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警察をも蝕む忖度政治

2018年4月19日 08:10

0419_police.jpg 今月11日、19歳の警察官が貸与された拳銃で上司を撃ち殺すという前代未聞の事件が起きた。勤務中の現職警官が同僚を殺害するという異常な事件。もちろん、警察史上初めての出来事である。
 一般の人でもまず踏み切ることのない“殺人”を、なぜ市民の安全を守る警察官が犯してしまったのか――。現在の警察組織に潜む問題点を検証した。

◆階級制度が生み出すプレッシャー
 今回の事件の根っこには、警察組織の重要な要素となる階級制度が影響を与えている。階級制度では上からの命令は絶対であり、一般の組織とは違う強い権力関係で組織が成り立っている。いってみれば現代社会の中でそこだけ普通とは違った特別な社会を形成していると考えてもらってよい。だから階級のある組織の中にいる限り、命令に逆らうことなどできはしない。

 自衛官の自殺者は、一般自殺者の1.5倍あるという。プレッシャーのため潰れてしまう人間が多数出てくるということだ。警察官の場合も同じで、真面目な性格の人が多いためか、拳銃を使用して自殺するケースは少なくない。

 しかし、今回の事件は自殺という自分自身に向けた殺意ではなく、攻撃対象が自分以外の存在、しかも上司=組織に対して公然と向けられたものだった。ここに、事件の異常性がある。

◆安倍忖度政治の暗い影
 日本では外国に比べてかなり治安がよいとされ、警察への評価も低くはない。だが、犯罪のグローバル化やIT時代を反映した特殊な犯罪が登場するなど、多くの問題に直面している。警察組織としてもより厳しい規律が求められ、様々な課題に積極的に対応してゆかねばならないはずだ。

 ところが今、その規律に大きく水をさす現象が、警察を取り巻く環境へ暗い影を落とし始めており、それこそが安倍内閣によって生み出された隠ぺい・追従(ついしょう)・忖度政治に他ならない。

 既に財務省・防衛省・厚労省、文科省などで明らかになった安倍内閣がらみの多くの問題は、政権というより国を蝕むところまできたが、じつは、警察も例外ではない。

 2015年、安倍首相に極めて親しいと言われている元TBS記者・山口敬之氏が、準強姦容疑で女性ジャーナリストから告訴された。1年以上捜査が続けられたが、警視庁刑事部長だった中村格氏が逮捕状の執行を止めたことが分かっている。警察幹部が安倍に忖度した事案のひとつと言われているが、懸命な捜査をつぶされた現場の警察官たちは、はらわたが煮えくり返る思いだったろう。

 ちなみに、中村氏はその後の人事で警察庁の組織犯罪対策部長へ出世し、さらに現在は警察庁長官候補が就任することが多い長官官房総括審議官に昇進している。まさに国税庁長官になった佐川氏同様、論功行賞ではないかと疑われる人事である。

◆危険度を増す警察
 森友問題や加計問題のように、特定の利権が国民に直接関わるわけではない。しかし、警察は個人を直接拘束できる法的権力をもった官庁であり、警察の最高幹部が時の権力者に忖度して犯罪を隠ぺいしたり、逆に犯罪を作ったりすれば、それこそ国民はたまったものではない。

 戦前の治安維持法や特高警察は無くなったが、特定秘密保護法が制定されて以来、きな臭くなってきた。こうした状況で、警察幹部による忖度捜査が公然と行われ、警察組織が安倍追従官庁となればどうなるか――。

 たとえ誤った指示であっても、階級制度の下での指示は絶対的な命令であり、絶対である以上、忖度も絶対となる。不正の隠ぺいはやり放題、逆らえば下手をすると檻の中へぶち込まれるといったことも起こり得る。やりたくなくても、やらされるのが階級制度――。プレッシャーに弱い警官が、再び銃口を組織に向ける事態を、誰がないと言えるだろう。

◆けじめを失った警察組織
 現職警察官による殺人で、多くの人の記憶に残る事件がある。1978年1月に東京・世田谷で起きた警視庁北沢警察署員による女子大生殺害事件である。現職警察官が制服着用で一般市民を殺害したという歴史に残る事案で、当時の土田國保警視総監が責任をとって辞任している。

 平成になって、現職警察官による殺人事件は主なもので5件。しかし、警察組織の最高責任者は、だれひとり引責辞任していない。警察官の殺人事件が当たり前になったため、いちいち辞めてはいられないということなのかもしれない。

 今回の事件でも、栗生俊一警察庁長官の発言は型通りの陳謝だけ。自ら責任をとるようなそぶりは、まるで見受けられなかった。安倍内閣がそうであるように、警察のトップも無責任なのだ。忖度政治が警察を蝕み、若い警察官に誤った道を歩ませるようなことがあってはなるまい。



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