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原発・緊急対策に重大欠陥
保安院が「基準地震動」見直しに言及
玄海原発運転再開に疑問符

2011年5月20日 01:00

 東日本大震災を受けての原子力発電所に関する政府や電力会社の緊急対策が、耐震性への対応を欠く不十分なものだったことが明らかとなった。安全確保の方針に重大な欠陥があったことになる。
 経済産業省原子力安全・保安院も、耐震基準見直しの必要性に言及している。 
 
 原発の耐震設計においては、安全性が確保された設計を行うため、各原発施設ごとに基準となる地震動の数値を設定しており、これを「基準地震動」と呼んでいる。
 
 今回の福島第一原発1号機の事故は、津波ではなく地震発生当初の地震による揺れが原因だったという事実のほか、設定した「基準地震動」を超える揺れが襲ったことも分かっている。
 しかし、国や電力会社は安全基準策の基礎となる「基準地震動」見直しを置き去りにして、原発の営業運転にゴーサインをを出していた。
 安全性を無視して、なお「国策」の継続にこだわる国や電力各社の姿勢に、改めて批判が出そうだ。

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その場しのぎの緊急対策
 九州電力を含む電力各社は、東日本大震災によって起きた東京電力・福島第一原子力発電所の事故を受けて各地の原発ごとに「緊急安全対策」を策定。経済産業省原子力安全・保安院も電力各社の緊急安全対策に認可を与えていた。
 
 九電は、1号機の建設から40年が経つ玄海原子力発電所(佐賀県玄海町)と川内原子力発電所(鹿児島県薩摩川内市)の緊急安全対策を公表している。
 
 しかし、いずれの緊急安全対策にも、原発における地震時の安全評価の基準となる「基準地震動」についての見直しは盛り込まれておらず、耐震性見直しが後手に回ることは必至となっていた。
 
 現時点で確認されている福島第一原発の状況から考えて、津波への対応だけに着目したこれまでの緊急対策に欠陥があることは歴然。耐震性見直し策を欠いたまま、その場しのぎの対応で原発運転を継続させようとした国や電力会社の責任は重い。
 
保安院、基準地震動見直しに言及
 福島第一原発の事故については当初、津波による電源喪失が主な原因とされていたが、その後、地震の揺れで1号機の圧力容器や配管に損傷があった可能性が浮上。東電や保安院側もこうした事実を認める見解を示していた。
 
 東京電力は昨年3月、「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」(以下、指針)の改訂に伴い基準地震動を180ガルから600ガルに変更するとともに耐震設計方針も変更していたが、こうした対策では不十分だったことは明らか。
 当然、指針の見直しが必要で、特に各原発の「基準地震動」の妥当性や、地震動に対する耐震有効性の検証は急務のはずだった。

 19日、取材に応えた経済産業省原子力安全・保安院は、「基準地震動」について、「今後、原子力安全委員会などと協議する中で検討することになる」として見直しの必要性に言及。新たな耐震基準作りへの動きを事実上認めた形となった。

矛盾する国の姿勢
 しかし今月15日、保安院は佐賀県玄海町議会に対し、同町内にある玄海原子力発電所に対する九州電力側の緊急安全対策について、認可経緯の説明をしたうえで、定期検査で停止中の同原発2号機・3号機の運転再開に「問題なし」とする見解を示しており、耐震対策を後回しにして九電の後押しをする展開となっていた。基準地震動の見直しを視野に入れながら、矛盾する姿勢と言うしかない。

指示待ち「九電」、原発事業者の矜持なし 
 一方、九州電力の広報は19日、「基準地震動」の見直しは行なっていないことを認めたうえで、「新たな知見データがあれば反映させていくが、あくまでも耐震指針の見直し指示が国からあった段階でのこと」として、独自に耐震対策を行なうことを否定している。国や世論が動かなければ何もしないということで、安全確保への信念は見えてこない。原発事業者としての矜持はないのだろうか。

 ちなみに、玄海・川内の両原発について、九州電力が公表している緊急安全対策はおよそ次のとおりで、「基準地震動」の見直しを含む耐震に関する事項は実施予定にない。(以下、九電ホームページより引用)
1. 緊急安全対策(実施済)
(1)電源の確保【高圧発電機車の配備】
(2)給水源の確保【仮設ポンプ・ホースの配備】
(3)使用済燃料ピットの冷却機能確保【仮設ポンプ・ホースの配備】
2. 更なる安全性向上対策(実施中)
(4)電源の確保【移動式大容量発電機の配備】
(5)海水ポンプ等の予備品確保【海水ポンプ及びモータの予備品の確保】
(6)重要機器エリアの防水対策【海水ポンプエリア等の防水対策】
(7)水源の信頼性向上【タンクの津波等に対する補強】

玄海原発運転再開への疑問 
 九電は平成21年、玄海原発の基準地震動について、国の耐震指針改定や新潟・中越沖地震の検証結果を踏まえて、370ガルから540ガルに引き上げた(川内原発の基準地震動も540ガルとなっている)。
 しかし、福島第一原発の事故は、自然の驚異が「想定」をなんなく超えてしまっており、九電の基準地震動変更も説得力を失っている。耐震対策を積み残したまま、玄海原発2号機、3号機の運転再開を認めることは避けるべきではないだろうか。 

 九電をめぐっては、福島第一原発事故を過小評価したうえ、被災地である双葉町の子ども達の写真を掲載したパンフレット「いま知りたい 放射能と放射線 Q&A」(社団法人日本電気協会新聞部制作)を、「玄海エネルギーパーク」(佐賀県玄海町。玄海原発に併設)、「川内原子力発電所展示館」(鹿児島県薩摩川内市。川内原発に併設)、「九州エネルギー館」(福岡市中央区)などの原発啓発施設で無料配布していたことが判明。ハンターがこれを報じた17日から回収を行なっていた。
 こうした九電の体質が改まらない以上、安易に原発を認めることはできない。 

原発の終焉 
 東日本大震災発生から3日後の3月14日、《問われる原発の行方~崩れた「安全神話」》のなかで次のように述べた。
 「既存原発の耐震性見直しは急務だ。電力各社は、平成19年の新潟県中越沖地震以後、国の方針を受けて地震時の安全評価の基準となる『基準地震動』の策定を厳しくしたが、それでも福島原発では事故が起きた。『想定』の範囲を見直すことは、原発の信頼性を維持する上で必須条件になったと言える」。

 基準地震動に関する政府や電力各社の動きを目の当たりにした今、「『想定』の範囲を見直すことは、原発の信頼性を維持する上で必須条件になったと言える」のくだりは、「もはや『想定』は通用しない」と書き変えねばならない。
 原発は、人間に制御できるものではないのだ。



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