九州大学の有川総長が、高島宗一郎福岡市長にこども病院の九大病院敷地内への移転可能性を否定した回答文書の内容に、疑問が生じた。
回答根拠は『フレームワークプラン』
HUNTERは27日、九州大学に対し、有川総長が市側に出した回答文書の「本学では、病院敷地全体にわたる利用計画を既に取りまとめており...(以下省略)...」との記述の根拠となった利用計画図などの文書について、情報公開請求を申し入れた。
文書の特定後に請求を受け付けるとしていた九大側が、28日までに総長回答の根拠として示してきたのは、2010年2月に策定された『九州大学病院地区フレームワークプラン』。同プランは、既に同大学ホームページ上に公開しており、情報公開請求の必要はないという。
九大側に再確認したところ、総長の回答文書に記された"病院敷地全体にわたる利用計画"とは、フレームワークプラン以外にはないという。
プランに"役員会"の議決なし
同プラン策定の担当である九大施設部の話によると、同プランは昨年2月に九大の総長、理事らも参加した"部局長会議"で報告、承認され、「修正等を加味しながら」(施設部)7月に学内広報に掲載されたとしている。ただし、"役員会"での議決を経たものではないことを認めている。
国立大学法人である九大の場合、最終的な意思決定機関は総長、理事による"役員会"で、部局長会議は、その下の"学内委員会"のうちのひとつとの位置付けだ。九大側は、部局長会議に総長や理事が参加しており、問題はないとしているが、絶対的な計画ではないと見なされてもおかしくない。
フレームワークプラン自体は50年後を見据えたもので、10~15年スパンで策定されるマスタープランの拠り所として、《土地利用と動線等を主とするキャンパスの骨格を示すもの》と記されている。
さらに、プランの運用にあたっては《重要度に応じて九州大学役員会、将来計画委員会、病院地区協議会等で検討され、実施に移されることになる》としており、プラン自体が最終決定ではないことを示している。
こども病院が九大病院敷地内に移転する場合、関係者の間で検討されてきたのは病院正門から入って左側のゾーンで、プランではその大半が駐車場用地となっている。
総長回答への疑問
「九州大学病院地区フレームワークプラン」策定についての流れや内容について見てくると、有川総長が市長への回答文で「こども病院移転のために必要な敷地を提供することは困難」と断定したことには、大いに疑問を感じる。その理由は2つある。
まず1つ目は、回答の拠り所とされる「九州大学病院地区フレームワークプラン」が、九大の"役員会"という最終的な意思決定機関での議決を経ていないことだ。これは、同プランが絶対的な計画ではないことを示しており、検討の余地について確認した市長の照会文書に対し、同プランを根拠に「敷地を提供する事は困難」と断じるのは早急すぎる結論ではないだろうか。
問題は、2つ目の理由となる九大側のこども病院受け入れに対する姿勢だ。フレームワークプランは、福岡市の協力なくしては実現できないものであり、そのためプラン検討には福岡市都市整備局から2名が参加したことが記されている(同プラン『はじめに』より)。
同プランの動線計画では、《都市高速、3号線からのアクセスを確保する》としており、九大がプランで描いた未来像を実現するためには、福岡市の協力が不可欠ということだ。
このことは、同プランの目的と役割のページにも《フレームワークプランは、病院地区の位置する福岡市のマスタープランとの整合を図り、都市と大学双方の持続的な発展を可能にする》《行政、地域との連携によって実現》などと記されている。
市との連携の必要性を認識しているのであれば、市政の重要課題となっているこども病院の移転について、学内の役員会か関係委員会で検討してもよかったのではないか。
この点は、九大側に対し、実に幼稚な表現で照会した市側にも大きな責任があり、双方の手法が拙速であったともいえる。しかし、これでは市長と総長のやりとり自体が、「九大病院敷地内移転」について否定するための仕掛けだったと思われてもおかしくない。
可能性を否定するためだけのやり取りは、茶番である。
調査委員会の役割は?
「こども病院移転計画調査委員会」(委員長・北川正恭早稲田大大学院教授)は、5回目の会議(27日)において、九大総長からの回答文書を理由に九大病院敷地内を移転候補地から外してしまったが、これは間違いだろう。同委員会の役割は、吉田前市長時代の人工島事業やこども病院人工島移転「検証・検討」のプロセスを再検証することで、同病院の現地建替え工事費が1.5倍に水増しされたことを「不適切」と判断した時点で役割が終わっている。「こども病院移転計画調査委員会」は、どこに移転すべきかを検討する機関ではなかったはずだ。プロセスは不適切だったと市側も認めており、あとは、結果を受けた市長が候補地について検討し、判断を下すべきだろう。
お叱りを覚悟で最後に付け加えておきたいが、出された文書が九大の総長からのものだからといって、裏づけも取らずに議論を進めるのは、あまりに稚拙だ。可能性を問うものであるならば、一つひとつを慎重に検討しなければ、同じ過ちが繰り返されることになる。