とうたっており、原子力発電に関する諸事情や安全性の視察・研修である以上、玄海原発がチェック対象であることは議論の余地がない。
 しかし、チェックされる側の九電社員を同行させては、突っ込んだ議論が行なわれなくなる可能性が生じる。また、各年度の旅行では九電側が原子力関連施設の案内役を務めており、玄海町民が不安や疑問を感じるような視察内容は回避されていた疑いも残る。どう考えても九電の同行は不適切だ。
 
 姑息なのは、公式の記録である「欧州派遣研修 報告書」に九電社員同行の事実が記されていないことだ。記述はもちろん、数々の集合写真にも九電社員は写っておらず、町として、九電社員の同行を隠蔽したとしか思えない。
 玄海町側は、フランスやスイスの原子力関連施設に入るには、九電に頼るしかなかったため同行を依頼したと言うが、交付金を支給している経済産業省に頼めば済んだ話ではないか。
 原発立地自治体と原発事業者は、一定の距離を置いて付き合うべきだが、玄海町側に確認したところ、欧州旅行の間、移動のバスも食事も九電社員と一緒だったことを認めている(玄海町側は、九電側の旅費は玄海町の支出には含まれないとしているが、どう支払われたのかは分からないという)。九電との関係を親密にするための旅行だったと見られてもおかしくない状況だ。

住民懐柔策
 福島第一原発の事故は、地震大国であるこの国における原発関連施設と、フランスやスイスのそれを比較することの無意味さを教えている。
 なぜ、ひとり70万円もの公費を使って欧州にまで行く必要があったのか?九電社員を同行させた真意は何か?
 玄海町側も返答に困る旅行の実態からは、その真の目的が原発マネーを使った国と九電の「住民懐柔策」だったという見立てもできる。そうなれば、原発交付金が地域を蝕んでいく典型的なケースであると言っても過言ではあるまい。
 玄海町側に、旅行計画の発案者は岸本町長ではないかと聞いたところ、「最終的な決定は町長」との回答だった。
 フランスやスイスの原発事情をもっとも良く知るのは国や九電だろうが、玄海町側に国もしくは九電側からの欧州旅行提案はなかったのか?改めて検証する必要があるだろう。
 
 取材中、玄海町職員の口から「玄海町だからこそできた事業」との本音が漏れた。原発立地自治体に再稼動を含む原発の是非を判断させることの愚かさを示している。



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