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玄海町長陣営、町議に現金報酬
   昨年7月の町長選で
~玄海原発運転再開への疑問~

2011年6月16日 09:30

 昨年7月、玄海原発の運転再開問題で注目を集める佐賀県東松浦郡玄海町の町長選挙で、岸本英雄町長の陣営が同町の現職町議5名に車上運動員の報酬としてそれぞれ9,000円の現金を支払っていたことが明らかとなった。
 
 町議は特別職の公務員で、選挙当時の活動実態によっては、公職選挙法で禁じる「公務員の地位利用による選挙運動」にあたる可能性も浮上している。 
 
 外形上の事実だけを見れば買収に等しい行為であることに加え、町長や町議としての立場をわきまえない不適切な選挙手法に批判の声が上がりそうだ。 

 運動員報酬を受け取った町議らは、玄海原発の運転再開を容認している。 

車上運動員報酬として町議に現金
 HUNTERは14日、玄海町選挙管理委員会で平成22年7月6日に告示された玄海町長選挙における岸本英雄町長の「選挙運動費用収支報告書」を閲覧。岸本陣営による現職町議に対する車上運動員報酬支払いの事実を確認した。(写真中の黒塗りと赤いアンダーラインはHUNTER編集部)

収支報告書のサムネール画像

 町長選は、現職の岸本町長のほかに立候補を届け出る者がなく、無投票で岸本氏再選が決まったが、告示日だけは選挙運動が行なわれていた。

 車上運動員として1日分の報酬9,000円を受け取っていたのは、古舘義純、中山昭和、渡辺一夫、友田国弘、脇山伸太郎の5名の町議。
 このほか、出納責任者を務めた上田利治町議には、拡声器の借り上げ料として10,000円が支払われていた。

 総務省選挙課は、車上運動員報酬を支払った相手が議員だから違法ということはないとの判断を示しているが、「公務員の地位利用による選挙運動」にあたるかどうかは実態を確認しなければわからないという。公選法上の疑義が残ることは否定できないということだ。

公務員の地位利用か?
 公職選挙法の規定では、事前に車上運動員としての届け出さえしておれば、現職議員に対しても報酬を支払うことが可能となるが、一方で同法136条の「公務員の地位利用による選挙運動」に抵触するおそれが生じる。

 玄海町の有権者の多くは、5名の「車上運動員」が町議であることを認識していたと考えるのが普通であるうえ、町議らが町長陣営の一員として投票の呼びかけや票の割り当て(票の周旋勧誘)、選挙運動の企画に関与した可能性は高い。
 公選法は、公務員の地位利用による選挙運動に対し罰則規定を設けており、違反した場合は2年以下の禁錮又は30万円以下の罰金となる。

出納責任者の話
 首長選挙における同一選挙区内の議員は「票」を持つ存在。票の取りまとめを前提に議員らに現金を渡した場合は買収行為となる。
 今回のケースは、事前に5名の町議を車上運動員として届け出て、運動員報酬の支払い自体に違法性がない状態を整えているものの、形を変えた買収と見られてもおかしくない行為だ。

 岸本陣営の出納責任者を務めた上田利治町議は、HUNTERの取材に対し、「第一回目の選挙(平成18年の町長選)でも同じことをやった」と説明。現職町議への運動員報酬支払いが、岸本町長が初当選した平成18年の町長選でも行なわれていたことを明らかにした。陣営全体の意思としてこうした選挙手法を続けていたことになる。
 さらに上田町議は、「選挙事情がある。町長派と反町長派に分かれており、町長派の議員にお願いした。マイクを握ってしゃべったのではなく、車上運動員として車(選挙カー)に同乗してもらった。地位利用との認識はなかった」などと話している。
 
 町議を利用した選挙運動と、法の裏をかいた現金授受を事実上認めた形だ。

原発めぐる構図
 問題は、公選法上の疑義のみにとどまらない。
 
 玄海町は、九州電力・玄海原子力発電所の立地自治体であり、玄海原発2号機、3号機の運転再開には同町の同意が不可欠とされているが、同町議会は今月1日、12人全員の議員で構成する「原子力対策特別委員会」(中山昭和委員長)を開き、委員長を含む8人の議員が運転再開を容認。
 岸本町長は、8人の議員の賛同を拠りどころに運転再開を認める意向を表明したが、今回、運動員報酬を受け取っていた5名の町議と出納責任者を務めた町議を含めた6名は、いずれも運転再開を容認したメンバーである。運動員報酬を受け取ったひとりである中山昭和町議は前述の委員会で委員長まで務めている。
 
 浮かび上がるのは、九電と因縁浅からぬ町長の立場と、町長選で報酬を受け取った町長派町議らが、結束して玄海原発の運転再開を推進している構図だ。
 
 買収まがいの選挙手法で町長派の結束を固めていたということのようだが、この程度の町政に原子力行政の未来を方向づける決断を求めるのは間違いではないだろうか。
 
 次稿で、玄海町の町政の実態について詳報する。
 



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