12日、政府は東京電力福島第一原子力発電所1~3号機の事故について、国際的な評価尺度(INES評価)による暫定評価を、先月18日に発表した「レベル5」から「レベル7」に引き上げた。唐突な発表に、国内はもとより海外にも動揺が広がった。肝心の政府と東京電力は、ともに腰の据わらぬまま迷走気味で、INES評価レベルが上がったことに反比例して、評価を下げ続けている。
政府発表への疑問
INES評価は、原発外部への影響、内部の状況など3つの評価基準によって決められ、安全上重要とはみなされない「ゼロ」(尺度以下)から「レベル7」までの8段階に区分されている。レベル1~3を"異常な事象"、同4~7を"事故"と表現する。
レベル5~7は、主に放射性物質の外部への放出量をヨウ素131に換算した値によって次のように規定される。(注:1テラベクレルは1兆ベクレル)
・「レベル5」→ヨウ素131等価で数百から数千テラベクレル相当の放射性物質の外部放出。
・「レベル6」→ヨウ素131等価で数千から数万テラベクレル相当の放射性物質の外部放出。
・「レベル7」→ヨウ素131等価で数万テラベクレル相当以上の放射性物質の外部放出。
今回の暫定評価「レベル7」は、福島第一原発1~3号機の事故によって、数万テラベクレル以上の放射性物質が放出されていたことを受けてのものだが、政府の対応には疑問が残る。
政府のレベル
12日に政府が公表した福島第一原発における放射性物質の想定放出量は、経済産業省原子力安全・保安院の概算によるものと原子力安全委員会発表値によるものでかなり違っている。保安院の想定放出量が37 万テラベクレルであるのに対し、安全委員会のそれは63 万テラベクレル。保安院側が算出した放出放射性物質の想定量は、ヨウ素もセシウムも少ない数値になっている。
同じ政府内の組織でありながら、それぞれが情報を共有して事態に対処しているとは思えず、放射性物質放出量の想定数字の違いに疑問を感じる国民は少なくないだろう。
「レベル6」を飛び越え、いきなりチェルノブイリ級の「レベル7」に引き上げたことについても、納得できる説明はなされていない。「レベル6」の段階はなかったというのだろうか。これでは、これまでの政府や東電の発表内容そのものが疑われてしまう。
さらに、事を軽く見せようとする政府の姿勢は変わっておらず、チェルノブイリでの放出量が520 万テラベクレルで、福島第一はその「10分の1程度」とする政府の「ただし書き」は甘いと言わざるを得ない。
「数万」どころか「数十万」(テラベクレル)単位の放射性物質が放出されたとしながら、今後、そのことによって国民にどのような影響が及ぶのかについては、十分な説明がなされない。
チェルノブイリ原発の事故は、直後の被害もさることながら、数年、数十年経ってからの健康被害、特に子どもの甲状腺癌発生率の高さが指摘されているのだ。福島第一原発の事故の影響がどのように及んでいくのか、想定されるあらゆる事態を公表すべきだろう。
意味のない現地視察を繰り返す菅首相と、変化する事態に即応できず後手にまわる政府の対応を見ていると、民主党が言ってきた「政治主導」がいかにレベルの低いものか分かる。
東京電力のレベル
こうした事態を受けての東京電力側の姿勢にもあ然とさせられる。
「レベル7」が公表された12日、会見した同社の副社長は「チェルノブイリとは違う」と強弁するばかり。福島第一原発の事故における放射性物質の放出量や事故の状況が違うことを強調するが、大量の放射性物質をばら撒いていることにおいて、両事故は同じ性質のものなのだ。そうした意味では「チェルノブイリと同じ」ではないのか。
清水正孝社長にいたっては、お詫びのコメントを出しただけで、会見にも姿を見せようとしない。そのコメントにしても、先月18日に「レベル5」の暫定評価が下された時と変わらない内容で、国民をばかにしているとしか思えない。批判を受け、13日午後になってやっと会見に臨んだ。
福島第一の事故が起きて以来、こうした無責任な対応だけは一貫している。これが一流企業と言われてきた東京電力の実相だとすれば情けない限りだ。
電力会社のレベル
現在、原発を有している電力会社は、沖縄電力をのぞく、北海道、東北、東京、北陸、中部、関西、中国、四国、九州の9社だ。言うまでもなく、電力会社は国とともに原発の「安全神話」を垂れ流してきた張本人である。ばく大な広報予算を使ってメディアを黙らせてきたうえ、米・スリーマイル島やチェルノブイリで原発事故が起きるたび、「日本ではありえない」と、傲慢な態度を取り続けてきた。それが間違いだったことは明白だ。
しかし、、今回の福島第一原発の事故を目の当たりにしながらも、電力会社の姿勢は変わっていない。
INES評価「レベル7」への引き上げが政府から発表された12日、九州電力は、政府の指示により玄海原発(佐賀県玄海町)と川内原発(鹿児島県薩摩川内市)で、緊急安全対策の一環として津波対応の訓練を行なった。しかし、訓練の公開は報道などに限定され、一般の住民へは非公開。九電に厳しい批判が出ているのは言うまでもない。情報開示を拒む電力会社の体質は、「信頼」の2文字を遠ざけるばかりだ。
また、10日に投開票が行なわれた福岡県知事選挙では、その九電の会長が、当選した候補者の選対本部長(後援会長も兼任)としてバンザイ三唱。原発の事業主体であることや国の現在の状況をかえりみない行為には憤りさえおぼえる。
電力トップは、「傲慢」が事故対応を誤らせることを改めて認識すべきであろう。
政府と電力会社のレベルの低さは、国の行く末に不安しかもたらさない。