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文科省「SPEEDI」巨額業務委託
「税金のムダ遣い」の証明

2011年4月28日 08:00

 「無用の長物」という言葉がある。
 身近な国語辞典には"あっても役に立たないもの"と解説されているが、この国の「仕組み」や「仕事」のなかには、この言葉にあてはまるものが多すぎる。
 HUNTERが特に注目し、追いつづけていくテーマのひとつは、国や地方自治体の税金ムダ遣いの実態である。
 とりわけ、役所の天下り法人への「業務委託」には問題が多く、即刻廃止すべき事業が少なくない。
 東日本大震災の発生以来、注目されている「無用の長物」が、放射能拡散予想データシステム「SPEEDI」である。


目的果たさぬ「SPEEDI」
 SPEEDI(スピーディ:緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)は、原子力発電所の事故による放射能放出が起きた場合に、その拡散状況を放出源情報、気象条件、地形データ等を基に予測するシステムで、文部科学省が所管している。
 昭和61年から運用されている同システムには、120億円以上の税金がつぎ込まれてきたが、ばく大な予算が認められた理由は、その目的が放射能の危険から「住民避難が迅速かつ的確に行われるようにする」ため、だったからに他ならない。

 しかし、SPEEDIシステムで得られたデータは、震災から12日後の3月23日に初めて公表、4月11日に2回目の公表が行なわれたに過ぎない。しかも公表データは一部のものに限られていた。
 同システムによるデータ公表の遅れについて批判を受けた政府は、今月25日以降、毎日データを公表するとして方針転換したが、記者会見に臨んだ細野豪志首相補佐官はSPEEDIシステムについて「予測に役に立たなかったことは、申し訳ない」と謝罪している。
 つまり政府は、SPEEDIが「住民避難が迅速かつ的確に行われるようにする」という本来の目的を果せなかったことを認めているのだ。

「SPEEDI」業務委託に8億円
 そのSPEEDIへの過大な税金投入の実態を語るのが、文部科学省が「財団法人原子力安全技術センター」に発注している「業務委託」である。

 HUNTERは今年4月、文部科学省が天下り法人に対して発注した業務委託(500万円以上)の平成19年度、20年度、21年度分のすべてについて、入札結果報告書、仕様書などを同省への情報公開請求によって入手したが、そのなかにSPEEDIに関するもの数件が含まれていた。
 
 直近では、平成22年1月29日に「入札」が行なわれた"緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム調査"という業務委託がある。緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステムは、すなわちSPEEDIシステムのことである。
この業務委託の契約金額は778,014,298円。SPEEDIがらみで約8億近い税金が投じられたということになる。

「天下り法人」の1者応札
 入札状況は、問題があり過ぎるとして批判を受けてきた、いわゆる「1者応札」。落札したのは中央官庁の天下り先、「財団法人 原子力安全技術センター」である。

 同法人は、昭和55年に放射線障害防止に関する調査研究などを目的として「財団法人放射線安全技術センター」として設立され、昭和61年に事業の範囲を放射線障害防止から原子力安全全般に拡大。これにともない、現在の「財団法人 原子力安全技術センター」に改称し現在に至っている。

 同法人の役員としては、会長(非常勤)を元科学技術事務次官が務めているほか、常勤理事に1名(元・文部科学省 科学技術・学術政策局 原子力安全課放射線規制室長)、非常勤理事に1名(元・経済産業省 東北経済産業局長)、常勤監事に1名(元・科学技術庁 長官官房付)の「天下り」が名を連ねている。

 業務委託期間は平成22年4月1日から平成23年3月31日までとされており、東日本大震災が発生した3月11日は、同業務の実施期間中だったことになる。
 
 約8億円の仕事が果たしてどのようなものか、業務委託の「仕様書」を確認してみた。以下、仕様書の記述をたどりながら税金のムダ遣いを実証する。

書類2 書類3 書類4
「防護対策の実施に資する」への疑問  仕様書の1ページ目には、"業務委託の目的"が記されているが、そこには放射能放出の事態が発生した時《迅速に影響を予測》《迅速かつ的確な防護対策の実施に資する》という文言が並ぶ。いまとなっては空々しいというしかない。  結果的に見れば、迅速かつ的確な防護対策の実施に、《資する》ことはなかったからだ。

文部科学省の無責任体質
 注目したのは、2ページ目の下段(5)「その他」に記された《文部科学省の指示によりSPEEDIシステムを緊急時モードに切り替え》という一文だ。
 SPEEDIシステムをめぐる混乱ぶりは、政府の対応からも明らかとなっているのだが、いつの時点で「緊急時モード」に切り替えが行なわれたのか、確認のため文部科学省に確認取材した。
 
 SPEEDIを所管する防災環境対策室は「SPEEDI」については、同省内の『原子力災害対策支援本部』か『原子力安全委員会事務局』に聞いてもらうしかない、として説明責任を放棄。 

 しかし、原子力災害対策支援本部は、「SPEEDIに関しては、『原子力安全委員会』が運用することになったので、そちらに聞いて下さい」と"たらい回し"。
 ただし、文部科学省側は一致して、原子力安全委員会にSPEEDIの運用が委ねられた時期を「12日のはず」だという。
 
 ところが、原子力安全委員会事務局は「SPEEDIの運用を(原子力安全)委員会で行うようになったのは3月17日からのこと。文部科学省は嘘をついている」と厳しく批判。文部科学省の無責任体質が明らかとなってしまった。

 やむなく、同省防災環境対策室に、情報公開請求で開示された公文書への説明を求めるという形で「緊急時モード」への切り替え時期について再確認したところ、「(質問の趣旨は理解したが)正直、ここ(防災環境対策室)では分からないというのが実際のところ。文部科学省のほかの部署でも答えられないと思う。うち(文科省)には、緊急時モードへの切り替え指示についての記録もないのではないか」と回答した。
  
 翌日、業務を受託している「財団法人 原子力安全技術センター」に聞いてみたが、
こちらは明快に「緊急時モードへの切り替え指示は、3月11日の16時49分に受けた」という。

 基本的なことに答えられず、責任転嫁に走る文部科学省には、もはや当事者能力を期待する方が無理なのだろう。 
 こうした姿勢の役所に8億もの業務委託費を委ねることは間違いだったということだ。もちろん、「SPEEDI」という国民の安全に直結するシステムを所管する資格もない。

巨額業務委託への疑問
 ちなみに、平成21年度の「SPEEDI」に関する業務委託"緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム調査"は、496,940,616円で契約されていた。

 平成21年と22年の業務委託の「目的」は一言一句同じだが、業務内容の記述を変えている。ただし、システムの運用を行なう以上、当然クリアされなければならないものばかりとしか思えない。
 仕様書と契約金額を見たある専門家は、「こんなに(金額が)かかる内容ではない。民間の大学など学術機関なら数千万円でやれるのではないか」と疑問を呈す。

「総務省勧告」に見るSPEEDIシステムの実態
 じつは平成21年、文部科学省は総務省から、原子力の防災業務に関する行政評価・監視結果に基づく勧告(第二次)を受けている。
 
 その勧告のなかには次のように記されていた。少し長くなるが紹介したい。(以下、総務省の勧告文から引用するが、分かりやすいように一部を省略。文中の強調部分も編集部による)

《文部科学省は、住民避難を迅速かつ的確に実施するなどのため、オフサイトセンター、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDIシステム)を整備している。

 SPEEDIシステムは、平常時に原子力事業所周辺の気象データや環境放射線観測データの収集を行うとともに、緊急時には、原子力事業所から放出された放射性物質の大気中濃度や被ばく線量等を、放出源情報、気象条件及び地形データを基に予測し、その影響範囲を地図上に表示することを目的としたシステムである。この機能を用いて、原子力災害現地対策本部に組織された放射線班において、住民避難対象地域の検討に用いる防護対策区域案が作成される》。

 ここまでは、SPEEDIシステムの説明なのだが、この後、「現状と問題点等」が記されている。

《今回、全国の16 原子力立地道府県のうち12 原子力立地道府県におけるSPEEDIシステムへの入力情報の更新(委託事業により年1回の更新)状況について調査した結果、平成17年度から19年度の3年間では、毎年更新を行っているのは3道府県、2回更新を行っているのは3道府県、1回更新を行っているのは2道府県、3年間1回も更新を行っていないのは4道府県であった。
 
 SPEEDIシステムに入力されている社会環境情報の更新頻度は、上述のとおりであり、この更新情報の入力は、道府県が作成する地域防災計画の改正に伴い実施され、当該資料編の情報をSPEEDIシステムに入力するという手順で行われている。このため、道府県の判断で当該資料編が改正されなかった場合、住民避難対応として必要な社会環境情報は更新されないこととなる

 このような状況では、原子力災害が発生した場合、住民安全班でSPEEDIシステム機能を活用した適切な住民避難の検討が行えず、緊急事態対応方針決定会議において実効性ある住民避難対応の判断ができないおそれがある

 また、現在入力されている社会環境情報には、要援護者の情報は含まれていないが、一般災害においても要援護者の避難支援が課題とされている。さらに、11 原子力立地道府県から、SPEEDIシステムにあらかじめ要援護者の情報が入力され、かつ、それを含む社会環境情報の更新頻度が高まるのであれば、原子力災害時に住民への避難対応を求める際、①現地で住民避難の支援を行う体制の規模を適切に決めることや、②自宅や勤務先等から一時集合場所に集合する住民を、避難所まで輸送するための適切な規模の公共輸送車両を向かわせることが可能となるなど有効であるとの意見を得ている。以上のことから、SPEEDIシステムに要援護者の情報を入力することにより、より一層、住民避難対応に資することとなると考えられる》

 何のことはない。100数十億円もの予算をかけて作り上げてきたシステムだが、この程度の状態だったということだ。

 勧告は、「所見」としてこのくだりを次のように結んでいる。

《文部科学省は、原子力災害時の周辺住民等の安全・安心を確保する観点から、SPEEDIシステムの実効性を確保することにより、住民避難が迅速かつ的確に行われるよう以下の措置を講ずる必要がある。
SPEEDIシステムの入力情報の更新頻度を高めるなど同システムの運用を見直すこと。
② SPEEDIシステムに入力されている社会環境情報の中に、要援護者情報を整備することについて検討すること。

 これまでの政府の対応を見る限り、勧告はもちろん、SPEEDIシステムそのものが「無用の長物」だったことは言うまでもない・・・。

さらに「税金のムダ遣い」
 文部科学省は、本稿で取り上げた"緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム調査"のほかにも"緊急時モニタリング調査"という業務委託を行なっている。
 次回は、「滑稽」というしかないその内容に踏み込んでみたい。 




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