マスコミの独自取材に基づく報道を「BAD NEWS」と決めつけ、市民の知る権利をないがしろにしていたことが判った福岡市。昨年8月からは、市職員使用のパソコンに閲覧制限を強化し、記者クラブ加盟社以外の配信記事や、市議らのブログまで制限対象に加える状況が続いており、行き過ぎた「情報統制」に市役所内部からも批判が根強い。
「息苦しい市役所」(40代・市職員の話)は、高島宗一郎市長が就任してからのこと。嘘かまことか県警出身の副市長を中心とする秘密組織の存在まで指摘されており、職員から「ゲシュタポ市政」との声が上がるほどだ。
そうした中、暗い市政を象徴するように、県警による過剰とも思える市長の警護が続けられていることが分かった。
福岡市役所で何が起きているのか――?
議場に警備の警察官
昨年来、福岡市議会の議場内に、厳しい表情をした男性の姿が確認されるようになった。市長警護の任に就いている福岡県警の警察官だという。現在、高島市長には警護の警察官が張り付くことが多く、市関係者の間から過剰警備をいぶかる声が上がっている。
市議会の傍聴席で、県警の警備担当が睨みを利かす状況はたしかに異常。市長周辺で何かが起きているとしか思えない。県に確認したところ、暴力団対策の先頭に立ってきた小川洋福岡県知事にも警護がついているが、議場に立ち入ることはないとしており、福岡市のケースが目立つ格好だ。
ある市議会関係者は次のように話す。
「傍聴席とはいえ、議場に警備の警察官が入っているという現状は異常だ。こんな話は聞いたことがない。市長に対する過剰な警備の理由について、何も聞いていないから分からないが、歴代市長の時代にはなかったことだ。(市長の)自宅周辺でも所轄署による警備が厳重になっているとも聞いている。下らないことばかりやってはいるが、高島市長が政治的に過激な組織、団体から狙われるような業績を上げたというわけでもない。暴追に熱心というわけでもない。一昨年(平成24年)に中国から800名の研修生を受け入れると表明した時に、右翼関係者らの糾弾を受けていたが、計画断念で懸念される状況ではなくなっている。警護がつくのは別に理由があるからだろう。市長に危害が加えられるような事態となれば、周囲の人間にも危険が及ぶ可能性がある。何のための警備なのか、市長も県警も説明すべきではないか」。
市長周辺の警備が厳重になっているのは事実。今年3月には市長専用車の後を走行していた地元メディアの記者が、市役所前で県警の捜査員に車を止められ、所轄署に任意同行を求められるという出来事があった。取材中であることを申告したため、ものの5分程度で解放されたというが、市長周辺が緊張状態にあることを証明する事例だ。
市議会関係者の話にもあったが、市長の自宅周辺も同様に厳重な警備が続いている。公用車が自宅近くに来ると、所轄のパトカーが周辺を巡回。その後、パトカーが自宅に横付けしたところで、公用車が滑り込んでくるという物々しさだ。この厳重警備の原因が分からないだけに、様々な憶測を呼んでいるのである。
高島市長が、暴追に不熱心であることは判っている。平成23年12月、暴力団対策法改正を実現するための法務大臣への要請が行われたが、小川福岡県知事や北橋北九州市長と並んで国に出向いたのは代理の大野敏久副市長。高島市長は、大阪にソーシャルビジネスの「調査」に行っていたのである。続発する暴力団による凶行に対応するため、暴力団対策法の抜本的改正に加え、通信傍受要件の緩和、おとり捜査、司法取引等の制度化といった暴力団に対する新たな捜査手法の早期導入を国に迫るための要請だったが、要請文に名前を連ねた高島福岡市長の姿がなかったことで、国会関係者からも呆れられていた。警備を強化しなければならないほど、暴追に力を入れている市長ではないのだ。議場にまで警護の警察官を入れる必要があるのだとすれば、前出の市議会関係者が言う通り、きちんと理由を説明すべきだろう。
暗い市役所の背景に副市長の存在
高島市長の就任後、福岡市役所の雰囲気が一変したと嘆く関係者は少なくない。正確に言えば、県警OBの大野大野敏久氏が副市長になった頃から、市役所全体が暗くなったというべきだろう。
福岡市においては、退職した福岡県警警察官の再雇用が年々増加しており、あまりの多さに市や県の関係者からも疑問視する声が上がっているほどだ。大野氏の副市長就任は平成23年。県警OBの天下り数は、その年から増え続けており、大野氏の采配を指摘する県警関係者もいる。
【県警OBの採用人数】
・平成22年度・・・60名
・平成23年度・・・64名
・平成24年度・・・72名
・平成25年度・・・77名
平成24年度に県警OBの市への再就職が8名も増えたのは、市役所内部の組織改編が原因。福岡市は同年4月、暴追運動の強化などに対応するため、市民局内に「生活安全部」を新設。初代部長に現役警察官を招くとともに県警OB5名を嘱託で生活安全課に採用したのである。通常、新設課を外部の人間ばかりで構成することはなく、これまでの福岡市では考えられない人事。大野氏の発案で固まった組織改編だったことは疑う余地がなく、一部の関係者からは「大野署」と揶揄する声が上がったほどだった。
大野氏の行動には、さらに問題がある。福岡市政絡みの報道で、市側に都合の悪い記事が出た場合、記事を書いた記者が大野副市長に呼びつけられ、長々説教されるのだという。事実だとすれば言語道断。報道内容に対し所管課が抗議するならまだしも、副市長がでしゃばる話ではない。
パソコンの閲覧制限や取材報告強化も、大野氏が副市長に就任してからのことだ。表向きの理由とは別に、職員の報道関係者との接触状況を確認し、情報を漏らした職員を特定するのに利用している可能性が指摘されている。
市役所内部の“警察化”は、高島市政が市民に背を向けている証左だ。隠ぺいやごまかしが常態化した福岡市にあって、県警OBの副市長が権力を握る状況はまともとは思えない。市長への過剰警備と、市役所の警察化が、福岡市と市民との距離を遠ざける原因になってはいないだろうか。