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飛ばぬ「無人ヘリ」に動かぬ「モニロボ」
 文科省・業務委託で5億円のムダ

2011年5月 2日 10:00

 官庁とその天下り法人との間で横行してきた馴れ合いや便宜供与が、この国をだめにする要因になっていることは間違いない。そのひとつが天下り法人への「業務委託」である。

 役人OBの生活保障や権益擁護に多額の税金が垂れ流されるだけでなく、国民の生命や財産を守るという最低限の目的さえ果たせないとしたら、「業務委託」そのものが国民に対する詐欺、横領に等しい。

 顕著な事例が、役に立たなかった放射性物質拡散予測システム「SPEEDI」(スピーディ:緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)などに関する文部科学省の巨額業務委託だ。

 同省が所管する「SPEEDI」をめぐっては、東京電力福島第一原子力発電所の事故にあたって、"住民避難が迅速かつ的確に行われるようにする"ための役には立たなかったことが明らかになっている。

 責任は、東日本大震災発生から12日も経って「SPEEDI」のデータを公表した政府にあるが、地震によってモニターが壊れ、予測に必要な放出源情報が得られなかったという説明が真実なら、システム自体が脆弱だったことになる。
これまで「SPEEDI」に128億円もの税金が投入されたにもかかわらずだ。

 先月28日、文部科学省が1年間で約8億円もかけた「SPEEDI」に関する業務委託の内容について報じたが、取材の過程では同省の無責任体質や、「原子力安全委員会」との対立の構図が浮き彫りとなった。

 ところが、税金のムダ遣いはこれだけではなかった。

入札結果報告書


緊急時モニタリングに約2億3000万円
 文部科学省はよほど間が抜けた役所らしく、「SPEEDI」とは別に、今回の原発事故でまったく役に立たないことが証明された「業務委託」を繰り返していたことが分かった。

 登場するのは「無人ヘリ」や「ロボット」である。

 直近の事例から紹介すると、平成22年3月、文部科学省は「緊急時モニタリング技術調査」という業務委託の入札を実施した。

 "1者応札"で 同業務を落札したのは「SPEEDI」関連の業務委託を受けていた国の天下り法人「財団法人原子力安全技術センター」。契約金額は230,944,224円だった。

 同業務委託の「仕様書」によれば、業務目的は《原子力災害時に実施する緊急時モニタリングをさらに迅速化及び効率化するため、新たな技術及び支援システム等について総合的な調査を実施する》とされているが、福島第一原発の事故に関して、緊急時モニタリングが成果を上げたという事実は見当たらない。

 「仕様書」からは、今となっては"滑稽"と言うほかない業務内容が明らかとなる。

仕様書1 仕様書2


「無人ヘリ」無かった
 同業務は、原発事故を想定した緊急時モニタリング活動において、航空機とロボットを利用した場合の実施方法や成果についての調査・検討を委託したものだ。

 航空機を使ったモニタリングは、「緊急時航空機サーベイシステム」(サーベイ=調査)と呼ばれ、迅速性が求められる「簡易型航空機サーベイシステム」と、「詳細航空機サーベイシステム」の2種類が運用されることになっていた。後者は、事故が終息した時点での地上に沈着した放射性物質のモニタリングに用いられるシステムであるのに対し、前者はまさに迅速性が求められる事故の初期段階に使用されるものだ。  

 航空機搭乗員の被曝を避ける観点から、簡易型向けに産業用の「無人ヘリコプター」を用いたモニタリング方法の開発が進められてきたが、今回の福島第一原発の事故において、この業務委託の仕様書に記された「無人ヘリ」の活躍はなかった。

 結論から述べると、国や原子力安全技術センターは、使用可能な「無人ヘリ」を保有していないのである。

 業務を委託された原子力安全技術センターに確認したところ、無人ヘリそのものが"開発中"で、使用できる機体は未だに保有していないのだという。無人ヘリシステム開発の委託を受けたのはここ2年あまりのことで、現在、どのメーカーの機種にするかなどを含めて、研究開発段階にあるというのだ。

 無人ヘリシステムが単なるラジコンヘリと違うのは分かるが、億単位の税金を数年に渡ってつぎ込みながら、技術的な問題さえ確立していなかったことには驚くばかりだ。

 なにより、「安全神話」に胡坐をかいて、被曝の危険排除が担保されたモニタリング方法の確立を怠った国の責任は重い。

モニタリングロボット投入、指示見送った文科省
 次に仕様書に登場するのは「ロボット」だ。

 原子力安全技術センターは、緊急時の放射性物質測定のために、防災モニタリングロボットを2台保有している。幅80cm、長さ150cm、高さ150cm、重さ600kgで、それぞれの特徴や色の違いで「モニロボA」(赤)「モニロボB」(黄)と呼ばれる。  

 4月30日の東京電力と文部科学省による会見でも明らかとなっているが、福島第一原発に投入された問題のロボットは、がれきに阻まれて進むことができず、何の役にも立たなかった。

 原子力安全技術センターによれば、東京電力から「モニロボA」の貸し出し要請があったのが3月16日のことで、所管の文部科学省に了解を取って東電側に貸し出したとしている。

 つまり、モニロボの福島第一への投入は、東電側の要請によるもので、「文科省の判断」ではないということだ。文科省は「業務委託」に予算をつけただけで、機能不全に陥っていたとしか思えない。

 さらに、原子力安全技術センターは、青森県六ケ所村の防災技術センターに保管されていた「モニロボ」を、独自の判断に基づき3月12日頃には福島第一原発方面に移動させ、投入の指示を待っていたことを明かした。ところが、文科省側からモニタリング実施の指示は出なかったとしている。

 文科省は、「モニロボ」操縦者の被曝を恐れて、現地投入を見送ったものと見られ、原子力安全技術センター側も、「放射線数値等を考えてのこと」とこうした見方を裏付ける話をしている。だが、これでは原発事故に備えてのシステム開発自体が無意味だったことになる。  

 もともと、「モニロボ」を操作する人間には一定の距離まで原発に近づく必要性が生じることが分かっていたはず。実際の原発事故で被曝を恐れていたのでは、システムを有効に使うことなどできるはずがない。巨額のロボット開発費や業務委託は、何の意味もない「税金のムダ遣い」だったことになる。

 膨大な予算の消費は「原発安全神話」を補強するパフォーマンスに過ぎなかったのだろうか。

 ちなみに、「モニロボ」の無線操縦有効範囲は約1,100m。福島第一原発の事故直後から、東電やその下請企業の職員はもちろん、消防や自衛隊による懸命の放射能封じ込めが行なわれてきたことは周知のとおりで、作業は原子炉建屋そのものに接した形で行なわれている。1キロ以上離れた場所での操縦作業さえ拒むのなら、文部科学省にはモニタリングシステム開発に税金を使う資格などない。なお、業務委託の仕様書に添付された文書によれば、「モニロボA」の総制作費は167,790,000円だったとされている。

 一連の動きからは、文科省関係者が被曝するのは困るが、東電側なら結構というとんでもない姿勢も浮かび上がる。

入札結果報告書

 
平成21年度にも同様の業務委託
 ここまで述べてきた平成22年度の「緊急時モニタリング技術調査」とほぼ同じ内容の業務委託は平成21年度にも実施されており、この時の契約金額は262,415,899円。1者応札によって「落札」したのは、もちろん「財団法人原子力安全技術センター」である。

 仕様書の表現は多少違うものの、原発事故時の放射性物質緊急モニタリング技術の開発に係る業務で、原子力安全技術センターによれば、この年から「無人へり」の開発研究を委ねられたという。 
 
 いずれにしろ、「無人ヘリ」と「モニロボ」に、2年間で約5億円の税金を投入しながら、結局は何の役にも立たなかったという形だ。


書類1 書類2 書類3

平成23年度予算にも10億円以上を計上
 同省は、平成23年度予算でも「SPEEDI」及び「緊急時モニタリング技術調査」などの業務委託に係る予算を10億円以上計上している。改めてその必要性が問われているのは言うまでもない。

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