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不透明な自民支部「分会」の支出
~福岡7区に見る金権政治の現実(7)~

2011年4月25日 10:20

 古賀誠・元自民党幹事長が代表を務める「自由民主党福岡県第七選挙区支部」(以下、第七選挙区支部)は、平成21年夏の総選挙に向けて、前年の20年秋から臨戦態勢を敷いた。
 安部晋三、福田康夫、麻生太郎と続いたふがいない自民党政権への怨嗟の声が「政権交代」に現実味を持たせていたことに加え、福岡7区の民主党公認候補として、古賀氏の元秘書で八女市長だった野田国義氏という手ごわい刺客が登場したからだ。
 報じてきたように、平成20年と同21年における第七選挙区支部の政治資金収支報告書を見ると、約7,000万円近い「選挙資金」が選挙区内の各自民党支部に配分されていた。
 しかし、現行の政治資金規正法の規定によって、その使途の約7割は明らかにされず、政治資金の透明化には程遠い状態だ。

 古賀元幹事長側の政治資金の流れを検証する過程で、同選挙区内の「自由民主党八女郡支部」における杜撰な政治資金処理の実態をつかみ、報じてきた。同支部の収支報告書そのものが政治資金規正法に抵触しているほか、帳簿の記述が正確なら公職選挙法違反の疑いさえある。
 
 ここで、同支部の帳簿によって明らかとなった、政治資金処理のもうひとつの問題点について整理しておきたい。

「選挙資金」ばら撒きの実態
 野田氏が小沢一郎民主党代表(当時)と出馬会見に臨んだ9月25日以降、選挙区内の六つの自民党支部に対し、矢継ぎ早に「交付金」という名目で合計2,300万円もの「選挙資金」が配られていた。
10月7日 「自由民主党柳川支部」に200万円
10月7日 「自由民主党八女郡支部」に500万円
10月7日 「自由民主党筑後支部」に300万円
10月8日 「自由民主党八女市支部」に500万円
10月9日 「自由民主党山門支部」に500万円
10月20日 「自由民主党大牟田支部」に300万円
(以下、支部名から『自由民主党』を省略)
 
 このうち、10月7日に「八女郡支部」が受け取った500万円の約8割の額が、総選挙対策のため、さらに地域ごとにばら撒かれる。
 カネの流れを帳簿から追うと、まず同月24日に、各分会に次のとおり計195万円。

画像 082.jpgのサムネール画像
黒木 50万円
立花 40万円
広川 50万円
矢部 20万円
星野 20万円
上陽 15万円


同様に12月2日には、計205万5,000円。

画像 082.jpgのサムネール画像
黒木 55万6,000円
立花 39万2,000円
広川 54万8,000円
矢部 18万4,000円   
星野 19万2,000円
上陽 18万3,000円


 八女郡支部から各分会への支出合計は400万5,000円となる。帳簿には「交付金(選挙対策)」と明記してある。
 
 さらに平成21年に入ってからは、古賀氏側の「第七選挙区支部」から六つの自民支部に対して、追加の「選挙資金」計4,300万円が配られた。
柳川支部  (2月300万円、7月500万円で合計800万円)
八女郡支部 (5月600万円)
八女市支部 (2月300万円、7月500万円で合計800万円)
筑後支部  (2月300万円、7月500万円で合計800万円)
山門支部  (8月1,000万円)
大牟田支部 (6月300万円)

 そして八女郡支部は、受け取った600万円のうち大半の550万円を5月25日に次のとおり再配分する(記載順は帳簿の記述に従う)。
画像 082.jpgのサムネール画像
黒木 100万円
上陽 50万円
立花 100万円
広川 100万円 
矢部 50万円
星野 50万円
青年部 50万円
女性部 50万円


 10ヶ月間で3回にも及ぶ「選挙資金」配布によって、八女郡支部内の各地域の分会などには次の金額が流れ込んだことになる。
黒木205万6,000円、上陽83万3,000円、立花179万2,000円、広川204万8,000円、
矢部88万4,000円、星野89万2,000円、青年部50万円、女性部50万円。
 潤沢な資金に支えられた選挙だったことが分かる。

不透明な「分会」へのカネ
 最大の問題点は、投げ渡しの状態で分会に流れ込んだカネの使途が、まったく分らないことだ。

 八女郡支部の帳簿には、各分会への個別の支出額が記載されているだけで、分会ごとの収支の内訳はどこにもない。
 
 同支部の政治資金収支報告書や帳簿には、分会単位で行なわれた飲食をともなう会合等についての支出の記載がある。だが、これらの支出は、各分会へ配られた「選挙費用」から出されたものか、八女郡支部本体が保有していた政治資金によるものかが分からない状態だ。
 同支部の帳簿の記載方法では、分会への支出の一部がダブルカウントされ、支出が収入を上回ってしまうことになりかねない。
 同支部の政治資金収支報告書と帳簿の記載とが合致しないのは、こうした点に起因していると見られる。

 「分会」は独立した政治団体ではなく、八女郡支部内の任意の集まりに過ぎない。従って、分会への支出は、あくまでも支部内でのカネの動きであって、分会が費消したすべての支出内容が帳簿に記載されていなければならない。
 しかし、支部の帳簿には、分会が受け取った「選挙資金」をどのように費消したかの記述が抜け落ちているのである。

 政治資金規正法の趣旨を理解していないか、あるいは故意に隠したのかは分らないが、帳簿の記載に不備があるのは事実だ。
 政治資金規正法は、その第九条(会計帳簿の備付け及び記載) に、会計帳簿の備付けや、「すべての収入」、「すべての支出並びにその支出の目的、金額及び年月日」 の記載を義務付けている。
 しかし、八女郡支部の帳簿は、同法施行規則が定めた会計帳簿の様式ではないうえ、「すべての支出」について記載しているものではない。
 
 先月8日に支部関係者に取材した折も、当事者である支部の担当者自体が収支報告書と帳簿の記載金額が合わないことに戸惑っていたほど。HUNTERの指摘を受けて帳簿を「つくり変え」(支部幹部)なければならないという、杜撰な状況を放置していたことの責任は重い。

公選法違反の疑い
 福岡7区・古賀誠陣営をめぐっては、平成21年の総選挙直後、古賀氏の支援組織である「誠会」の幹事長が、同年6月に複数の有権者に対し、古賀氏への投票を依頼するため酒や料理など数万円相当の供応接待をした疑いで福岡県警に逮捕された。舞台となったのは八女郡内である。
 
 22日に報じたとおり、八女郡支部の帳簿に記された支出のなかには「戸別訪問のためガソリン代」をはじめ「郡内有志宅訪問土産代」、「選対活動の折 飲食代」、「選挙活動に付き 夕食代」といった明らかに選挙運動のためと思われる支出が少なくない。

 帳簿の記述が正しいとすれば、古賀陣営の政治資金が、飲食や物品供与に費消されていたことは明白であり、それらが選挙違反につながるものだった可能性は否定できない。

 八女郡支部の「帳簿」は、いわば内部資料だ。それだけに選挙の直前、あるいは期間中の、「戸別訪問」、「有志宅訪問土産代」、「選対活動の折 飲食代」との記述が堂々と記されていたのだろう。
 ある意味で、正直な"証拠"ではないか・・・。

つづく
  *本シリーズ第2弾では、古賀誠・元自民党幹事長側の政治資金集めの実態について報じていく。掲載は来週を予定している。



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