福岡県のOBが天下っている外郭団体「財団法人福岡県地域福祉財団」に、県が業務委託した婚活関連事業で、予定金額が事前に漏れていた疑いが浮上した。
事実なら地方公務員法(守秘義務)違反にあたるが、天下り法人への便宜供与は担当課だけの問題ではない。事業の予算額を事前に知り得るのは担当課だけではないからだ。
県側の説明は揺れており、7日時点でも婚活関連事業の予算額と契約金額の差が、毎年数十円単位だったことへの合理的な根拠は示されていない。
積算根拠非開示
この事業に関しては、情報公開請求に対する開示決定の段階から問題があった。
県・福祉労働部子育て支援課は、事業にかかる県側の積算見積もり金額などを黒塗り、つまり非開示としていたのである。報じてきた「予定価格調書」の数字も同様だ。
起案文書の予算額と契約金額が数十円しか違わないのに、積算額を隠す必要はないのではないかと追求したが、同課は「事業の委託先に積算額が分かると、公正な事務が行なわれなくなるから」と説明していた(文書参照)。
しかし、業務委託契約にあたり、見積書を提出した財団側に、その積算根拠の提出を義務付けておらず、県側説明はあまり意味を待たない。県側の誰かが、「予定価格調書」の予定金額そのものを財団側に教えていたとするならなおさらだ。積算根拠などを隠す県側の姿勢は、滑稽というほかない。疑惑が生じた以上、県は非開示部分についての情報をオープンにし、真相を明らかにすべきだろう。
予算の作成には、婚活事業の担当課である福祉労働部子育て支援課だけではなく、予算編成そのものを総括する総務部内の課も関係しており、予定価格の漏洩疑惑が複数の課に及ぶことになる。そうなれば、県ぐるみで天下り法人に便宜を図っていた可能性も生じる。
財団側担当者「私の口からは言えません」
今回の事態を受けた県側の釈明は不十分なままだが、事業を受託した「財団法人福岡県地域福祉財団」側も、経緯についての説明ができない。
同財団の担当者に、業務委託金額を事前に教えられていたのではないかと聞いたが、当初はこれを否定。しかし、県への情報公開請求で入手した一連の文書を提示し、再確認したところ、「私の口からは言えません」という言葉が飛び出した。
その後、再び「いや、聞いていません」と否定に転じたが、揺れる心のうちをさらしたのは事実だ。
財団側の担当者も、県側が当初説明したように、事前に県のホームページで予算額を見たと話すが、昨日報じたとおり「予定価格調書」の金額を知らない限り、予定価格と見積り金額の誤差を数十円単位に設定することは不可能なのだ。「私の口からは言えません」というのが本音ではないのだろうか。
婚活事業の実態
ここで、県による婚活事業の実態について確認しておきたい。
県への情報公開請求で入手した問題の婚活関連業務委託に関する文書によれば、年度ごとの事業名と契約金額は次のようになっている。
平成18年度 「次世代のための結婚応援事業」10,475,989円
「『子育て応援の店』推進事業」 7,971,000円
平成19年度 「次世代のための結婚応援事業」2,149,990円→変更契約で12,765,990円に
(注:同年度は暫定予算でスタートしたため、本予算成立後の7月に変更契約。また、「『子育て応援の店』推進事業」については、この年、補助金を使っての事業となっているため請求文書に含まれていない)
平成20年度 「子育て応援社会づくり事業」15,338,902円→変更契約で19,950,903円に
(注:この年度は婚活と子育て応援の各事業が一本化されたが、道路特定財源の暫定税率期限切れ等の影響で事業費の一部を執行停止。解除後に変更契約)
平成21年度 「『子育て応援の店』推進事業」5,503,660円
(注:この年度は、婚活事業が補助金を使っての事業となっているため請求文書に含まれていない)
平成22年度 「子育て応援社会づくり事業」24,468,000円
(注:この年度も婚活と子育て応援の各事業を一本化)
業務委託にあたっての起案文書や仕様書などによれば、婚活事業の主な内容は次のようなものだ。
・婚活希望者のメールマガジン会員への募集・登録。
・メールマガジン会員への婚活イベント紹介配信。
・出会い応援団体の募集・登録。
・出会い応援団体への助言や企画の提示およびサポート。
・出会い応援事業を紹介するホームページの運営・管理。
詳細は「財団法人福岡県地域福祉財団」のホームページから入れる「新たな出会い応援事業」のサイト(http://www.fp-kikin.or.jp/deai2/index.html)を見ていただきたいが、財団側は1人の担当者が本業務をこなしているのだという。
同内容の業務を民間企業が行なった場合、これほどの予算を必要とするだろうか。疑問である。
いずれにしろ、婚活事業には、平成17年度から22年度までの6年間で、少なくとも6,000万円前後の税金を投入してきたと見られる。事業実施によって結婚に結びついたのは127組だという。費用対効果について検証する必要はあるだろうが、問われるべきは県の天下り法人への業務委託のあり方だ。
天下り法人への業務委託の見直しを
1年間の県による天下り法人への業務委託は膨大な件数にのぼるうえ、そのほとんどが予算額の満額消費を行なっている。事業ごとの必要性を見直すと同時に、発注形態も変えるべきではないか。
県OBが天下りしている外郭団体への業務委託は、今回のケースと同じように大半が随意契約。競わせて予算を削減する努力は皆無なのだ。
起案文書や県側の説明によれば、随意契約を行っているのは「個人情報を扱うから」、「委託先を変更すれば混乱するから」といった理由。しかし、個人情報の管理については民間企業も公的法人も同じように厳格さが要求される時代であり、随意契約の理由にはならない。委託先変更もたいした問題とは思えず、天下り法人への税金投入の言い訳ととられてもおかしくない。
さらに、今回の契約にあたっては見積書の提出のみで、詳しい積算文書の提出を義務付けていない。まさに「親方日の丸」状態で、とても正常な行政運営とは言えない。
県の財務規則そのものを見直すべきだろう。
4期16年におよぶ麻生県政は、長期政権による綱紀の緩みや県政の歪みを招いた。安易に業務委託に走る行政のあり方は、税金のムダ遣いをただす上で避けては通れない改革対象である。
まずは、天下り法人と県との関係を整理することだ。