東京電力福島第一原子力発電所の事故によって懸念される「放射能」への対応をめぐり、政府内組織の対立と、文部科学省の無責任体質があらわとなった。
SPEEDI
文部科学省は、放射性物質の拡散予測のため「SPEEDI」(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)を運営・管理している。同省原子力安全課のホームページには、「SPEEDI」について次のように説明されている。(以下《 》内は同ホームぺージから引用)
《緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI:スピーディ※)は、原子力発電所などから大量の放射性物質が放出されたり、そのおそれがあるという緊急事態に、周辺環境における放射性物質の大気中濃度および被ばく線量など環境への影響を、放出源情報、気象条件および地形データを基に迅速に予測するシステムです。
このSPEEDIは、関係府省と関係道府県、オフサイトセンターおよび日本気象協会とが、原子力安全技術センターに設置された中央情報処理計算機を中心にネットワークで結ばれていて、関係道府県からの気象観測点データとモニタリングポストからの放射線データ、および日本気象協会からのGPVデータ、アメダスデータを常時収集し、緊急時に備えています。
万一、原子力発電所などで事故が発生した場合、収集したデータおよび通報された放出源情報を基に、風速場、放射性物質 の大気中濃度および被ばく線量などの予測計算を行います。これらの結果は、ネットワークを介して文部科学省、経済産業省、原子力安全委員会、関係道府県およびオフサイトセンターに迅速に提供され、防災対策を講じるための重要な情報として活用されます》
活用されなかったSPEEDI
政府は、震災発生から12日も経った3月23日、やっとSPEEDIシステムによって得られた予測データを公表したが、「迅速に」「防災対策を講じるための重要な情報として活用されます」と記されたお約束はまったく守られなかったことになる。
事実、今月25日に記者会見した細野豪志首相補佐官は、SPEEDIシステムについて「予測に役に立たなかったことは、申し訳ない」と謝罪している。
「文科省は嘘つき」
HUNTERは現在、SPEEDIなどに関する文部科学省と天下り法人との巨額な業務委託契約について取材しているが、その過程でSPEEDIの運用をめぐり文部科学省と原子力安全委員会が対立する構図が浮かび上がっている。
26日、SPEEDIなどに関する業務委託内容について確認するため文部科学省に電話したが、所管課である防災環境対策室は同システムに関する問い合わせが殺到しており、なかなかつながらない状態。
夕方になってやっとつながったところ、電話に出た同省の役人は「SPEEDIについては、他の部署に電話を回せと指示されている。『原子力安全委員会』か、文部科学省内の『原子力災害対策支援本部』に聞いてもらえば分かる」として原子力安全委員会事務局と同省原子力災害対策支援本部の電話番号を教えた。無責任な対応である。
しかし、原子力災害対策支援本部は、「SPEEDIに関しては、『原子力安全委員会』が運用することになったので、そちらに聞いて下さい」。ご丁寧に電話番号まで教えてくれたのは防災環境対策室と同じ"たらい回し"の典型的手法だ。
ただし、文部科学省側は一致して、原子力安全委員会にSPEEDIの運用が委ねられた時期を「12日のはず」だという。
ところが、原子力安全委員会事務局は「SPEEDIの運用を(原子力安全)委員会で行うようになったのは3月17日からのこと。文部科学省は嘘をついています。文科省には困っています」。
文部科学省の無責任体質が露呈した形となった。
ちなみに、同省防災環境対策室に対し、再度取材内容への確認を求めたところ、「(質問の趣旨は理解したが)正直、ここ(防災環境対策室)では分からないというのが実際のところ。文部科学省のほかの部署でも答えられないと思う」という回答だった。
政府発表の内容に疑問を感じる国民は少なくないが、真相を隠したままでは復興は前には進まない。
SPEEDIなどに関する巨額業務委託の問題を、明日から報じていく。