政治・行政の調査報道サイト|HUNTER(ハンター)

政治行政社会論運営団体
僭越ながら:論

山尾問題と「推定無罪」

2017年11月10日 09:55

 山尾志桜里衆議院議員へのバッシングが止まらない。弁護士との不倫疑惑で民進党を離党し、無所属で再選を果たした山尾氏が、件の弁護士を政策顧問に据えたことで再びたたかれる状況となった。山尾氏も弁護士も、不倫を否定している。だが、週刊誌や政権寄りのメディア、さらにはワイドショーに出演したお笑い芸人までが「(不倫ではないと言うなら)証明しろ」と迫る。男女関係の不存在を、どう証明しろと言うのか――。方法があるなら、教えてもらいたい。
 当事者が否定していることを、証拠もないのにしつこく追いかけ、自白を迫る日本の社会。“推定無罪”の原則はどうなってしまったのか? 

■悪魔の証明
 「悪魔の証明」という言葉がある。「存在しないこと」「やっていないこと」「なかったこと」の証明を意味しており、事実上、証明が困難なことを指す。不倫―すなわち男女関係の有無は、当事者が証言するか、証拠写真でもない限り、証明することはできない。

 山尾氏も不倫相手とされた弁護士も、「男女関係はなかった」というのが公式見解だ。一方、山尾氏の不倫疑惑を報じた週刊文春やワイドショーの出演者たちは、「ホテルやマンションに二人きりでいた。どう見ても不倫だろう」として、山尾氏を厳しく批判する。ワイドショー番組でコメンテーターを務める東国原英夫氏は、山尾氏が件の弁護士を政策顧問にしたことについて、厳しい意見をツイッターに投稿。「不倫ではないと言うのなら証明しろ」と主張し、「週刊誌を舐めるな」という脅しまでかけていた。この人、一体何様なのか。

0-東.png
0-東2.png

 東国原氏だけでなく、ワイドショーに出てくるお笑い芸人や司会者まで「(不倫がなかったことを)証明しろ」の大合唱。しかし、彼らに、そこまで他者に厳しくあたる資格があるとは思えない。ホテルやマンションに一緒にいたという状況証拠だけで、クロと断定することはできないからだ。公人相手とはいえ、言いたい放題は許されまい。

■冤罪事件と同じ構図
 警察や検察による冤罪事件が起きるたび、週刊誌はもちろんマスコミは捜査当局や司法を厳しく指弾してきた。しかし、“逮捕”の時点で、容疑者を事実上の犯罪者として扱かっている自分たちの罪に真正面から向き合ったメディアがあったのか。「推定無罪」が司法制度の原則なら、例外はないはず。マスコミやタレントに、無罪を主張する人間を追い込む資格などない。

 最近、別々のテレビドラマの中で、「最近の日本は『推定無罪』ではなく、『推定有罪』」といったセリフを2度も聞いた。不倫を報じられた人をはじめメディアに疑惑を持たれた人が、あたかもクロであるかの如く扱われ、追い込まれていく状況を「おかしい」と感じている人たちがいるということだ。ネット上で濡れ衣を着せられ、窮地に陥る人も後を絶たない。司法の場外で、判決を下すことが当たり前の世の中になっているのは確かだろう。

■はしゃぎ過ぎの「文春」
 山尾氏についていえば、民進党離党時の記者会見での姿勢に、問題があったことは事実だ。質問に答えず会見場を去ったことは、当然批判に値する。だが、それと不倫のある・なしは別問題。疑惑を持たれた山尾氏と弁護士の間に男女関係がなかったとしたら、どうなるのか?おそらく、誰も責任を取れずに終わるだろう。

 山尾氏の問題を最初に報じたのは週刊文春。「文春砲」などともてはやされてきるが、同誌が手掛けてきた“スクープ”で、「すごい」とうならされたのは甘利明元経産相の収賄疑惑くらい。あとは、有名人の下半身スキャンダルばかりだ。つまりは下ネタ。新聞が絶対に手を出さないネタで、販売部数を伸ばしているに過ぎない。のぞき趣味的な記事に踊るワイドショーが、同じ方向を向いていることは言うまでもない。

 文春の“はしゃぎすぎ”も感心しない。衆院選の投開票日、再選を決めた山尾氏の選挙事務所で、同誌の記者が山尾氏に不倫疑惑についての質問をぶつけたという。周りは山尾氏の支持者ばかり。非常識であり、まともな取材活動とは思えない。衆人環視の中で場違いな質問をしたのは、ただ目立ちたかっただけ。やるなら、安倍首相の選挙事務所や自民党本部で、加計や森友の問題を首相か昭恵夫人にぶつけてみればよかった。どうせ、そんな度胸はあるまいが……。

■追及すべきは森・加計疑惑
 状況証拠だけで考えるなら、森友・加計疑惑の方がよほどクロに近い。国政が歪められ、税金が無駄に費消された可能性がある問題なのだ。しかし、公人に等しい首相夫人は公の場での釈明を拒否、首相も「謙虚に」「丁寧に説明」という約束を果たしていない。それどころか、国会論戦での野党の質問時間を減らせと指示しており、言行不一致は明らかだ。報道機関であれワイドショーであれ、安倍首相本人や昭恵夫人を、もっと厳しく追及すべきだろう。そもそも、唐突な衆議院の解散は、森・加計疑惑の追及を逃れるため。この国最大の権力者の方が、はるかにタチが悪い。状況証拠がそろっている上に公文書を隠すという証拠隠滅、さらには事実上の証言拒否――。どちらが社会にとって害になるか、子供でも分かる話である。繰り返すが、「推定無罪」がこの国の原則だ。不倫を否定する人物を追いかける暇があるなら、権力者を追い詰めるのがマスコミの使命だろう。



【関連記事】
ワンショット
 永田町にある議員会館の地下売店には、歴代首相の似顔絵が入...
過去のワンショットはこちら▼
調査報道サイト ハンター
ページの一番上に戻る▲