来年秋の福岡市長選に向けて、高島宗一郎市長と“与党会派”である自民党市議団の駆け引きが続いている。
高島氏が約25万6,000票を集め他候補を圧倒した平成26年の市長選以来、冷戦状態の同氏と自民党市議団。福岡空港の新事業者に対する出資問題で対立が激化していたが、今度は市長側が打ち切りを通告した予算などの事前説明を巡り、地元紙「西日本新聞」を巻き込んでにらみ合う事態となっている。
(写真は福岡市役所)
■新聞記事に過剰反応
今月8日、西日本新聞朝刊の紙面に「高島市長側 自民に軟化」との見出しを打った記事が掲載された。記事は、空港問題での対立から市側が一方的に打ち切り通告した予算や議案の「事前説明」の復活を、副市長が市議団側に申し入れたというもの。市長サイドによる市議団との関係改善を模索する動きだとして、一連の経緯を報じていた。(下が、西日本新聞8日朝刊の紙面)
この記事に、過剰な反応を示したのが市長周辺。関係者の話によれば、「こちらから持ち掛けた話ではない」として西日本新聞に噛みついたのだという。市長側の言い分は、“話を持ってきたのは自民党市議団”。市長から歩み寄ったのではないという訳だ。当然、事前説明の復活話は立ち消えとなっている。
一方、自民党市議団はいたって冷静。一部議員は、「事前説明を復活させるのなら、会派に対し正式に伝えに来ればいい」と強気の構えだ。ある自民党関係者はこう話す。
「市長に近い議員と副市長が開いた懇親会で出た話。どちらから持ち掛けた話であろうと、事前説明の復活を市長がOKしていたのは確かだろう。副市長の独断で運べる事案ではないからだ。西日本新聞の記事の見出しを見て、市長が『冗談じゃない』と怒ったのではないか。プライドの高い人だけに、自分からすり寄ったと見られるのは我慢ならないはずだ。こうなるとメンツの問題。市議団にしても、こちらから復活を申し入れたとは言えない」
■深まる対立
雪解けかと思われた、市長と自民党市議団との関係。事前説明を巡るドタバタで、溝は深まるばかりだ。来年秋は市長選。自民党市議団が、これまでどおり「高島推薦」に同意するかどうかに注目が集まる。対立の構図が解消されなければ、市長の再選戦略が大きく狂うのは確かだ。
市長と自民党市議団との確執が表面化したのは、平成26年。議会を無視して事を進める市長の態度に業を煮やした市議団の一部が、市長選での党推薦に難色を示したことに始まる。対立候補の応援に回る市議もいたほどで、この時から両者の間にすきま風が吹く状況となっていた。
市長選直後に行われた総選挙では、市長が市議団の制止を無視して分裂選挙となった福岡1区の井上貴博氏(自民)を支援。顔をつぶされた形の市議団は怒り心頭で抗議文を突き付けたが、市長はこれも無視し、両者の関係は「修復不能」(市議会関係者)と言われるまでになっていた。
両者が戦闘状態に入ったのは今年。前哨戦となった2月初めの請願審査では、市長派市議3人が紹介議員となって提出された公園の再整備に関する請願を反市長派が中心となって不採択にし、与党会派が市の方針に公然と異を唱える事態に。一連の騒ぎを受けて、市長派と見られていた3人の市議が自民党会派を離脱するなど、混乱の度を増していた。
そして空港民営化への対応。福岡空港ターミナルビルを運背する第3セクター「空港ビルディング」の株式売却益を、空港の民間委託に伴って発足する新事業者に“出資しない”とする高島市長。これに対し、“出資すべき”と主張する自民党市議団が、出資しないことを前提とした市の条例案を野党会派と組み否決した。その後、自民などの賛成で可決された出資を促す条例案を、市長が「再議」で否決。市長側の勝利で終わったものの、両者の対立は決定的なものとなっていた。それでも強気を崩さぬ高島市長。自民党市議団は、足並みの乱れを見透かされている。
■自民市議団の現状
自民党市議団は一枚岩ではない。内情は親市長派、中間派、反市長派がそれぞれ数人ずつ。市議団のトップは、親市長派の元議長だ。幹事長は反市長派。微妙なバランスの上に、自民党の看板が乗っかっている。事前説明の話に絡んだのは、市長に近いとされる議員たち。会派の意見を集約する前に「復活」の経緯が報道されたため、かえって市長との関係をこじらせる形となった。
■早くも次の候補探し?
悪化した自民党市議団との関係だが、「修復したい」というのが市長の本音だろう。来年秋の市長選に向けて、予算をはじめとする議案を通すためには、最大会派の同意が必要。自民党を敵に回すことで、議場での立ち往生が増えるほど、票が減るのは確実だ。加えて、密接な関係を保ってきた安倍晋三首相は、加計学園の獣医学部新設疑惑でフラフラ。「一強」は、過去の話になっている。再選を目指すには、組織票を固めるしかない状況だ。
観光や戦略特区にうつつを抜かし、市民の暮らし向きには目もくれない市長にとって、地域に強固な後援会組織を持つ市議たちは、やはり貴重な応援団。自前の後援会組織を持たない市長にとって、自民党市議団との関係修復は、3期目への絶対条件となりつつある。それでも、メンツにこだわる高島氏――。自民党関係者の間からは、物騒な発言も出始めている。
「来年の市長選で、自民党市議団がまとまって高島を推すことはない。早い段階で、自前候補を探すべきとの意見もある。とにかく、高島ではダメ。市政を私物化する人間に、これ以上福岡市を任せるわけにはいかない」
■秋から選挙モード
11月になれば市長選まで1年。選挙モードに突入することは必定だ。自民党市議団は、いずれかの時期に高島再選か新たな候補かの選択を迫られることになる。ただし、高島氏を増長させたのが自民党市議団であることも事実。「与党会派」を言い訳に、市長の極端な議会軽視を容認してきた責任がある。
最大与党と事を構えたまま市長がどう動くか目が離せない状況だが、新聞記事に目くじらを立てるようでは、再選はおぼつかない。