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五輪疑惑再燃で問われる「説明責任」の意味

2019年1月16日 09:05

joc.png 第二次安倍政権が発足して7年、この国の「説明責任」という言葉が、ずいぶん軽くなった。
 15日、2020年東京五輪・パラリンピックの招致に絡み、贈賄の疑いでフランス当局から捜査を受けていたことが分かった日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長が東京都内で記者会見。疑惑を真っ向から否定しながら記者の質問には一切答えず、予定の30分を7分に縮めて一方的に会見を打ち切った。
 JOC側は「説明責任」を果たすため会見を開いたというが、これでは疑惑を深めるために記者団を集めたようなもの。思えば、この国の権力者たちは「説明責任」という言葉の意味を理解していない。

■竹田恒和氏への疑問
 質問に答えない記者会見は、ただの発表会。主張をたれ流すだけなら、ホームページに文書を張り出せば済む。15日に開かれた竹田JOC会長の会見は、文書を読み上げ即座に退席というふざけたもので、集まった記者はもちろん、映像を見た国民も呆れる結果となった。「おかしい」「あやしい」、誰もがそう感じているはずだ。

 そもそも竹田氏の主張自体が、責任回避を狙ったとしか思えない文言で構成されており、信頼性に欠ける。会見冒頭、すでに正体を晒している――「本日は、2014年までにすでに解散してしまった東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会の元理事長として会見をさせていただきます」――意訳すれば、“もう無くなった組織がやったことで、説明責任はないんだよ”ということだろう。

 会見で読み上げた文書のなかで竹田氏は、招致委員会とシンガポールのコンサルティング会社「ブラック・タイディングズ」との間で取り交わされた2件のコンサル業務契約に関して、「通常の承認手続き」「最後に回覧され、私が押印」「私の前にはすでに数名が押印」と責任回避の文言を並べたてた。私は最後にハンコを押しただけだと言いたいらしいが、その一方で「ブラック・タイディングズ社との契約に関し、いかなる意志決定プロセスにも関与していません」とも述べている。ハンコを押すという行為は意思決定のプロセスに関与した証であり、明らかな矛盾だが、竹田氏はそのことに気付いていない。

 さらに竹田氏は、“国会の再追及がない”、“JOCが雇った弁護士や公認会計士などによる調査チームが問題なしの結論を出した”、“日本の検察が動いていない”といった事実を列挙して潔白を訴えたが、これらはあくまでも国内での話。竹田氏を捜査対象としているのはフランスの捜査当局であり、日本の警察・検察ではない。疑惑発覚からかなりの時間が経ったということは、フランス側が慎重に捜査を重ねた証ともいえ、むしろ容疑が固まったという見立ても成り立つ。

 竹田氏の息子で本業がタレントなのか作家なのか分からない竹田恒泰氏は、今回の捜査が、日産のカルロスゴーン元会長を逮捕・起訴した日本側へのフランスによる報復だとして陰謀論を展開しているが、竹田JOC会長への捜査はゴーン逮捕以前から続いており、ばかげた妄想でしかない。

 皇室関係者である竹田恒和という人物には、うさん臭さがつきまとう。福岡市は2005年、「2016年夏季オリンピック」の福岡市開催を目指すとして、招致レースへの参加を表明。東京都と国内の立候補都市を争った。06年のJOC総会で東京都に敗れたのだが、記者はその当時、福岡市の幹部から「竹田に騙された。うち(福岡市)はかませ犬だった」という舞台裏の話を聞きだしたことがある。

 福岡市のトップを、言葉巧みに国内の招致レースに誘い込んだのは竹田JOC会長だったといい、甘い言葉に踊らされた市長は、本気で福岡市への招致が可能になると信じ込んでいたのだという。15日の会見を見ていて、「竹田は詐欺師」と吐き捨てた市幹部の顔が蘇った。

■果たされない「説明責任」
 それにしても、「説明責任」という言葉が軽くなり過ぎた。森友学園問題で国会に呼ばれ、「刑事訴追を受けるおそれがある」との理由で答弁拒否を繰り返した佐川宣寿元財務省理財局長。加計学園の獣医学部新設を巡る疑惑で参考人招致され「記憶にない」「覚えていない」を連発した柳瀬唯夫元首相秘書官。「政治とカネ」で疑惑にまみれとなった片山さつき地方創生担当相は、「説明責任を果たして参ります」と明言しながら、何の説明もしていない。

 国のトップである安倍晋三内閣総理大臣は、国民の批判をかわすためだけに「真摯」「丁寧」という言葉を度々使ってきた。特定秘密保護法、集団的自衛権の行使容認、安保法制といった危険な方針を強行するたび「批判を真摯に受け止め、丁寧に説明する」と約束してきたはずだ。だが実際には言葉に見合う説明は行われておらず、安倍の逃げ口上を信用する国民は減る一方だ。

 「説明責任を果たす」とは、己の主張をしたのち、質問にきちんと答えるということだ。記者会見や国会質疑は「説明責任を果たす場」であって、幕引きの道具ではあるまい。政治や行政が信頼を取り戻そうと本気で考えるなら、まず「説明責任」の意味を認識し直すべきだろう。



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