東日本大震災の復興には巨額な予算が必要で、財源確保のため取りざたされる消費増税や新たな国債発行は、国民生活を直撃するうえ子どもや孫たち世代へのツケを確実に重くする。
打ち出の小槌が存在しない以上、身を切る努力が必要となるのはいたしかたのないことだが、その前に「税金のムダ遣い」を極力なくすことが先決ではないか。
「税金のムダ遣い」という言葉からは、橋や道路といった巨大公共事業が連想されがちだが、そのほかにも見直しが必要な役所仕事は少なくない。
競争原理なき天下り先への「業務委託」
HUNTERがとくに注目しているのは国や地方自治体が行なっている「業務委託」で、とりわけそれぞれの役所のOBが天下りしている外郭団体へのそれはたちが悪い。
これまで報じてきたように、東日本大震災に絡んでは、放射能拡散予測システム「SPEEDI」や、放射性物質のモニタリングロボット開発など、役に立たなかった事業に関連する業務委託に、巨額の税金を投入していたことが明らかとなっている。
疑念がもたれる業務委託を行なっているのは国だけではない。
福岡県は、毎年100億円前後(契約金額で100万円以上を集計)の天下り法人への業務委託を行なっていることがわかったが、そのなかには委託先の財団法人に対し、事前に契約金額を漏らしていた疑いが濃い"婚活"事業なども含まれている。
福岡市では、市全体の予算規模を縮小させながら、天下り法人への業務委託だけが増え続け、平成22年度には230億円(契約金額で100万円以上を集計)を超える税金が投入されていた。
福岡県や福岡市による外郭団体への業務委託は、大半が「特命随意契約」で、競争原理がまったく働かない状況だ。
業務委託契約の前に、天下り法人側と予算のすり合わせを行なうケースもあるとされており、腐敗の温床となっている可能性は否定できない。
国の実態は
中央省庁でも、平成22年度までは事実上の特命随契となる「一者応札」が続いていた。
地方自治体では、ごみ処理や学校給食、上・下水道事業などの実務が業務委託費を押し上げる形となっているが、国の業務委託は「調査・研究」がほとんどを占める。
例として経済産業省と文部科学省による天下り法人への業務委託(契約金額500万円以上)の実情をまとめた。
【経済産業省】(平成17年度~21年度)
平成17年度154件 109億4,318万3,465円
平成18年度142件 90億1,436万3,264円
平成19年度138件 104億8,447万4,433円
平成20年度130件 78億7,440万1,074円
平成21年度130件 86億4,657万3,307円
【文部科学省】(平成19年度~22年度)
平成19年度18件 12億7,068万5,242円
平成20年度22件 11億3,965万4,808円
平成21年度25件 30億1,623万9,313円
平成22年度25件 32億5,741万2,275円
対象を契約金額500万円以上のものに限定したため、500万円未満の契約分を加えれば契約金額はさらに増大するものと見られる。
経済産業省が年間約80~100億円前後を天下り法人への業務委託費として費消する一方、文部科学省の予算が年々増大しているのがわかる。
文部科学省の予算が平成21年度から急増しているのは、前述した「SPEEDI」に関する「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム調査」や、がれきに阻まれ動かすことさえできなかったモニタリングロボットや無人ヘリ開発を目的とした「緊急時モニタリング技術調査」がこの年から予算化されたことによる。
平成21年度は「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム調査」と「緊急時モニタリング技術調査」で約8億円、22年度は10億円以上を計上している。
両業務委託が、今回の福島第一原発の事故で何の役にも立たなかったことは、4月後半から5月上旬にかけてHUNTERが詳報しており、まさにムダな事業だったことが明らかとなっていた。
さまざまな「業務委託」は、役人の権益確保、天下り先への便宜供与に結びついているものが少なくない。すべての省庁、そして地方自治体の「闇」でもあるのだ。
必要な業務とそうでないものの峻別、さらには特命随契や入札制度の見直しなど、問題は山積している。
復興に向けて、政治家がやるべきことは、政争ではなくムダの削減だろう。