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玄海原発では機能するか
~オフサイトセンターの現実~
原子力防災対策特別措置法への疑問(下)

2011年5月18日 09:30

 全国に20箇所を数える「オフサイトセンター」は、原発施設の近くにあって、緊急時には国や地方公共団体、原子力事業者などの関係者が参集し、情報を共有しながら住民避難などへの適切な対応を導くための「緊急事態応急対策拠点施設」だ。
 しかし、東日本大震災の発生によって東北地方に大規模な停電が発生、東京電力・福島第一原子力発電所と同第二原子力発電所の事故に備えて福島県大熊町に設置されていたオフサイトセンター(正式名称は「福島県原子力災害対策センター」)では軽油を用いた非常用電源も故障し、「緊急事態応急対策拠点施設」としての機能を発揮することができなかった。
 オフサイトセンターは、本当に原発の事故に対応できるのか、そしてオフサイトセンターの設置を定めた「原子力防災対策特別措置法」や同法施行規則には問題がないのか。改めて検証した。

佐賀県オフサイトセンター 
gennpatu 012.jpg 福岡市に最も近い原発は、九州電力・玄海原子力発電所(佐賀県玄海町)だが、玄海原発の非常事態に対応するのは、同原発から14キロ離れた佐賀県唐津市にある「佐賀県オフサイトセンター」である。
 玄海原発に事故があった場合、果たして同センターは予定通り機能するのだろうか。
今月15日、「佐賀県オフサイトセンター」に取材を試みた。
 
 取材で訪ねた15日は日曜日。がらんとした同センターでは経済産業省原子力安全・保安院の「原子力保安検査官」1名が勤務していた。取材に応じた検査官によれば、同センターの勤務者6名のうち1名が「原子力防災専門官」で、ほかの5名が「原子力保安検査官」。5名の「原子力保安検査官」のうち2名が「原子力防災専門官」を兼任しているという。同センターには「原子力防災専門官」が3名いることになる。

 「原子力防災専門官」とは、「原子力防災対策特別措置法」によって定められた職で、原発事業者である電力会社の防災計画などへの助言・指導をはじめ、オフサイトセンターに設置された「SPEEDI」などの保守管理、原子力防災訓練の企画調整と実施、原子力防災についての地元への理解促進活動などを行うとされ、原子力防災専門官の事務所を構えることがオフサイトセンター指定の条件ともなっている。
 原発に緊急事態が発生した場合は、情報収集と国との連絡、要員招集の判断などが主な任務とされ、初動時において電力会社の原子力防災管理者からの通報を受け、迅速に防災体制を整える役割を担っている。
 「原子力防災対策特別措置法」の施行にあたっては、特に「原子力防災専門官」の役割が重い。

 一方、「原子力保安検査官」は、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」に基づき定められており、原発における保安規定の遵守状況や運転管理状況、教育訓 練の実施状況の調査、定期自主検査への立合いなどの保安検査を実施し、緊急時には、国への連絡、現場調査及び再発防止対策の確認 などの業務を担当する。
 
 防災専門官・保安検査官ともに、平成11年の東海村JCO臨界事故を契機に設けられた職である。
 
15時間は無人
 取材に応じた保安検査官の話によれば、「佐賀県オフサイトセンター」では土曜、日曜は交替で1名がセンターに詰めることになっているという。平日の勤務は朝8時30分から17時15分まで。オフサイトセンターを離れた防災担当官は、緊急事態の場合、電力会社からの事故の通報を受けて30分以内にセンターに到着するよう内規で決められているとしている。
 気になったのは、約15時間あまりオフサイトセンターが「無人」になるということと、大規模な地震等の災害時、センターまでたどり着けるのか、という2点だ。
 
 福島第一原発事故における政府の"迷走"は、初動でつまずいたことが大きな要因となっている。その経験は生かされるべきではないだろうか。

建物に高性能フィルターなし
 保安検査官に確認して一番驚いたのは、同センターの建物には放射性物質の侵入を防ぐための高性能フィルターなどの防護措置が施されていないということだ。これでは、玄海原発の緊急事態で、多くの関係者が集まり対応することは難しい。
 保安検査官は「与えられた任務をきちんと果す」としながらも、現状の欠陥については否定しなかった。
 原発から20キロ以上離れた場所でも安全ではないということを、福島第一原発の事故が実証しているうえ、これまで10キロ圏内とされてきたEPZ(防災対策重点地域)の見直しが視野に入るなか、オフサイトセンターの放射性物質に対する防護態勢強化は急務だろう。
 
原子力災害対策特別措置法への疑問
 そもそも原発の緊急事態に対処する拠点施設として、オフサイトセンターの位置は妥当なのだろうか。
 原子力災害対策特別措置法は、原発施設ごとにオフサイトセンターを設置することを規定しており、さらに原子力災害対策特別措置法施行規則は、オフサイトセンターの満たすべき要件として、12項目を求めている。
 
 オフサイトセンターの地理的条件を《当該原子力事業所との距離が、20キロメートル未満であって、当該原子力事業所において行われる原子炉の運転等の特性を勘案したものであること》としており、全国のオフサイトセンターは、対応する原発から20キロ以内に設置する必要があるのだ。

 "降り注ぐ放射能の下"という状況を考えると、こうした重要施設を原発から20キロ以内に設けるという「原子力災害対策特別措置法施行規則」の規定自体が間違いではないのか、という疑念が生じる。
 
 さらに例を挙げるが、オフサイトセンターの指定にあたっての12項目の要件のなかには《当該オフサイトセンターが使用できない場合に備えて、当該オフサイトセンターから移動が可能な場所に、これに代替することができる施設(必要な交通手段が確保でき、かつ、必要な通信設備を備えた十分な広さを有する施設)を確保》とある。
 
 福島県の場合は、福島第一原発から5キロの位置にあった大熊町の「福島県原子力災害対策センター」の代替施設として、福島第一原発から20キロ圏内にある同県南相馬市の県合同庁舎が指定されていた。しかし、南相馬市が壊滅的な被害を被ったこともあり、オフサイトセンターは福島市内の県庁内に移されている。
 本来のオフサイトセンターに加え代替施設も機能しなかったのである。

 「佐賀県オフサイトセンター」の代替施設は、同センターから車で数分の「唐津総合庁舎」とされるが、佐賀県オフサイトセンターが使用できないといった状況で総合庁舎は無事なのだろうか。

 福島第一原発の事故におけるオフサイトセンターの機能喪失、そしてほかのオフサイトセンターの現状からは「原子力災害対策特別措置法」や「原子力災害対策特別措置法施行規則」の不備は明らかだ。「原発安全神話」に立脚してきた現行の法令や放射能防護態勢のすべてが、見直しの対象ではないか。

 こうした疑問に対し、取材に応じた経済産業省原子力安全・保安院の職員も、個人的な見解と断りながら「見直す必要はあるでしょうね」と話す。

民主議員「法律は間違っていない」
 法律の不備は国会の責任である。選出県に原発を抱えるある民主党代議士にこの点を聞いてみたが、残念ながら「法律は悪くない。守らない人間が悪い」として福島第一原発事故に際し、オフサイトセンターを県庁に移したことを否定する自説を展開された。この程度の国会、この程度の政治家ということだろう。

 しかし、「放射能を浴びても任務を果せ」というのは職務命令の限界を超えている。福島第一原発で闘ってきた自衛隊員や消防職員の姿を思い出すほど、その感は強まる一方だ。      
 原発が存続する限り、原災法や施行規則は遵守されつづけるのだから、不備があれば改正するのが国会の責務だろう。
 
 原発という"化け物"の建設を推進してきた責任が、これを国策とした国や追認した国会にあるのは言うまでもない。

名護屋城跡から見た玄海原発
 ところで、写真は佐賀県唐津市鎮西町の名護屋城・天主台跡から見た玄海原発3、4号機の姿だ。ここから見える景色のなかにあって原発は"異物"でしかない。
 城を築いた太閤秀吉がこの風景を眺めたならば、どのような感想を漏らしただろう。
 「太閤が睨みし海の霞かな」の句碑が、心なしか寂しげに見えた。

20110516_h02-01.jpg  対抗が睨みし...



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