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玄海原発、使用済み核燃料の危機
  ~九電・搬出計画変更の背景~
 古川知事、これでも「安全」ですか?

2011年7月 4日 06:30

 この国の原子力発電所が抱える最大の問題が顕在化しはじめた。

 注目される九州電力玄海原子力発電所(佐賀県玄海町)の再稼動問題で、古川康・佐賀県知事は、「安全性の問題はクリアした」と明言、休止中の同原発2号機、3号機の運転再開を容認する姿勢を鮮明にした。
 しかし、知事は「安全性の問題」が、いつ、どのように「クリア」されたのか説明できないはずだ。

・県庁から1時間以上もかかる同県唐津市の緊急事態応急対策拠点施設「オフサイトセンター」が機能するのか?
・国の緊急時モニタリング態勢は整ったのか?
・耐震性を含めた国の安全対策指針見直しはいつか?
 課題は積み残されたままだが、知事は国にこうした点についての事実確認さえ行っていない。
 
 経済産業大臣や総理が佐賀県まで来て、「国が責任を持つ」と約束したから再稼動を容認すると言うのでは主体性ゼロ。知事は県政トップであることを放棄したのも同然だ。現実には福島第一原発の事故について、国は何の責任も果していないのである。
 
 玄海原発の再稼動が実現すれば、全国で休止中の原発も同様の方向に向かうことが確実視される状況で、古川知事の拙速とも言える決断は、歴史に汚名を残すことになるだろう。
 玄海原発はもちろん、全国の原発が重大な危険を抱えたままであることを忘れてはならない。「使用済み核燃料」が増え続けているのである。(写真は玄海原発3号機)

九電、使用済燃料搬出計画を変更gennpatu 62783.jpg
 先月30日、九州電力は「平成23年度の使用済燃料輸送計画の変更について」とするプレスリリースを行なった。
《当社の平成23年度の使用済燃料輸送計画については、今後の使用済燃料の貯蔵状況等を踏まえ再検討をおこなった結果、下記のとおり変更しましたのでお知らせします》と記されており、当初予定された玄海原子力発電所「1号機」ではなく「3号機」の使用済み核燃料を搬出、輸送することに「変更」したとしている。
 搬出総量には変更がなく6トン(14体)で、青森県六ヶ所村にある日本原然(以下、原然)の使用済み核燃料再処理工場の貯蔵施設に送られる。
 1号機ではなく3号機の使用済み核燃料搬出に変更したことについて、九電広報は、「リラッキング工事」との関係を示唆している。これはどういう意味を持つのか。

増え続ける使用済み核燃料gennpatu 62770.jpg
 使用済み核燃料は各原子炉建屋内にある貯蔵プールに保管された後、再処理工場に送られることになる。
 再処理工場は、前述の青森県六ヶ所村の1箇所だけとなるが、原燃の再処理施設は相次ぐトラブルで本格的な稼動が遅れており、試運転を行なっているに過ぎない。平成7年以来、各地の原発から送られてきた使用済み核燃料はたまる一方となっているのだ。
 六ヶ所の使用済燃料貯蔵容量は3,000トンしかないが、現在までに2,700トン以上が再処理されぬまま貯蔵されており、余力はない。平成24年とされる本格稼動が遅れれば、極めて深刻な事態を招来することになる。
 こうした状態では六ヶ所への搬送量が限られてしまうのが当然で、全国の原発では使用済み核燃料の処理に四苦八苦となっている。そこで考えられたのが「リラッキング」である。(写真は玄海原発に併設された玄海エネルギーパークに展示されている燃料集合体)

リラッキング
 増え続ける使用済み核燃料に対応するには、その保管場所を拡大するのが一番だが、原発の建屋ごとに設置された使用済み核燃料プールの大きさを変えることは不可能だ。そこで、使用済み核燃料一体ごとの保管スペース(ラック)間隔を狭くして詰め込むことで急場をしのごうとしているのだが、これを「リラッキング」と称している。
 使用済み核燃料が入る部屋のスペースはそのままに、壁を薄くして部屋数を増すようなもので、安全性に疑問が生じるのは当然。リラッキングを行なうにあたっては、国の認可が必要となるのは言うまでもない。
 
 九電が計画している玄海3号機のリラッキングについては、昨年2月に「原子炉設置変更許可」を経済産業大臣に申請、その日のうちに公表しているが、いまだに認可はおりていない。
 
 九電は、玄海3号機の使用済み核燃料の貯蔵能力を、1050体から2084体に増強するとしているが、九電の公表文書には、工事期間について《許認可手続き及び使用済燃料ラックの製作期間等を考慮すると、平成24年度から平成27年度になる見通しである》と明記しており、それまでは、六ヶ所への搬送に頼るしかないのが実情だ。
 
 六ヶ所の使用済み核燃料の貯蔵能力が満杯に近いのは前述したとおりで、日本の使用済み核燃料への取り組みは極端に遅れている状態。遅れていると言うより"危機的"と表現した方が良い。

使用済み核燃料の現状
 九電が当初予定の1号機ではなく、渦中の3号機の使用済み核燃料搬出に変更したことは、同機の貯蔵容量に余力が無くなっていることを示している。実際、3号機の使用済み核燃料プールの容量残は2割程度と見られている。

 九電は毎年3月、玄海、川内(鹿児島県薩摩川内市)両原発における年度ごとの受け入れ新燃料と搬出する使用済み核燃料の数量を公表しているが、平成12年度から23年度までの玄海原発に関する数字を拾ってみた《注:( )内に川内原発の数字を併記》。

【平成12年度】                  
新燃料:208体(112体)
搬 出:なし (28体13トン)

【平成13年度】
新燃料:なし(108体)
搬 出:なし(56体・26トン)

【平成14年度】
新燃料:208体(100体)
搬 出:なし(84体・39トン)

【平成15年度】
新燃料:212体(108体)
搬 出:56体・26トン(28体・13トン)

【平成16年度】
新燃料:108体(なし)
搬 出:126体・54トン(28体・13トン)

【平成17年度】
新燃料:120体(116体)
搬 出:126体・54トン(なし)

【平成18年度】
新燃料:232体(100体)
搬 出:112体・52トン(なし)

【平成19年度】
新燃料:220体(なし)
搬 出:154体・68トン(なし)

【平成20年度】
新燃料:188体(92体)
搬 出:168体・72トン(なし)

【平成21年度】
新燃料:132体(80体)
搬 出:210体・89トン(なし)

【平成22年度】
新燃料:96体(92体)
搬 出:なし(なし)

【平成23年度】
新燃料:208体(68体)
搬 出:14体・6トン(なし)

 12年間で1932体の新燃料を受け入れているのに対し、使用済み燃料の搬出は966体・421トンでしかない。これではたまる一方だ。
(川内原発の同時期の新燃料受け入れ数量と使用済み核燃料搬出量はそれぞれ976体、224体・104トンとなる)

 九電側は、玄海、川内の両原発から年間110トンの使用済み核燃料が発生し、そのうち80トン程度を六ヶ所村に搬送していると回答しているが、公表された実数は以上のとおりで、玄海、川内を合わせても九電側説明の80トンを超えた年は平成21年だけ。つまり、両原発には使用済み核燃料が増え続けており、前述した「リラッキング」が遅れれば、早晩容量オーバーの状態になる可能性が高い。
 九電側は使用済み核燃料の貯蔵容量が1400トンで、現在700~800トンが原発内に保管されているとしているが、この数字は玄海、川内をあわせてのもの。玄海だけに限れば、かなり切迫していると見られる。
 玄海原発の使用済み核燃料貯蔵量は3278体分とされるが、すでに7割程度が使用済み燃料で満たされているのだ。

玄海原発の危機的状況 
 今回、九電が搬出計画を変更し、当初予定の1号機ではなく運転再開を目指す3号機の使用済み核燃料を搬出する必要に迫られたのは、リラッキングの遅れや六ヶ所村の現状を見据えた判断と見られるが、それが玄海原発の実情ということになる。
 九電にとって最も触れられたくないのが、この使用済み核燃料の問題であるとの指摘があるが、決して間違ってはいない。たしかに危機的状況であり、今回の搬出計画変更はそれが顕在化したものと言える。

古川知事に問う gennpatu 62817.jpg
 ただし、これを九電だけの責任とするのは酷な話で、もっとも責められるべきは国策として原発を推進してきた国であることは言うまでもない。「原然」は電力各社の出資による株式会社であり、国は肝心の使用済み核燃料の再処理について民間に放り出した形なのだ。
 はっきりしていることは、使用済み核燃料の問題ひとつとっても、海江田経産相や古川知事のいう「安全」を国が「保証」する態勢など、どこにも存在しないということである。
 
 再稼動を急ぐあまり、使用済み核燃料という化け物についての議論を避けている国の責任は重い。
 原発に関しては、自然災害やテロによる重大事故以上に深刻な「そこにある危機」が存在しているということになる。

 古川知事はこの事実を前にしても「安全は確保されている」と言い張るのだろうか。



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