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  玄海町長に新たな疑惑

「自宅」選挙事務所、企業が所有

2011年6月20日 09:50

 昨年7月の玄海町長選挙で、現職町議5名に車上運動員報酬として現金を渡していたことが明らかとなった岸本英雄玄海町長に、同選挙にからむ新たな疑惑が浮上した。
 町長選告示にともない、岸本町長が同町選管に届け出た「選挙事務所設置届」に記載された内容に合致する家屋と、実際に使用された事務所建物が違っていたもの。
 公職選挙法は選挙事務所の届出を義務付けており、これを怠って刑に処せられた場合は当選が無効となる。
 一連の選挙手法はあまりに杜撰で、原発再稼動の鍵を握る首長としては適格性を欠いているといわざるを得ない状況だ。

「自宅」が選挙事務所?
 玄海町長選挙は、昨年7月6日に告示。現職の岸本町長以外に立候補者がなく、無投票で再選が決まったが、同日夕の立候補届け締め切り時間までは選挙運動が行なわれていた。
 告示にともない、岸本町長が立候補届とともに提出した「選挙事務所設置届出書」には、次のように記されている。

所在地: 佐賀県東松浦郡玄海町大字長倉1553番地1
建  物: 自宅

 gennpatu 62665.jpg記載された町長の自宅住所は間違ってはいない。しかし、実際に選挙事務所として使用されたのは、同じ敷地内ながら町長が大株主のファミリー企業「岸本組」(本社:唐津市)が所有する事務所棟で、岸本町長所有の自宅家屋ではなかったことが取材で明らかになった。(写真右側と奥の建物が事務所棟、左側に自宅)

選挙無効の可能性? 
 公職選挙法は、候補者が選挙事務所を設置した時は、直ちにその旨を当該市町村の選挙管理委員会に届け出なければならないと規定しており(第130条)、これに違反して届出をしなかつた者は、二十万円以下の罰金となる(第242条)。
 さらに、同法251条では公選法に抵触して刑に処せられた場合について、《その当選人の当選は、無効とする》としている。

岸本町長の詭弁
選挙事務所設置届出書 岸本町長のケースでは、届け出た住所の番地は間違っていないものの、届け出書類に記された「自宅」と事務所棟は所有者が違う。
 
 この点について玄海町選管に確認を求めたところ、調査して回答するとしていたが、17日になって選管を担当する総務課長が岸本町長の言い分を説明した。
 それによると岸本町長は、選挙事務所として使用した事務所棟を町長自身の所有、つまり「自宅」として認識していたため、誤って記載したという。事務所棟の所有権が町長自身にないことを「知らなかった」と驚いているとも話す。
 「自宅」が選挙事務所として使用されなかったことを認めた形だが、事務所棟が岸本組の所有であることを「知らなかった」とする言い訳が通るとは思えない。

 登記簿を確認したところ、岸本町長の「自宅」の床面積が245㎡程度であるのに対し、事務所2棟の床面積は、それぞれ約220㎡と約65㎡。
 家屋の種類として自宅建物が「居宅」となっているのに対し、別の2棟は「事務所」と明記してあり、建物の面積や構造からしても間違えることは考えにくい。
選挙事務所設置届出書2 玄海町役場で、岸本町長が資産公開のために提出した書類を確認したが、町長の所有不動産は、同町内に土地2筆(合計56㎡)と建物がふたつ。建物の住所地は町長の自宅敷地内なのだが床面積は79.73㎡と152.19㎡となっている。
 登記簿上のどの数字とも合致しないうえ、敷地内に3棟あるはずの建物が2棟となっており、町長の話には整合性がない。事務所棟も自分の所有と考えていたのなら、資産公開では建物が「3棟」記されていなければならないはずだ。
 
 選挙当時、洋館造りの「自宅」には町長の母親も住んでいたのに対し、他の2棟は明らかに「事務所」。道路に面した小さな事務所棟の壁には自民党のポスターが貼ってあり、奥の大きな事務所棟玄関には「岸本英雄後援会事務所」と書かれた古い木製看板が掲げられている。
 事務所棟は岸本氏の県議時代(平成18年、県議3期目に町長に転身)から使用されており、同一敷地内ではあるが生活と政治活動が区別されていたことは容易に想像がつく。建物ごとの所有権を確認せずに政治活動を続けてきたとは思えない。
 県議時代も含めて、これまで何度もの資産公開を経ており、「知らなかった」「間違った」とする岸本町長の話が事実なら、資産公開の内容自体が虚偽だったことになり、政治家失格だ。

 いずれにしろ、岸本組所有の建物を選挙事務所として使用したことは事実で、その建物を「自宅」だと思い込んでいたとする町長の話には信憑性が薄い。

岸本組による寄附なら違法
 問題はまだある。
 使用した選挙事務所が「岸本組」の所有である以上、選挙運動費用のなかの"選挙事務所費"として何らかの支出が計上されなければならない。しかし、岸本町長の選挙運動費用収支報告書には選挙事務所費についての記載がなく、どこにも支払いを起こしていないことになっている。
 選挙事務所が「自宅」であれば問題はなかったが、岸本組所有の建物を使用した以上、選挙事務所の借り上げ料が発生することになる。有償か無償かの違いがあるだけとなるが、町長は岸本組に対し、事務所使用の対価を支払っていない。
 
 岸本組所有の建物を無償で使用したということは、玄海町の公共工事請負の実績がある同社からの寄附を受けた形となり、《地方公共団体の議会の議員及び長の選挙に関して当該地方公共団体と、請負その他特別の利益を伴う契約の当事者である者は、当該選挙に関し、寄附をしてはならない(第199条)》、《何人も、選挙に関し、第199条に規定する者から寄附を受けてはならない(第200条)》、 とする公選法の規定に違反することになる。

さらに大きな問題が・・・
 岸本町長の「自宅」や2棟の「事務所」は、同一地番の敷地内に存在するのだが、ここでさらなる問題が浮上する。
 岸本町長の政治家としての資質、資格が問われることになるが・・・。

                                               

つづく



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