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海江田経産相 原発安全宣言の虚構

  「再稼動」目指し法も現実も無視

2011年6月18日 23:00

 海江田経済産業相は18日、原子力発電所の「過酷事故」(シビアアクシデント)への電力各社などの対応は適切であるとして、定期検査のため休止中の原発の運転再開を求めていくことを表明した。事実上の「安全宣言」である。
 電力需要がピークに達する夏場の電力不足解消や復興に向けた経済再生のためとして、原発の再稼動を促すというが、「安全」の担保はないままだ。
 海江田氏をはじめとする国の無責任体質を改めて示したに過ぎず、虚構の上に嘘を重ねる所業と言わざるを得ない。
 原発を認めることのできない三つの理由が在る。

耐震対策の欠如
 第一の理由は「耐震安全性」の欠如である。
 今回、海江田経産相や原子力安全・保安院が公表したのは、津波対策を軸にした「緊急安全対策」に次いで今月7日に電力各社などに対策を指示していた次の5項目についての評価結果である。
1、中央制御室の作業環境の確保
2、緊急時における発電所構内通信手段の確保
3、高線量対応防護服等の資機材の確保及び放射線管理のための体制の整備
4、水素爆発防止対策
5、がれき撤去用の重機の配備
 つまり、第一次の「緊急安全対策」を含めたこれまでの対策には、「耐震性」についての見直しや強化策は一切含まれていないということになる。
 地震を受けての対策であるはずなのに、揺れに対する備えが抜け落ちたまま原発の安全を叫んでいる状況で、これでは「いつか来た道」と変わりない。根拠なき「安全神話」は既に崩壊しているはずだ。
 
 原子力安全委員会は、耐震安全性の確保を図るため「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」を定めているが、これまでの想定を超えた福島第一原発の事故を受けて、16日に「指針」見直しを決定。安全設計審査指針や耐震設計審査指針などを抜本的に見直す方針だ。専門部会による検討報告は来年3月ごろになる見通しだが、指針の見直し結果が各地の原発に反映されるまでには、さらにかなりの時間を要する。gennpatu 62748.jpg

 まず、今回の福島第一原発の事故における詳細かつ膨大な知見データを得た上で、指針の見直し作業を進め、新たな指針を策定。次にその結論をもとに電力各社などが原発ごとに決められる"基準地震動"見直しを含む「耐震安全性評価結果」を国に提出する。最終的に原発ごとの耐震安全性に国がお墨付きを出すまでには、数年を必要とする。
 この過程を無視して、耐震性の安全を保障することはできない仕組みになっているのだ。
 
 電力各社が原発の安全性を国民に訴える時、拠りどころとしてきたのは国の評価だが、述べてきたような過程があったからこそ一定の信頼性があったと言える。
 現に、いまも九州電力が配布している玄海原発や川内原発のパンフレットには、原発の安全性は、国が厳重に審査しているから大丈夫なのだとする文言が並ぶ。(パンフ内の赤いラインは編集部)
 現段階で耐震性に太鼓判を押すことは、これまでの国や電力会社の「安全」とする根拠を否定することに他ならない。

法的根拠の欠如
 ふたつ目の理由は、海江田氏の会見発表の裏づけを行った形の経済産業省原子力安全・保安院には、「安全性」にお墨付きを出す資格がなく、つまりは法的根拠を欠いているということだ。

 そもそも内閣府には"原子力基本法"や"原子力委員会及び原子力安全委員会設置法"に基づき「原子力委員会」と「原子力安全委員会」が設置されており、前者は、原子力政策に関し《安全の確保に関する事項》以外を取り扱い、「原子力安全委員会」は、原子力の研究、開発及び利用に関する事項のうち、《安全の確保に関する事項》を所掌する。
 日本の法律では、原子力の安全に関する企画、審議、決定は「原子力委員会」と「原子力安全委員会」が行なうことを明確に規定しているのに対し、経済産業省原子力安全・保安院は事務取り扱い機関でしかない。保安院には安全性を保障する権限や、安全対策評価の決定権がないはずだ。

 海江田氏の言動は、法律を無視して電力会社に救いの手を差し伸べただけのこと。つまりは虚構に基づく安全宣言なのだ。
 法に則っていない政府方針は、無責任の証明でもある。

緊急時態勢の欠如
 3番目の理由には、原発の事故に対する国の態勢がまったく整っていないということが挙げられる。
 
 福島第一原発の事故に際し、機能しなかった放射能拡散予測システム「SPEEDI」。東日本大震災の発生と同時に閉鎖状態となった緊急事態応急対策拠点施設「オフサイトセンター」。原発事故に対応するはずだったロボットなどによる緊急時モニタリング。いずれも問題が山積したまま、再整備の方向性さえ示されていない。
 万が一、福島以外の原発で事故が起きた場合、国はどのように対処するというのだろうか。福島第一原発の事故に収束の気配さえ見えない状況で、ほかの原発事故に対処することなどできるはずがない。
 原発事故に対する態勢が整わないまま、「国が安全に責任を持つ」と断言する海江田氏の姿勢は、無責任というより「嘘つき」と呼んだ方が正しいのかもしれない。

無責任のツケは?
 海江田氏は、原子力行政の進め方や現状を無視して、原発は安全だから休止中の原発を再稼動させろと言っているだけだ。背景には電力需給に懸念を示す財界の意向がある。
 国民の安全より経済が大切だとする考え方に立脚しているようだが、政治家に転身するまでは「経済評論家」として名をはせた同氏らしい暴走であろう。
 この人の言葉を信じても万が一の時に責任を取ることはない。上司にあたる菅直人氏にしても同じである。
 政府の無責任が国民をどれほど不幸にするか、この国は幾度も経験を積んでいるいるはずなのだが・・・。 



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