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一人歩きする五輪経費「3兆円」 見直し阻む組織委の鈍感

2016年11月17日 09:00

1-エンブレム.png 2020年東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長が14日、さいたま市内で開かれた自民党埼玉県連の会合で講演し、小池百合子東京都知事の五輪競技会場見直しについて「勉強も研究もしていない」、「今までの約束事をご存じのない方が来てガチャッと壊した」などと口を極めて批判した。
 アスリートファーストを掲げて経費削減論に対抗する構えの森氏だが、小池知事が手を付けたのは、五輪経費のほんの一部。膨れ上がった五輪予算3兆円の内訳については意外と知られておらず、2兆円強と見られている残りの経費見直しについては、これからが正念場だ。

「3兆円」の内訳
 2013年9月、ブエノスアイレスで開かれたIOC総会で、2020年オリンピック・パラリンピックの開催都市が東京に決定した。日本中が歓喜に沸いたあの瞬間から3年。東京五輪にかかる経費は、いつの間にか「3兆円」に膨らんでいたのだという。当初予算約7,000億円の4倍強。このうち、小池知事が本部長を務める都政改革本部の調査チームが見直しを行ったのは、ボート・カヌーやバレーボールの会場費など、ほんの一部に過ぎない。そもそも、一人歩きしている「3兆円」は、どう算定されたものか――。

 都政改革本部オリンピック・パラリンピック調査チームが9月に公表した調査報告書によれば、『ハードな経費のうち見直しの余地があるのは、約5,000億円のうち、都の新規の恒久施設(合計2,241億円)の7つ、及び、組織委員会の仮設施設(合計約2,800億円 )』(同報告書より)。見直し対象として大騒ぎになったのは、7つある都の新規恒久施設の内、ボート・カヌー会場である「海の森」、水泳会場の「アクアティクスセンター」、バレーボールなどの会場となる「有明アリーナ」の3か所だ。金額にして数百億。3兆円のごく一部に過ぎない。一体、3兆円とはどうやって算出された数字なのか?答えは、調査チームが出した調査報告書の中にあった。下が、報告書にある3兆円の内訳である。

1-五輪.png

 調査チームの検討対象となったのは、新国立競技場、選手村、前出7つの都の新規恒久施設、仮設などの4分野。金額にして約7,600億円だ。破線で囲まれた残りの2兆3,000億円は、大会運営費、輸送、セキュリティなどにかかる経費で、費用分担も詳しい金額も決まっていないのだという。そして、3兆円の見積り根拠が下。ロンドン五輪の運営コストである。

1-五輪2.png

 ロンドン五輪の開催経費は総額約2兆2,000億円。都の調査チームは、この数字を参考にして東京五輪の開催経費を予測していた。大会参加数、夏の暑さやエリアの広さ、警備レベルなど、ロンドンとの条件の違いで加算されるのが約5,000億円。ガバナンスの不在、公共調達の慣行となっている過剰性能(オーバースペック)発注、予算管理の甘さなどでさらに5,000億円。合わせて1兆円が余計にかかる計算となっている。一人歩きしている3兆円だが、積み上げられた数字ではなく、あくまでも予測。減らすことは、十分可能なのだ。

組織委―「情報公開って何?」
 3兆円をどこまで抑え込めるのか―東京都はもちろん、国や東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会に求められているのは、公金支出と向き合う“感度”だ。もちろん、なんでもかんでもアスリートファーストで片づけるのは間違い。税金支出が伴う事業である以上、「オリンピックだから」で大盤振る舞いが許されるはずがない。一つひとつの事業について是非を細かく検討し、歪んだ支出はその都度正すべきだろう。そうした意味で、大きな懸念がある。

 都や国の予算消費については、情報公開制度によって一定の検証が可能だ。しかし、組織委は公益財団法人とはいえ民間団体。情報公開請求の対象外なのだ。念のため情報公開について組織委に問い合わせてみたが、「情報公開って何のこと」「何が知りたいのか」と不快そうな声。公的な組織としては、最低レベルであることをうかがわせる対応だった。数千億単位の額を、好きに使わせていい団体ではない。

 ちなみに、都の調査チームは報告書に『現行の各組織の「持ち寄り方式」では費用が際限なく増大する。また随所で調整が必要となり非効率。総額に上限を定め、都庁and/or 国が開催計画、予算、人員を一元管理すべき』と明記。組織委が持つ権限を、事実上制限する内容の提言をしている。



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