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オフサイトセンターの現実
「原子力災害対策特別措置法」への疑問(上)

2011年5月16日 09:00

 東日本大震災が招いた東京電力福島第一原子力発電所の事故にあたっては、緊急時に対応するために整備されてきた国のシステムや機材がまったく役に立たなかった。
 自ら作り上げた「安全神話」に依拠して、ひたすら税金を食いつぶしてきたことになる。
 
 これまで報じてきた文部科学省が所管する放射性物質拡散予測システム「SPEEDI」や防災モニタリングロボット「モニロボ」のケースのほか、原研(旧・日本原子力研究所。現・独立行政法人日本原子力研究開発機構)が10億円をかけて開発した別のロボット5台が廃棄処分になったり放置されたまま眠っていたという事例も報じられている(5月14日:西日本新聞朝刊)。
 
 どれも原発事故が起きた場合の初動時の切り札として期待されたものばかりで、「役に立ちませんでした」で済む話ではない。国民の生命や財産を守るという"政治や行政の存在意義"が問われる話なのだ。もちろん、「税金のムダ遣い」や故意ともいえる原発事故への無警戒は、厳しくその責任を問われるべきだろう。
 HUNTERは、文部科学省の天下り法人「財団法人原子力安全技術センター」に対する同省の業務委託に関する公文書から問題点を抽出しているが、一連の業務委託契約のなかに「オフサイトセンター」に関するものがあった。

「オフサイトセンター」とは
 平成11年、茨城県東海村でJCO(株式会社ジェー・シー・オー)が起こした臨界事故を受け、原子力災害に対する対策強化の必要性から「原子力災害対策特別措置法」(原災法)が制定された(平成11年12月制定、12年6月施行)。
 同法は、災害対策基本法などを補完する形で《原子力災害に対する対策の強化を図り、もって原子力災害から国民の生命、身体及び財産を保護すること》(同法第一条)を目的とし、原発事故における初期動作の迅速化や国と地方自治体との連携強化、防災対策における事業者の責任の明確化などを規定している(これまでの経緯を見る限り、政府は同法を都合のいい時だけ利用したに過ぎないが・・・)。
 同法は、原子力災害時に、国、地方自治体などの関係者が参集し、緊急時の情報を共有しながら住民避難などへの適切な対応を導くための拠点となる施設として、原発の存在する都道府県内に「緊急事態応急対策拠点施設」を設置することを定めており、この拠点施設を「オフサイトセンター」と呼ぶ。現在、オフサイトセンターは全国で20ヶ所となっている。

「オフサイトセンター」機能せず
 福島第一原発と福島第二原発の事故に対処する目的で設置されていたのが、福島県大熊町の「福島県原子力災害対策センター」で、同センターが緊急事態応急対策拠点施設、すなわち「オフサイトセンター」にあたる。しかし、大熊のオフサイトセンターが今回の緊急事態に機能することはなかった。
 
 3月11日の東日本大震災発生と同時に停電が発生、さらに軽油を用いた非常用電源も故障し、何の役にも立たなかったのである。オフサイトセンターを所管する経済産業省原子力安全・保安院に取材したところ、「非常用電源の燃料を送るポンプが壊れた」ため電源を確保できず、やむなく同月16日に福島県庁内にオフサイトセンターを移したという。

原災法の施行推進に多額の予算
 「原子力災害対策特別措置法」の制定以来、その施行を推進するためオフサイトセンターの設置などに巨額の税金が投入されてきた。センター建屋の建設や自家発電設備の整備、維持・管理に係る地方公共団体への補助や、システム整備などに対しての原子力安全基盤機構(独立行政法人)への補助など、平成12年だから17年度までの6年間で約387億円が使われたとされる。
 もちろん、毎年の維持・管理費などにその後も多額の予算が計上されてきたことは明らかだ。
 文科省は、関係するオフサイトセンターの保守点検を目的として、毎年「オフサイトセンター等に係る保守運用支援業務」という名称で約1,800万円程度の業務委託を繰り返してきたが、なぜか毎年の業務委託の履行場所は首都圏や大阪に集中している。


平成19年度  平成20年度  平成21年度  平成22年度 

 文科省に確認したところ、「文部科学省が所掌するオフサイトセンターに関するものだけを対象としているため」と説明するが、そうなると他県のオフサイトセンターの保守点検などはどこが行なっているのか、ということになる。
 オフサイトセンターには、文部科学省が所管する「SPEEDI」システムの端末も設置されているからだ。
  
 オフサイトセンターはどのように運営されているのだろう?
 
 疑問に思って、九州電力・玄海原子力発電所(佐賀県玄海町)に対応するため設置された「佐賀県オフサイトセンター」(佐賀県唐津市)を訪ねた。

つづく
        



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