文部科学省が、平成22年度に同省の天下り法人と500万円以上の業務委託契約を結んだ件数は25件。そのうち23件が放射能あるいは原子力関連の事業だった。使われた税金は32億円以上にのぼる。
同省の業務委託には、2回にわたって報じてきた「SPEEDI」や「無人ヘリ」、「モニロボ」など今回の東京電力福島第一原子力発電所の事故にあたって「無用の長物」と化したものが含まれている。
業務委託自体への信頼性、必要性に疑問が生じており、32億円の税金が、どれほど国民の安全確保に寄与したのか分からない状況だ。天下り法人への税金投入の内容については、改めて見直す必要がある。
求められるのは、民主党が行なったパフォーマンスとしての「事業仕分け」ではなく、細かな業務内容や積算根拠にまで踏み込んだ検証だ。同時に、それぞれの天下り法人について、存在の是非も論じるべきだろう。
ひとつの例が、これまで取り上げてきた「財団法人 原子力安全技術センター」である。
原子力安全技術センターに対する業務委託
平成22年度に、文部科学省が同省の天下り法人との間で契約した500万円以上の業務委託25件(23件が原子力関連)のうち、12件は「SPEEDI」や「無人ヘリ」「モニロボ」の開発・運用を行なっていた「財団法人 原子力安全技術センター」に対するもの。いずれの契約も「入札」を行なっているが、12件中11件がいわゆる「1者応札」によるものだった。
同年度の業務委託の名称と契約日、契約金額をまとめた。
1、「核燃料物質使用施設及び試験研究用原子炉施設の許認可申請書等並びに核燃料物質使用施設及び試験研究用原子炉施設の事故・トラブル情報に関するデータベース整備1式」
(契約日:平成22年4月1日。契約金額15,359,400円)
2、「原子力艦寄港地放射能影響予測システム調査1式」
(契約日:平成22年4月1日。契約金額8,535,420円)
3、「総合核テロ対策技術調査1式」
(契約日:平成22年4月1日。契約金額17,699,058円)
4、「研究開発段階炉等の廃止措置技術の研究開発1式」
(契約日:平成22年4月1日。契約金額94,799,985円)
5、「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム調査1式」
(契約日:平成22年4月1日。契約金額778,014,298円)
6、「緊急時モニタリング技術調査1式」
(契約日:平成22年4月1日。契約金額230,944,224円)
7、「防護対策技術調査1式」
(契約日:平成22年4月1日。契約金額17,492,313円)
8、「防災訓練の実施調査1式」
(契約日:平成22年4月1日。契約金額219,998,383円)
9、「核燃料サイクル施設等運転管理方策調査1式」
(契約日:平成22年4月1日。契約金額9,975,000円)
10、「オフサイトセンター等に係る保守運用支援業務1式」
(契約日:平成22年4月1日。契約金額17,823,750円)
11、「新核物質防護システム確立調査(IAEA新勧告対応防護システム構築の策定)1式」
(契約日:平成22年6月30日。契約金額6,151,950円)
12、放射線障害防止法における廃棄物埋設及びクリアランスに係る放射線濃度確認に関する調査1式」
(契約日:平成22年7月28日。契約金額5,215,386円。3者応札。総合評価で決定)
以上、この年の原子力安全技術センターに対する業務委託費の総計は約14億円となる。
前年の平成21年度も、文部科学省の天下り法人への業務委託(500万円以上)は、25件中21件が放射能あるいは原子力関連で、うち14件(11件は『1者応札』)が「原子力安全技術センター」との契約だった。同センターとの契約金額の総計は約12億円である。
一連の業務委託の中で、今回の福島第一原発の事故に関係するものは、SPEEDIシステムを使った「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム調査」、無人ヘリやモニタリングロボット「モニロボ」開発に係る「緊急時モニタリング技術調査」、緊急時モニタリング時の業務計画に関する「防護対策技術調査」、原子力災害に備えた防災訓練の実態を調査する「防災訓練の実施調査」や「オフサイトセンター等に係る保守運用支援業務」など。
しかし、結果的にこれらの業務は、どの「仕様書」にも記された原子力災害時の防護や、迅速な住民避難といった目的に「資する」ことはなかったのである。福島第一原発の放射能漏れをめぐる政府の混乱ぶりが何よりの証しだ。
「防災訓練」参画で2億円
「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム調査」と「緊急時モニタリング技術調査」については報じてきたとおりだが、「防災訓練の実施調査」に至っては、国や地方公共団体が行なう防災訓練に数回「参画」し、「課題抽出及び改善策の提案等を行なう」ほか、「緊急時対応講習会」を何度か行なうというもの。
「実施調査」と記されているので実際に防災訓練を主催したのかと思ったら、とんでもない内容だった。この程度の業務に2億円以上の税金をつぎ込んでいたのである。とても民間では考えられない。
「防災訓練の実施調査」は、毎年度、原子力安全技術センターが「1者応札」で落札しており、文科省への情報公開請求で得た文書で確認しただけでも、契約金額は次のとおりとなる。
・平成19年度・・・約3億3,000万円
・平成20年度・・・約2億6,000万円
・平成21年度・・・約2億2,000万円
・平成22年度・・・約2億2,000万円
疑問
ところで、職員数160名前後の「原子力安全技術センター」に(同センターによれば、現在の職員数は164名)、毎年これだけの業務がこなせるのだろうか。さらには、巨額な業務委託費は本当に妥当な金額なのだろうか。
公表された資料から見ると、「原子力安全技術センター」が平成21年度に文部科学省から委託された業務に関する支出は「人件費」と「一般管理費」で5割を超えており、残りは民間企業への支払いとなっている。
また、総収入のうち文科省を中心とする国からの業務委託収入が、毎年度約6割を占めており、税金が「原子力安全技術センター」の存続基盤となっていることが分かる。これでは 「天下り法人」延命のために必要のない業務を作り出している可能性も否定できない。
日当「50000円」
同センターの常勤役員への給与は、役職、勤務形態などによって決める区分ごとに106万3,000円、99万1,000円、91万9,000円、84万円、78万2,000円、72万6,000円(以下省略)などとなっている。どう見ても「高額」である。
非常勤役員に対する「日当」もけた外れで、会長及び理事長が5万円、副理事長が4万5,000円、専務理事・常務理事が4万2,000円だ。
時給700円、800円のパート先を必死で探す庶民からすれば、夢のような日当である。
非常勤である同センターの会長は旧・科学技術庁(省庁再編で文部科学省、内閣府、経済産業省などに所管事項を分割)事務次官で、常勤理事に元・文部科学省科学技術・学術政策局原子力安全課放射線規制室長が、常勤監事には元・科学技術庁長官官房付の人間がいるほか、非常勤理事に元・経済産業省東北経済産業局長が名を連ねている。
国からの業務委託の実態や公表資料からすれば、こうした官僚OBへの高額な給与や日当は、ほぼ税金から支出されているといっても過言ではない。
民間の感覚からは程遠い金額の役員報酬や日当をもらいながら、行なってきた業務自体が福島第一原発の非常事態で何の役にも立たなかったことに対し、責任を感じているのだろうか。
問われる業務委託の必要性
取材に対し原子力安全技術センター側は、「調査に関する業務委託が大半で、少ない人数で仕事をこなせている」としているが、委託費の半分が同センターの人件費などで、あとは「外注」(同センター)であることを認めている。
さらに「防災訓練」への"参画"については「(実質的には)支援業務」であるとしているが、訓練が同センターの主催ではないことに変わりはない。
行政や政治の行なうことは、結果がすべてである。そうした意味では、「原子力安全技術センターへの業務委託は本当に必要だったのか」との問いに対する答えは、既に出ている。
原発事故という「その日」のために続けられてきた税金投入がムダになったことは、これまでの政府の対応や報じられた事実などからも明らかだ。
天下り法人と所管省庁との関係、そして繰り返される巨額な業務委託の数々について、詳細な検証が求められている。