東京電力福島第一原子力発電所の事故は、国と電力各社が築き上げてきた「安全神話」を崩壊させた。
虚構を作るために費やされた膨大な予算と時間が、一瞬にして無駄になったということだが、電力各社はまだ懲りていない。
信じられないことだが、めどさえ立っていない「高レベル放射性廃棄物」の処分事業について、《着実に進められています》とする冊子が、原発の啓発施設などで無料配布されていることが明らかとなった。
5月には、福島第一原発の事故を過小評価するパンフが問題視され、回収に至ったばかりで、現実を無視して国民感情を逆なでする行為に改めて批判の声が上がりそうだ。
「高レベル放射性廃棄物」
今月4日、この国の原子力発電所が抱える最大の問題が「使用済み核燃料」にあり、玄海原発の貯蔵量が限界に近い状況であることを報じた。
青森県六ヶ所村にある「日本原然」の使用済み核燃料再処理工場は相次ぐトラブルで本格的な稼動が遅れており、各地の原発から送られてきた使用済み核燃料はたまる一方となっているが、仮に再処理がスタートしても、さらに大きな問題が残されている。「高レベル放射性廃棄物」の処分だ。
使用済み核燃料を再処理すると、再利用が可能なウランやプルトニウムとは別に高濃度の放射性廃液が生じる。廃液はガラスの原料と融合させ「ガラス固化体」となるが、これが「高レベル放射性廃棄物」だ。
高レベル放射性廃棄物は、地下300メートルより深くに埋めるいわゆる"地層処分"を行なうことになっているが、平成14年から事業を担う「原子力発電環境整備機構」(ニューモ)の計画は頓挫したままなのだ。
交付金を餌に処分施設を誘致する自治体を公募してきたが、誘致に前向きになった町村では反対運動などで方針撤回を余儀なくされるケースが相次いできた。
平成19年には、誘致を表明した高知県東洋町で反対運動が起き町長が辞職。出直し町長選挙で誘致撤回を掲げた候補が当選し、全国の注目を集めた。
「核のごみ」は引き取り手がないまま、増え続けているのである。
地層処分、「着実に進む」?
玄海原発に併設されている原発啓発施設「玄海エネルギーパーク」では、電力各社で構成する「電気事業連合会」発行の「原子力2010〔コンセンサス〕」という冊子が無料配布されている。
原子力に関する様々な事柄についてQ&A形式で解説する内容となっているが、21ページからの見開きは高レベル放射性廃棄物の処分についてである。
問題の箇所は22ページの「処分施設の設置可能性を調査する区域を公募中」とする記述の内容だ。そこには 《地層処分に向けての活動は着実に進められています》と記されていた。
計画が「着実に」進められていないことは、前述したとおり。国民を欺くようなこうした印刷物を平気で無料配布する神経は理解できない。
変わらぬ電力会社の姿勢
しかも、電源3法交付金を利用し、カネで地域ごと買収する原子力行政のあり方が疑問視されているにもかかわらず、交付金が地域の振興や福祉に役立つとする記述には目を疑ってしまった。国や電力会社は、まだ交付金で自治体を飼いならせると思っているのだろうか。
福島第一原発の事故を受けて原子力発電や放射能に対する国民の厳しい視線が注がれる中、国や電力各社はまだ虚構の崩壊を真剣に受け止めようとしていない。
原発啓発施設で配布される印刷物は、その証しである。